ミュージカル『王様と私』 梅田芸術劇場公演 観劇
5月4日に大阪公演初日を迎えた『王様と私』シャムの国王には今回がミュージカル初挑戦となる北村一輝さん、家庭教師のアンナの役には元宝塚歌劇団花組主演男役の明日海りおさんが迎えられる。
物語はシャム(現タイ)を目指し船に乗るアンナの姿から始まる。ふわふわのドレスに身を包んだ明日海りおさんの登場に客席では一斉にオペラグラスが上がる。この描写にセリフはなく、動きだけで、新しい場所を目指すアンナの心情を表現する。
さらにアンナがシャムに到着すると、そこには凝り固まった風習の中を生きるシャムの国民たちが登場する。貢物として簡単に女をやり取りし、国王にひれ伏す姿にアンナは疑問を募らせる。その頂点に立つのは、北村一輝さん演じるシャムの国王である。近代化を進める国に比べて少し知識や考えは劣るものの、王として誇り高く君臨し、立派に国を導いていこうとする強い意志が感じられる。そんな王を前にアンナは対等に間違いを正そうとする。その姿は、シャムの国の中では風変わりでありながら、アンナの持つ強さと優しさ、明るさがシャムに住む一人一人の心を掴んでいく。
国王もまた例外ではない。いつものような言い争いも、物語中盤を迎える頃には子供同士の喧嘩のように、見ていてクスリと笑ってしまうような愛らしさを含む。心を通わせ始めた二人が踊る「Shall we dance?」では、その洗練された清らかな空気感が客席を感動で包む。
しかし、物語はそれだけでは終わらない。間違った風習を正すためなら一歩も引かないアンナと、国を守る立場としてのプライドを持つ国王。自分の決定一つが国を揺るがすことを知っている国王は、時にはその心に嘘をつき、冷徹にならなければいけない。そんな二人の想いは再びすれ違いを迎える。
どんなに激しく意見をぶつけ合っても、どこか愛らしく憎めない国王とアンナ。そんな二人がたどり着くエンディングには、客席から啜り泣く声も漏れる。
家庭教師としてアンナが伝えたもの、そして国王がアンナから受け取ったものが最後に花開くまで見逃し厳禁の圧巻の舞台であった。
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