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オフィスから月を見た。

3年前、月食を見た日。
私はオフィスで残業していて、タイミングを見てそっと抜け出して、1人で束の間の天体ショーを見ていた。

あまりにし神秘的で楽しかったので、残業している他のメンバーに「ねぇ見て!月食はじまってるよ!」と言いたかったのだが、運悪くその日、他の部署で大きなトラブルが発生し、オフィスの空気が死んでいたため、私は声をかけることができなかった。

「同じ空間にいる人達と、同じものを見て、キレイだねとおしゃべりをする。」

「仲良し」のするそれが、私の憧れであり、望みだったが、あの日はそれがどうにも叶わなかった。


会社って、不思議な空間だ。

家族より長く一日を一緒過ごしているのに、私はみんなの誕生日を知らない。年齢も、血液型も知らない。関わり過ぎると迷惑かなと思って、プライベートなことをできるだけ聞かないようにしてきた。どこに住んでるんですか?とか、どこ出身なんですか?くらいしか聞いたことがない。

私自身も、あんまり根掘り葉掘り聞かれるのが好きじゃないし(複数人で会話中の正解の答えがいつもわからないため)、こうして数年近く今のメンバーと仕事をしているけど、誰かが辞めて行くたびに、本当に私はみんなのことを何も知らないんだなと思う。

「実は結婚するんです。」と、送別会で聞いた時は、
「そんなめでてぇことなんで早く教えてくれなかったんだよ!」と思ったけど、
今まで彼氏がいるとか一緒に住んでるとかの話すら聞いたことがなかったし、触れてはならないものだと思ってノータッチで過ごしてきたから、そりゃ言われなくて当然だった。

「国に帰ることにしたんです。」と、辞める2週間前に聞いた時は、「どうした?!なにがあった?!てかいつから日本で働いてたの?そこから教えて!」と思った。

2人ともとっても仕事ができて、優しくて、明るくて。私の大好きな後輩だった。

お世話になったし、送別の品でも贈ろうと思ってギフトを探していたら、
こんな別れ際にプレゼント贈るくらいなら、なんでもない日に「いつもありがとう!」ってプレゼントを贈ればよかった、と気付いてしまい、バカみたいだが涙がツーーと溢れてきた。

誕生日もクリスマスも、きっとみんな個人の予定があるだろうから、そういう日は別に好きな人と過ごしたらいいけど、
何にもない、いつもの毎日の中で、いつもありがとうねとか、いつもお世話になってるぜとか、今日は大安吉日だから、とか、口実はなんでもいいから、そういうプレゼントにお金をかけた方がずっとずっと良かったんじゃないか。こんな別れ際に渡す感謝よりも、何でもない日に形にする感謝の方が、ずっとずっと嬉しいのではないか。その方が仲良くやっていけたんじゃないか。
そして、その方がきっと、仕事が楽しくできていたんじゃないだろうか。

そんなことを思ったらなんだか悲しくなってしまい、ギフトボックスのラッピングに涙が落ちないように、ぎゅっと荷物を抱えた。


退職する彼女の最終出勤日、
荷物の整理が終わって、会社を出るよというタイミングで、すでに時間が遅くなっていた。

窓の外を見たら、大きな満月が嘘みたいにキレイに浮かんでいて、思わず「ねぇ、見て見て、月がキレイだよ」と、私は言った。

彼女が「えー?!ほんとだー!マンガみたい!」と言って大きな声で笑ったので、残業組のみんながゾロゾロ集まってきて、「ほんとだ」「今日スーパームーンらしいよ」「すごいね」「いつもより月近くない?」と、
ボソボソ、キャッキャ、みんなそれぞれのリアクションをして、「綺麗ですね」と言った。


コレが、

コレがしたかったんだよ〜!!!(喜)

同じ空間にいる人達と、同じものを見て、キレイだねとおしゃべりをする。それは、私にとって憧れの行為。

会社のみんなと、コレをしてみたかったんだよなと思い出した。
数年前叶わなかった夢が、今日やっと叶った。

会社の人と月を見た。
きれいだねーと話をした。
本当にそれだけ。笑

それだけなんだけど、なんだかすごく満たされた気持ちになった。

私はみんなのことをあんまり詳しく知らないし、どんな趣味で、どこの誰と住んでるかも全然しらないけど、

いつも遅くまで頑張って働いてる姿を知っているし、責任感持って業務を担当してる姿も知ってる。怒りたくもなるような出来事があってもグッと我慢して仕切り直すかっこよさも知ってるから、当然のようにみんなのことが大好きなんだよ。

だから、そういう大好きなメンバーと、
おっきい満月見て、みんなで綺麗だね〜っておしゃべりできて、それだけですっごく嬉しかった。幸せだなぁ、と思った。 
自分には仲間がいるなぁと思えた瞬間だった。


令和の距離感、最適解

会社の飲み会やイベントには極力参加したくないし、ゴルフなんで死んでも参加したくないけど(複数人で会話中の正解の答えがいつもわからないため)、

一緒に働いているメンバーのことが大好きだし、大切に思っている。

プライベートな連絡先は誰1人知らないし、知らなくていいとハッキリ言える。
それでも信頼関係は十分に作れるからだ。

昔はよく、目上の人に酒を注げ、食事に行け、ゴルフに付き合え、などとよく言われたが、
そんなものはしなくていい。とにかく仕事をしろ。純粋に、仕事をするのだ。
すればわかる。通じ合える。同じベクトルで頑張ってる人同士は確実に通じ合えるし、認め合える。
働いていれば、この人は視野が広いなぁとか、この人は交渉が上手いなぁとか、この人は絶対部下を守るなぁとか、必ず見えてくる。嘘つきだなぁとか、適当だなぁとかもちゃんとわかるし、一緒に酒なんか飲まなくても、ちゃんと働いていれば絶対人となりはわかるし信頼関係は作れる。

飲みニケーションは不要。
個人の連絡先を聞くのも不要。
ボディタッチも不要だし、不必要にプライベートな質問も不要。

全然不要でいい。むしろ不要がいい。
それでもこんなに人のこと大切に思える。
令和の距離感は、これが最適解。

時々休憩中におやつ交換するくらいでいい。
残業した日に一緒に月を見るくらいでいい。
会社のメンバーのは、それくらいの距離感で働いていきたい。

家族より長い時間、1日を一緒過ごしているメンバーだからこそ、
適切な距離感で、
ほどほどに楽しく、
時々感謝を伝えながら、
末長く、良い関係で過ごしていきたいと思った次第。

オフィスから月を見た。
みんなで一緒に月を見た。
今日の嬉しさを、私はきっと忘れないと思う。

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