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動物の言葉「翻訳機」

動物の言葉がわかる機械を開発した。

博士は動物が大好きだった。
博士になるか獣医になるか迷ったくらいだったが、動物と喋れるようになれば獣医の仕事も楽になると考え、博士になってこの機械を開発したのだ。

早速、飼っていたチワワに試してみたら
「またこのメシかよ、トップバリューはパサつくぜ」と開口一番に文句を言われた。
散歩中に会った猫には「ケ〜ッ、お前の手ってごま油のニオイする」と鼻で笑われ、もっといい言葉が聞きたくて動物園に行ったら「ここから出してくれ」とか「故郷の雪が恋しい」とか「俺は躁鬱病だ!」とか、聞きたくないような言葉のオーケストラが待ち構えていて、博士はしょんぼりして帰ることになった。

この機械はきっと売れない。
30年の月日をかけて作ったのに、きっと世間はこんな動物の声など聞きたくなかったと言うだろう。そうしたら僕は奨学金すら返せないまま、死ぬまで六畳一間の安アパート住まい。そんなのゴメンだ。

だから「翻訳機」を作った。
動物の言葉がわかる機械の「翻訳機」だ。指定されたワードを独自の機能で翻訳してくれる。
「キライ」は「しゅき」に、
「やめて」は「ぷんすこ」
「死にたい」は「そんな目で見ないでぇ♡」と訳される。
挙句、不味いも美味いも「おいし〜!」と翻訳して、最高も最低も「サイコー!」と翻訳することにした。

そのおかげで、動物はみんな「昔のぶりっ子女子大生」みたいになった。

「ここから出して」と言っていたアフリカゾウは、「たまにはバカンスとか行きたいよねぇ」とか言って笑いを誘い、
「故郷に帰りたい」と言っていた白熊は「私をスキーに連れてって♡」と翻訳されたおかげでCMのリバイバルに採用された。
「俺は躁鬱病だ!」と檻の中を行ったり来たりしていたオラウータンは、「やぁやぁみなさん!はじめまして!見ない顔だな〜、おっ、そこの右から2番目のお姉さん!美人だね!」と某ネズミのキャラクターみたいな声で翻訳されて、動物の意思とは全く関係のない言葉の羅列が「翻訳」された。


聞きたい言葉しか出てこない、おかしな翻訳機は馬鹿みたいに売れた。世界中の人が動物を笑い、面白がった。
博士は奨学金を返済し、豪邸に住み、広い庭も作ったけど、動物を飼うことは二度となかった。広いリビングでコルビジェのソファに座った博士は呟いた。「これで本当に良かったんだろうか。」


すると翻訳機は答えた。
「そんな目で見ないでぇ♡」

このお金で一緒に焼肉行こ〜