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拝啓、10年後の私。


2022年1月1日。24歳の自分から手紙が届いた。

愛知の明治村に旅行した時、10年後の自分に手紙を届けるというポストがあって、そこで書いたものらしい。

綺麗な白い封筒に、確かに自分の字で自分の宛名が記してある。自分で言うのもなんだが「こんな綺麗な字だっただろうか?」と思うほど、丁寧に書いたことがわかる文字だった。

私は20〜23歳頃まで引きこもりをしていた。ような気がする。正確には忘れた。
24歳の私は実家の近くの花屋でアルバイトをしていて、お金を貯めてまた東京に行きたいと思っていた。ような気がする。正確には忘れた。
この頃のことをあんまりよく覚えていない。

20錠近く精神安定剤を飲んでいたので頭がぼんやりしていたのかもしれない。薬を少しずつ減らして、世の中と関わりたいと思うようになって、週2で働き出そうとしたら人手が足りなくて週5で働くことになり、そのまま数年花屋で働いたような気がする。
正確には忘れた。


ガチガチに閉ざしきった心に、花の美しさは結構効いた。
毎朝届く大量の段ボールの中から、結婚式用のお花を開けて、バケツに入れる。毎日毎日ブーケを作る。花束を作る。ラッピングする。

それだけの日々。田舎の最低賃金。それだけの日々だけど、周りに綺麗なものが沢山あると、それだけで少し楽しかった。全ての生き物からこの花の香りがしたら良い、と思った。そうしたらきっとすべてを愛せるのに。みたいなことを思った気がする。この頃の私は人と話すのがとにかく嫌で、人間のにおいが怖かった。野生動物ばりに人間の香りに敏感だったから、花屋で1人コツコツブーケを作って働くのは、結構性に合っていたように思う。

働いてるうちに、段々人と話す距離感とか、会話の間とかを理解し始めて、あー、大丈夫、こうやって話せば大丈夫、みたいなコツを自分の中で確立していくうちに、いつしか「外に出たい」「自立したい」と思うようになり、24歳の冬、私は引きこもりを卒業した。(ような気がする。)

まぁ、自立したいという気持ちの8割は、オタクとしてオタクらしく生きたいという衝動に近かった気がする。(鬼畜眼鏡とラッキードッグをプレイしてから私の人生は紀元前、紀元後、みたいな大きな分かれ道となっているから…)




そんな思い出の24歳。
私は10年後の自分に何を書いたんだろう、とドキドキしながら手紙を読んでみたら、

つまらないくらいクソ真面目でありきたりであまりに優しすぎる手紙が入っていて、てめぇ何書いてんだ?!?!?!?!本当に20代の女か?!?!とびっくりした。


要約すると、
「周りの人に優しく出来てますか?
感謝の気持ちを忘れずに、
自分に素直に生きていて下さい。」

みたいなことが書いてあった。


は?????
おもんなーーーーー(白目)


ギャグのひとつもねぇのか?!?!昔の同人誌のあとがきみたいな自分語りもっと書いとけやヴォケ!!と、憤りすら感じた。


「海外には行きましたか?
結婚はしましたか?
多分してないと思います。」


は????
中国とグアムは行ったがコロナで全然行けてないが???

結婚もしたし離婚もしたが????
してないと思いますだと????
したわ、己のポテンシャルをなめんな(怒)



なんてことだ、とひどく落胆した。


10年前の私はひどく純粋だった。
ひどく純粋でクソ真面目で繊細で、人生を堅苦しく捉え過ぎていると思った。文字の一つ一つからそれが読み取れる。お前の右手はワープロか?綺麗な文字を書くことより、伝えたい思いを紙にぶつけろ、パッションが足りねぇ、お前の生命力はその程度か?????

結婚したかしてないか、が大事なんじゃねぇ、幸せか?楽しく生きてるか?が大事なんじゃこのボケが、20代だぞ、その有り余る若さを噛み締めて楽しく生きろ、無駄なことをしろ、無駄なことこそ人生を豊かにする、勉強なんかすんな、道草をしろ、知らない植物を食え、知らない場所へもっと行け、迷子になれ、そして出来るだけ無茶をしろ、家じゃないところで眠って起きて、好きな男でも好きな女でも探せ、そしてフラれろ、蒙古タンメンをしこたま食え、流行りのスイーツも1日3食食っておけ、しょうもない事に全力を出せよ、お前まだ20代だぞ????なんだこの渋いばあさんの書いたようなつまんねぇ文章は。


ひとしきり自分の手紙を罵った後、この頃の自分は本当に生命力がなかったんだなぁ、と実感した。
今こうして罵っている時の方が、身体中からエネルギーを感じるし、カロリーが消費されていることを感じる。つまらなすぎて自分に失望して、はぁぁぁ????と叫んで500カロリーくらいは今消費した気がする。

怒りを怒りとして表す術がある今の私は、こうして文字にして怒りを伝えられるが、
あの頃の私は心を閉ざし過ぎて、自分の感情すらわからなくなっていたんだなぁと、改めて理解して、なんだか不思議な気持ちになる。

10年前の自分は、もはや別人だ。


そしてそれと同時に思った。
「これから先10年後の自分は、はたしてどうなっているだろうか。」



白状で軽薄な私のことだ、どうせまた別人になっているかもしれない。

クソ真面目で優しすぎる私のことだ、いい意味で何も変わらず、懲りずにまた誰かを愛しているかもしれない。

この10年でパワーアップした私のことだ、明るく楽しく「なんてことない日々」を爆走しているかもしれない。


BLを知ってから、私はオタクを満喫したくて
家を出た。今も東京にいる。

10年後はまた別の扉を開けているかもしれないし、相も変わらずオタクをしているかもしれない。

ただ、あの日画面の中でみた鬼畜眼鏡の舞台みたいな高層ビルで働いてる自分のこと、割と気に入ってるし、
あの日衝撃を受けた、ラッキードッグのジャン・カルロ・ブルボン・デル・モンテ役のはちゃめちゃにかっこよくてえっちな声の声優を未だに推している。
なんなら大炎上してるけど未だに応援してるし、そういう自分のことを、しょうもないな…と思いながらやっぱり割と気に入っているので、
10年後の自分も、どうかそのまんま、自分のことを気に入っていて欲しい。


歳をとってボディにガタが来ても、死にたいなんて思わないで生きていて欲しい。
シワが増えた目尻も、カサついてきた手のひらも、お気に入りの美容液とか、好きな花の香りのするクリームとか塗り込みながら愛でてやって欲しい。
年取ることさえ楽しんでいて欲しい。
沢山笑って、笑わせて、時々笑われたりして、どうか人と関わることをあきらめないでいて欲しい。


10年後の自分、
あんたが何してるかはわからないけど、34歳の私は結構毎日楽しいよ。34歳になっても蒙古斑は消えないし、バツイチだけどショッキングピンクの服着るし、この前はドラァッグクイーンみたいなシルバーのシャツも買った。希望通り今もオタク楽しんでいるよ。何一つ遠慮するなよ、やりたいことに挑戦して、欲しいものは買いな、そんで要らないものは丁寧に捨ててやりな。


これ読んでるみんなもそうだよ。
全人類、今年も一年、全力で楽しんで生きような。
2022年は今年だけ!!!
最高の2022年にしてやろうな!!!!!!!



2022年1月3日の私より。
東京へ向かう新幹線の中にて

犬飼いたい