人生の季節
抱え切れぬ想いを突然抱えなくてはならなくなるという、つまり生きていれば人生の中で大嵐が時々やってくることがある。
それは人生に季節があるとしたら、真冬。
雪が巻き上がり、ホワイトアウト、視界が見えない状況のような。
とにかく生き物は動きを止め、ひたすらに春がくるまで堪える厳しい季節。
母は昨年のちょうど今頃、具合が悪くなり始めた。
母は7月頭、余命ひと月と宣告された。
宣告されても、本人は全く飲み込めていない。
「なんて言われたんだっけ?」
そんな具合でぼんやりしている。
誰もいなくなった病院の待合室にしばらく座り、
母に投げかける言葉はなかった。
「水を買ってくるよ」
そう言って、院内コンビニのある方向に
向かおうとするが、一瞬場所がわからなくなった。
2本ミネラルウォーターを買い戻ると、母は相変わらずぼんやり座っていた。
雨の日だったと思う。
いつも雨の日に着ているレインコートだった。
「あとは全部任せろよ。」
そう言って肩を叩いた途端、母の目から涙がこぼれた。
それから怒涛のような日々を送った。
そして8月のお盆の真夜中、母は逝った。
真夏なのに。
真冬の大嵐。
じきに過ぎ去ると思った大嵐は一年経った今でも過ぎ去ることなく、真っ只中にいる。
泣くことも悲嘆に暮れることもなく。
ムシムシと真夏の陽気になったこの頃も、
相変わらずいまも真冬の厳寒期は続いている。
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