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声の魔法!🪄vol.11 滑舌を改善する②

鍛えるべきポイントは早さではない

前回投稿はこちら。

前回は滑舌の前にまず発音をチェックしてみようということで、発音の誤りに関する聞き取りにくさや話しづらさの説明をしました。

「自分に発音の問題ない! 悪いのは滑舌!」

そう言い切れるあなたへ。しつこくて恐縮なのですが、その他の問題も確認しておきましょう。これまで紹介してきた、声の高さ・硬さ・大きさ・速さ・呼吸・共鳴。これらを総動員しているのがあなたの「声」です。声のどこにも問題がなく、改善すべき点は滑舌だけ、という方は、実はそれほど多くないと、以前も申し上げました。

その上で、「やっぱり滑舌を改善したい」、あるいは「プロを目指しているのでより良い滑舌を身につけたい」という方へ。わかりました。滑舌という敵を打ち倒すための最強の魔法をお教えしましょう。

滑舌を改善する、たったひとつの方法

「土台」と「技術」を鍛える

滑舌をよくしたいなら注目すべきは2つ。「土台」と「技術」です。この2つを鍛えることが滑舌改善のためのたったひとつの方法です。

土台とは、音を出すための器官のこと。舌と唇のことです。なお音を出す器官は日本語の場合、ほかにもあるのですが、こと滑舌に関わるのは舌と唇ですので、ここではその2つに注目します。

舌は口の中で縦横無尽に動きます。舌そのものは筋肉の塊です。そしてそれを神経が動かしています。いい滑舌とは、この土台となる舌が十分な筋力を持った状態であり、それを自在に動かせるだけの技術=巧緻性(こうちせい)を備えていることが条件です。

舌の筋力の話でぴんときた方もいらっしゃるかもしれません。前の章で述べた、筋力不足から起こる口腔機能発達不全症という症状。十分な筋力がないとクリアな発音が難しく、全体的に軽い話し方になってしまうと言いました。土台となる舌や唇の筋力が不足している状態では、いい滑舌には決してなりません。

また、こちらも前回紹介した舌小帯の話。短めの人は舌の動く範囲が狭くなるためにクリアな発音が難しく、滑舌が悪いように聞こえてしまいます。

しつこいようですが、今一度自分の舌の状態を確かめることが大切です。

舌の筋力や状態に問題がないとなれば、あとは技術=巧緻性を鍛えることになります。みなさんよくご存知の早口言葉や滑舌練習がそれに当たります。

ここで、誤解されやすい早口言葉の練習方法を先にお伝えしておきます。早口言葉は早く言う必要はまったくありません。大切なのはゆっくりでいいので、舌を適切な位置に当ててクリアな発音をすること。そのクリアな発音から次のクリアな発音への動きを、土台となる舌に正しく覚えこませ、技術的に滑らかに移行させることです。

滑舌を改善するためのポイント①クリアな発音

再び発音の話をします。少々面倒な説明になります。

言いにくい早口言葉として「なまだら・なら・なままながつお」という例をあげましょう。

この言葉の発音について、舌や唇のどの部分を使っているか、音声学という学問をもとに解説すると、下の通りになります。

舌や唇などを使う位置と、動かし方が一音ずつ違う

なお、この図を理解する必要はありません。舌先や奥舌や唇がめまぐるしく入れ替わり、かつ動かし方も様々なんだなという感想を抱く程度で大丈夫です。

何が言いたいかというと、これだけ高度な運動を口の中で繰り広げているということ。滑舌は運動です。巧みな運動をするためには、その運動を反復練習するしかありません。劇的な魔法ではなく、地道な努力がやがて魔法を起こし、改善へとつながります。敵を倒すには地道なレベル上げが必要なのと同じです。

早口言葉は早く言わなくていいと言いました。練習のときに注意すべきは、一音一音確認しながら行うこと。この一音が崩れた発音になれば、当然綺麗な滑舌にはなりえません。楽器で超絶技巧の曲を演奏するとき、一部だけを取り出して、初めはゆっくり、何度か繰り返し、徐々に早くして最後につなげる、という練習の仕方があります。滑舌も同じです。早く言う練習は最後の最後。舌や唇がどう動いてその音が出ているのか、まずは確認するところから始めましょう。

滑舌を改善するためのポイント②リセットと構え

滑舌は運動です。一音出したあと、次の一音を出す間に、舌や唇を次の音へと移行させます。この移行時の失敗が滑舌不良となります。正しい位置に舌を置き、正しい動かし方をしなければならないのに、それができなかったということです。

なぜこんな失敗が起きるのか。よくあるのは「似た音にひきずられる」ということ。先の例文で言えば「なまだら・なま」→「なまらら・なだ」となることがありえます。

音が似ているというのはどういうことなのか。「ら」と「だ」の音を例に解説してみましょう。上の図の説明を抜粋すると、以下のような違いが見えてきます。

「ら」:舌先+弾き
「だ」:舌先+破裂

どちらも舌先を使って出す音ですが、舌の動かし方が「弾き」と「破裂」のように違っています。「ら」は舌先を軽やかに弾かせる音ですが、「だ」は舌先を強く押し当て、まるで風船が割れるときのように一気にぱん!と空気を解放する音です。舌先の微妙な力加減が違うのです。一方で2つとも舌先を使う音ということで、この2つは「似た音」グループに入ります。逆に似ていない音というのは「ら」と「が」のように、使う位置も動かし方もかぶっていない音です。早口言葉の練習でこの「ら」と「が」を混同させるような間違いはほとんど起きません。似ていないから間違えようがないのです。

この理論が頭の片隅にあると、間違えやすい箇所がわかってきます。少々頭を使う魔法ですが、プロを目指したいというような方はおぼえておいて損はありません。

長い解説になってしまいましたが、ではどうすれば似た音が続いても綺麗に言えるようになるのかという本題です。

「なまだら」→「なまらら」となるとき。3つ目の音が「ら」に変わっているわけですが、これは後ろの「ら」の音に引きずられていると考えることができます。先走ってしまった感じですね。では「なまだら」→「なまなら」と変わったとしたらどうでしょう。同じく3つ目の音が変わっていますが、これは前の「ま」の音に引きずられてしまっています。「ま」と「な」は、それぞれ唇と舌先を使う音という違いがありますが、どちらも鼻に抜ける音という共通点があります。似た音グループです。似ているから間違う理論ですね。

このように前後の音に引きずられるとき、リセットと構えがうまくいっていないと考えることができます。滑舌はある音から次の音へ移行していく運動のことだと言いました。ある音を終えたとき、その音の構えを綺麗にリセットして、次の音の構えを作り、その後音を出す必要があります。この流れのどこかにミスが生じると、滑舌の失敗となるわけです。言い換えれば、滑舌が巧みな人というのは、このリセットと構えの運動が巧みな人、ということになります。滑舌を鍛えたいと思ったなら、リセットと構えの運動を習得する必要があります。だからこそ最初から早く練習するのでなく、無理のないスピードで、一音一音の舌や唇の位置を確認しながらリセットと構えを繰り返し、その動作を獲得していくことが最善なのです。

これは私の持論になりますが、プロはこのリセットと構えの動作がなんなく行える人種なのだと思っています。そしてそれらがスムーズに行える理由は、身体や喉に無駄な力が入っていないから。がちがちに力を入れた筋肉を無理やり動かそうとしても動き方はぎこちなくなってしまいますよね。ある程度リラックスしていた方がここぞというときに力を入れられますし、動作を続けなければならないときにも滑らかに動かすことができます。

滑舌練習時に努力しすぎて口や顔を大きく動かし力を入れている状態で行なっている人がいたら、それは誤った練習方法です。滑らかな滑舌というのは、力の入っていない状態でこそ可能です。力をこめなければ言えないのであれば、その速度が合っていない証拠です。もう少し力を抜いた状態でできるスピードでトライしてみてください。

そして、リセットと構えを会得したいなら、呼吸を見直すことも必要です。胸式の浅い呼吸でなく腹式を使った深い呼吸で体幹を支えながら行うと、無駄な力がとれ、負担のない滑舌が可能になります。

早く綺麗に話したいなら、練習はゆっくり、確実に。この魔法であなたの滑舌は良くなること間違いなしです。

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