恋愛

 恋と愛は,しばしば区別されずに用いられるし,いっけん区別されるときにも,厳密になされる場合は殆どないようにみえる。本書では,これらを次のように区別する。

 恋とは,彼をそのサブジェクトとして,自らを或るオブジェクトに在らしめんとする症候群の名である。この「彼」を,本書では被恋者と呼ぶことにする。

 ゆえに,最高純度の恋において,被恋者がもはや私を見なくなったと確証された場合は,世界が消滅したかのような心傷を伴うものである。

 他方で,とは,自らをそのサブジェクトとして,彼を或るオブジェクトに在らしめんとする症候群の名である。この「彼」を,本書では被愛者と呼ぶことにする。

 ゆえに,最高純度の愛において,この「或るオブジェクト」から乖離せんとする被愛者は,むしろその愛者の〝敵〟になることも多かろう。「可愛さ余って憎さ百倍」とはよく言ったものである。

 言い換えれば,恋とは,彼(被恋者)の世界において自らを主人公に定位せしめんとする心情であり,愛とは,自らの世界において彼(被愛者)を主人公に定位せしめんとする心情である。

 しかして恋愛は「まなざし」の輻輳なのである。

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