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命令の成否

 本項では,我々が「命令」という語をどう解するべきか,殊に,叱責・説教が命令をするまさにそのことによって惹起されるような機制をどう解するべきかについて,一つの案を書き置く。

 「命令」という語は,次のように概説されることが多い。

上位の者が下位の者に対して,あることを行うように言いつけること。

Weblio 国語辞典

 ここで「上位の者」と「下位の者」という語は,それぞれ(リーガルであれコンベンショナルあれ)債権者とその債務者の謂であると解してよかろう。

 しかして甲氏から乙氏への行為丙の「命令」は,丙に就き,甲が乙の債権者だと解していることを黙示してしまう。

 かように黙示される内容が,乙が信ずるとうぜん甲が自覚しておくべき債権債務関係の内容と抵触するとき,しばしば甲は乙に怒られてしまう,というのが,叱責・説教が命令をするまさにそのことによって惹起されるような機制であるように見える。

 つまり,甲がその命令によって黙示してしまう甲乙間の債権債務関係と,乙が甲に対して強く期待するそれとの摩擦によって,「命令するな!」旨の怒声がしばしば生ぜしめられてきたように見える。

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