補完性原理とはなにか。地方自治における重要性と問題点

問:補完性原理(サブシディアリティー)とはなにか、150字程度で説明しなさい。



ダメな解答例:補完っていうから、何かを補うんだよな、知らんけど。



解答例:補完性原理とは、権限を分担することであり、決定や自治などはなるべく小さい単位でおこない、できないことのみをより大きな単位の団体で補完していくという概念である。元はヨーロッパ共同体(EC)と加盟各国との関係を規定する原理であったが、日本の地方自治においては、各自治体間および自治体と国との関係を規定するものである。(155字)


補完性原理の概要

補完性原理についてもう少し噛み砕いて説明すると、「個人や家族といった小さな単位で解決可能な問題に関してはそれに任せ、それでは不可能または過度に非効率なことに関しては、より大きなコミュニティの力で補っていきましょう」ということである。

地方自治の文脈でいえば、「個人で解決可能な問題は個人で解決する。それが不可能であったり非効率的であったりする場合は家族や地域コミュニティの力を借りる。それでも難しい場合は市町村、都道府県、国といったように、より大きなアクターの力で解決していきましょう」という、住民にとって身近なところから問題解決をスタートする階層原則である。

1980年代の財政危機を背景として、国の財源であらゆる行政サービスを維持することが難しくなったこともあり、地方分権を推し進めていくうえでも、この原理は大きな論理的根拠となったであろう。

米沢藩の財政再建に大きく貢献した上杉鷹山がすすめた国家方針・国家政策である「三助」とも通ずるところがある。

※三助・・・まず自力で努力する「自助」、 次に家庭・近隣の地域社会と年金・公的保険・民間保険等の保険料積立で助け合う「共助(互助)」、最後に国・地方自治体などの行政が社会全体による租税でカバーする「公助(扶助)」こと。

ちなみにサブシディアリティー(subsidiarity)とは、直訳的には「権限移譲、小政府主義」ということであるが、もう少し厳密にいうと、「中央政府は強権的でありすぎてはならず、地方政府レベルでは対応できない事柄のみを扱うべきであるという政治原則」を指す。
日本の地方自治における文脈でも、およそこのような意味であると捉えてよいだろう。

補完性原理のメリット

『個人で解決できることは個人で、地域でできることは地域コミュニティーで、さらには、市町村、都道府県、そして、国へと問題解決の範囲を徐々に移行させていく』(経済同友会)とあるが、経済的な効率性や問題解決に至るまでのスピードについて考えてみても、この原理には一定程度の妥当性があると考えられる。

小さい単位でできることについては、小さい単位で動いた方がスピーディーだろうし、余分な手続きにかかる手間や時間も節約できる。

また、地域特有の事情があることに関しては、国からの一律的な政策より、その地域の人が解決までの道筋を考えた方が、よりよい解決に至ることもあり得るだろう。
地域ごとの特色を踏まえたうえで思案することが望ましい。

中央集権的で画一的な政策が機能しない場合、地域ごとの自主性を高め、地方自治がうまく機能していくようなシステムを構築することが必要である。

また、何か問題が発生したとき、まずは自力でなんとかしてみるという姿勢は重要であるし、そこから徐々に範囲を拡大していくことで、適切なところへ、適切な規模感でサポートが行き届いていくことが期待できる。

補完性原理の問題点

この補完性原理は、自己責任や家族責任といった小さな単位での問題解決を、社会における責任のうち基本的で重要なものと捉えているといえる。
さらに公的な責任にも序列があり、国が関与するのは最後の最後である。

これは、財政支出を縮小すると同時に、国が国民の安全や福祉を保証する責任を縮小してもよいという根拠にもなりかねない。
補完性原理に基づいて地方分権を進めていくことになろうと、国が国民の生活を守る責任を縮小してよい根拠にはならないということには留意したい。
(行き過ぎた「自己責任論」は多くの人々、特に社会的、経済的弱者をさらに苦しめる)

地方分権化を一概に批判できるものではないが、「民営化」や「アウトソーシング」という名のもとに、それまで行政が責任を担ってきた公共サービスを放棄しているという一面も見ることができるだろう。
事実上、行政の下請け化しているNPO、NGOも存在する。

また、問題解決の責任を地方で担うからには、地方の財源や人員も十分に確保しなければならない。
介護、医療、廃棄物処理など、様々な政策課題を扱う事務事業を地方に移譲するのであれば、それ相応の人員や財源の体制が必要である。

国と地方の事務配分にあたっては、補完性の原理だけでなく、それが合理的であるか、効率的であるか、実際に対応が可能なのかも含めて慎重に検討されなければならない。

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