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29.02 微分の初歩(微分の動機 その2)

注意:29.01~29.03は退屈かもしれないので、基本的なことに興味ない場合は読み飛ばしてください。



準備(速さ)

速さはこの『数学事始め』では一切触れていません。中学数学を扱ったときにも触れませんでした。なので速さの確認からします。知識のある人は平均の速さ、もしくは瞬間の速さに飛んでください。

速さは小学算数の「単位当たりの量」で学ぶのが最初だと思います。「単位当たりの量」というよりも「1当たり量」という方が分かりやすいかと思います。例えば、1個100円、1ℓ 180円、1人5個、1m 500g などです。
そして
        (1当たり量)×(数量)=(全体量)
を学びます。
これが悪名高き公式です(※1)。


さて速さですが、速さは1当たり時間に対する移動量で定義されています。
例えば「1時間当たり 40km 移動する」という量が速さです。ただ速さを表すときには、時速40km,  毎時40km,  40km/h などと表現されますがいずれも同じことを表しています。毎時マイジは1時間ごとのことであり、km/h の h は hour (時間) の頭文字であり、/ は分数記号からの借用です。
これからも分かるように速さの定義を式で表現すると

            $${速さ=\dfrac{移動量}{\:消費時間\:}}$$

となります。この式を元にして移動量を導く式や消費時間を導く式が得られます。なので速さの定義が理解できれば公式を覚える必要はありません。
※速さについて質問すると子供たちの多くは「み・は・じ」や「き・は・じ」と答えます。これは道程みちのり(距離), 速さ, 時間の頭文字を意味し、Tの文字の上側・左側・右側に書いて公式として使います(※2)。


平均の速さ

平均の速さというと耳慣れない言葉に思えますが、単に平均的な速さのことです。例えば
① 10km の道程みちのりを40分で移動とすると、10km=10000m なので

             $${\dfrac{\:10000\:}{40}=250}$$

より、1分間に250m 移動したと考えられます。これが平均の速さです。

② ある地点を出発して10分後に5km 地点を通過し、30分後に 20km 地点を通過した。このとき5km 地点から 20km 地点までの間の平均の速さを時速で求めてみると 20km-5km=15kmの道程を30分-10分=20分=20/60時間 で移動したので

             $${\dfrac{15}{\:\:\frac{20}{\:60\:}\:\:}=45}$$

より、平均時速45km と分かります。
注意 小中学の数学の問題の速さは、多くの場合、平均の速さのことです。でも物理学で速さという場合は瞬間の速さを指します(※3)。

自動車や自転車のスピードメーターは、測定の仕組みを考えると平均の速さなのですが、瞬間の速さを表していると考えられます。ではその瞬間の速さについて考えてみましょう。

     

瞬間の速さ

瞬間というのはほんの短い時間を意味します。なので瞬間の速さは短い時間での移動量のことです。上の例②では20分の間の速さなので瞬間と呼ぶ訳にはいきませんね。瞬間なので、1秒とか 0.1秒、いや 0.00001秒が相応しそうです。
ここまでくると人力では難しく、機器での測定になりそうです。ここでは物理学の結果を利用して考えることにします。物理が苦手でも安心してついて来てください。

例2(瞬間の速さ)
傾斜が一定の斜面の上から球体を転がすとき、$${t}$$秒後の移動距離 $${s}$$m は定数 $${c}$$ を用いて

               $${s=ct^2}$$

と表すことができます(事実として認める)。
いま、ある斜面上で球体を転がしたら2秒後の移動距離が4m であった。このとき、球体を転がしてから3秒後の瞬間の速さを求めてみます。

3秒後の瞬間の速さを求めたいので、3 秒後から 3.1 秒後までのように時間間隔を狭めて考えます。3秒後の周辺で考えるのがポイントです。

まず、球体を転がしたら2秒後の移動距離が4m であったことから
       $${t=2}$$のとき $${s=4}$$なので  $${4=c\cdot 2^2}$$ より $${c=1}$$.

つまり、この斜面では $${s=t^2}$$ という関係が成り立ちます。
このとき
 3 秒後から 3.1 秒後までの平均の速さは
   $${\dfrac{\:s(3.1)-s(3)\:}{3.1-3}=\dfrac{\:3.1^2-3^2\:}{3.1-3}=\dfrac{\:9.61-9\:}{0.1}=\dfrac{\:0.61\:}{0.1}=6.1}$$

 3 秒後から 3.01 秒後までの平均の速さは
   $${\dfrac{\:s(3.01)-s(3)\:}{3.01-3}=\dfrac{\:3.01^2-3^2\:}{3.01-3}=\dfrac{\:9.601-9\:}{0.01}=\dfrac{\:0.601\:}{0.01}=6.01}$$

のように求められます。実はもっとかんたんに計算できます:
 3 秒後から $${t}$$秒後までの平均の速さを考えると
    $${\dfrac{\:s(t)-s(3)\:}{t-3}=\dfrac{\:t^2-3^2\:}{t-3}=\dfrac{\:(t-3)(t+3)\:}{t-3}=t+3.}$$

この結果を使えば上の2つは、それぞれ $${3.1+3=6.1, \: 3.01+3=6.01}$$ と求められます。すると
    3 秒後から 3.001 秒後までの平均の速さは 6.001 m/秒
    3 秒後から 3.0001 秒後までの平均の速さは 6.0001 m/秒
    3 秒後から 3.00001 秒後までの平均の速さは 6.00001 m/秒
となります。
ここから時間間隔を狭めれば、平均の速さが 6 m/秒 に近づきそうです。これを3秒後の瞬間の速さとしてよさそうです。

注意:いま考えたのは3秒を経過してからです。ということは3秒前はどうなっているのか分かりません。

次に $${t}$$秒後から3秒後までの平均の速さを考えてみます。
   $${\dfrac{\:s(3)-s(t)\:}{3-t}=\dfrac{\:3^2-t^2\:}{3-t}=\dfrac{\:(3-t)(3+t)\:}{3-t}=3+t.}$$

この結果を使うと
    2.9 秒後から 3 秒後までの平均の速さは 5.9 m/秒
    2.99 秒後から 3 秒後までの平均の速さは 5.99 m/秒
    2.999 秒後から 3 秒後までの平均の速さは 5.999 m/秒
    2.9999 秒後から 3 秒後までの平均の速さは 5.9999 m/秒
    2.99999 秒後から 3 秒後までの平均の速さは 5.99999 m/秒
となります。
さらに時間間隔を狭めれば、平均の速さが 6 m/秒 に近づきそうです。先の結果と合わせて3秒後の瞬間の速さを 6 m/秒 とするのが妥当です。
これが瞬間の速さの定義です。


思い出してください。気づいた人もいると思いますが、前回の瞬間の変化率と今回の瞬間の速さは同じことをしています。この考え方が微分です。
平均変化率と平均の速さ、瞬間の変化率と瞬間の速さがそれぞれ対応しています。
いま、$${X\subset \mathbb{R}}$$を定義域とする関数 $${y=f(x)}$$を考えます。$${a}$$から $${x}$$まで変化するときの平均変化率

              $${\dfrac{\:f(x)-f(a)\:}{x-a}}$$

において、$${a}$$における瞬間の変化率を求めたいのなら $${x}$$の値をどんどん$${a}$$に近づけてみて、それがある値に近づくならその値が瞬間の変化率です。これを$${a}$$における微分係数 (単に変化率微分) と呼びます。
詳しくは次回話します。▢

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