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【伊勢物語】121 後宮の恋/内裏について/鶯の花笠の歌

1,本文と現代語訳

 昔、男梅壺より雨にぬれて人のまかり出づるを見て、
   鶯の花をぬふてふ笠もがな
   ぬるめる人にきせてかへさむ
返し、
   鶯の花をぬふてふ笠はいな
   おもひをつけよほしてかへさむ

 今回は後宮の具体的な殿舎名「梅壺」が登場します。伊勢物語では珍しい、内裏の学習の入り口にできそうな話です。本当は清涼殿や弘徽殿、飛香舎、後涼殿くらいの方が話を広げやすいとは思いますが。源氏物語では六条御息所の娘(梅壺女御、秋好中宮)が入内時に局とした殿舎でもあります。

 昔のこと。とある男が梅壺から雨に濡れて誰かが退出するのを見て
   鶯が花縫い作る笠が欲しい
   濡れてる君に被らせたくて
返し、
   鶯が花縫う笠はいりません
   貴方の思いで乾かしたくて   


2,コブンノセカイ   ~梅壺から見える内裏の世界~

 平安京の内裏はだいたい100000平方メートル、30000坪くらい。観客席を含めた東京ドーム二つ分くらいです。・・・ピンとこないですねえ。

© 小糸工業株式会社 2004

 これが、二つ分。
 全然分かりませんね。まあでかいです。。

 内裏内部の建物配置図は、『言語文化』の教科書や国語便覧にはたいがい載っているでしょう。ここでは京都市情報館のHPから図を借ります。


(c)2006 京都市(制作 京都市歴史資料館) ver.1.03

 北側半分から見ていきます。
 飛香舎・承香殿・昭陽舎より北の建物群を「後宮」と呼びます。女御も含めた天皇の后たちが入居する建物です。「殿」のつく建物が7、「舎」のつく建物が5あるので「七殿五舎」とも言います。

 南側。
 とりあえず清涼殿&後涼殿、そして紫宸殿についてイメージを持っておきましょう。
 清涼殿は帝の家です。天皇の寝所(夜の御殿)と昼の居場所(昼の御座)が中心の建物です。その他に貴族達が帝に仕えたり会議を開いたりする部屋(殿上の間)や、帝がお気に入りの女性を配置する部屋(上の御局)がありました。


©学研国語大辞典

 後涼殿は帝の家の機能を補助します。こちらにも帝の推し女性を配置する部屋がありました。
 紫宸殿は帝の職場です。重要な儀式などが行われる場所でした。


 今段に登場する梅壺は正式には凝華舎と言います。内裏の西北、飛香舎の北側です。
 建物から雨に濡れて出てくる人がその建物の主ということは無いでしょう。主の女御に仕える女房か舎人か。自然に考えれば女房で、男が恋歌を詠みかけたととらえるシーンです。

 梅壺は後宮でもなかなか奥まった位置にあります。男はどういう立場でどこから「人」を見ていたのでしょうか。男性貴族は後宮に立ち入り可能だったのでしょうか。分からないことは多いですので、まだまだ勉強が必要そうです。


3,花笠の歌を詠んでみよう



 今回の歌に登場する「鶯の花をぬふてふ笠」には元ネタがあります。

青柳を片糸によりて鶯の縫ふてふ笠は梅の花笠

古今和歌集・神遊びの歌・1081・よみ人知らず

 こちらから、鶯が花を縫って作る笠は、梅の花と青柳とを併せて糸にしたものと分かります。

 さらに

鶯の笠に縫ふてふ梅の花折りてかざさむ老い隠るやと

古今和歌集・春歌上・36・源常

があります。伊勢物語の歌はこの源常の歌から言葉をもらったのでしょう。

 この青柳と梅の笠は使い方が決まっていたわけではなさそうです。老いを隠したり雨をよけたり。笠の使い方の延長線上にあれば良いのでしょう。

 と言うことで今回は、「鶯の花を縫ふてふ笠」に続けて、その使い方を考え、歌にしてみましょう。

©コトバンク

 考えられる使い方としては
・雨よけ/風よけ/雪よけ/人目よけ
あたりが代表的です。源常は「老い」を擬人化して「人目よけ」の笠として歌にしています。
 その他「笠地蔵」などのお話を本説取りする方法もあるでしょう。笠は現代的感覚からは遠いので、昔話や古典的な春の和歌と混ぜて作ってみるとできそうです。

 では。まずは笠地蔵ネタ。

鶯の花を縫ふてふ笠あらば雪の地蔵も楽しからまし

 オシャレな笠を被っていたら、地蔵も雪見を楽しんでいたかもしれないなあという歌。笠地蔵感がちょっと薄いですね。

 次は若菜摘みで一首。

鶯の花を縫ふてふ笠頼み濡れ濡れ摘まむ春の若菜を

 俊頼髄脳に載る鷹狩りの歌(濡れ濡れもなほ狩りゆかむはし鷹の上毛の雪をうち払ひつつ)を念頭に置きながら詠んでみました。

 最後に「見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」を本歌としてみましょう。

鶯の花を縫ふてふ笠もがな都の錦に我加はらむ

 まあまあできそうな気がします。授業でもやってみましょうか。

 今回は以上です。お読み下さりありがとうございました。


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