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古今和歌集1人ゼミ3 早春

 鹿児島は最高気温が20度を超える日もちらほら出て来ました。寒い時には、ゴミ捨てについて来てくれた娘が帰りに抱っこをせがみます。抱き上げると娘は僕の上着の中に手足を潜り込ませます。そのまま家に帰るまで娘をギュッと抱きしめているのが幸せでした。でもそろそろそんな時間も持てなくなりそうです。次の冬にもまだ抱っこさせてくれると良いな。

0、本文と現代語訳

 さて古今和歌集の三つ目の主題は「早春」です。早速みてみましょう。

春のはじめによめる  藤原言直
  春やとき花やおそきと聞き分かむ鶯だにも鳴かずもあるかな
春のはじめの歌  壬生忠岑
  春きぬと人はいへどもうぐひすの鳴かぬ限りはあらじとぞ思ふ
寛平御時后宮の歌合の歌  源当純
  谷風にとくる氷のひまごとにうちいづる浪や春の初花

古今和歌集 春上 10〜12

 藤原言直と源当純はそれほど有力な歌人ではなかったようです。2人とも古今集に選ばれた歌はこの1首のみでした。対して壬生忠岑は有名人です。藤原定国の随身、つまりガードマンという身分の低さで古今和歌集選者の1人に選ばれました。
 
 歌は立春を迎えたばかりでまだ冬との区別がつきにくい時期、を主題にした三首です。鶯の声を待ち遠にする壬生忠岑の歌も良いですけど、ここでは三首目の源当純の歌を取り上げましょう。氷から噴き上げる水を花に見立てるセンスが好きなんです。夏が来た南極みたいで。

1、発想

 この歌の土台にあるのは春に吹きだす暖かな風と、その風が氷を解かすという発想です。『礼記』という古代中国の儒教教典にある「東風解凍」という記述が元ネタで、初春の歌の定番と言っても良いでしょう。

2、系統

 八代集からいくつかあげてみます。

水の面にあや吹き乱る春風や池の氷を今日は解くらん(後撰集 11 紀友則)
氷だにとまらぬ春の谷風にまだうちとけぬ鶯の声(拾遺集 6 源順)
凍りゐし志賀の唐崎うちとけてさざ波寄する春風ぞふく(詞花集1  大江匡房)

 後撰集の紀友則歌はただ氷を解かしただけですが、「あや吹き乱る」が春のキラキラ感を出してて良いですね。
 拾遺集の源順歌は氷を解かす風の使い方がやや進化した感じです。歌の趣旨は鶯の声を焦れながら待つ心です。頑なに春の到来を信じない鶯の心を、春風に解かされる氷と対比しています。
 詞花集の大江匡房歌も進化の一形態。春風が氷を解かすことを背景化しています。眼前にあるのは氷が解けた水。春風は氷を解かした後、その水をさざ波にして岸まで届けたのです。
 

3、近世、近代


 このテーマは芭蕉の句には見当たりませんでした。一茶にも「雪解けて村いっぱいの子どもかな」はありますけど、この句にも風は登場しません。「東風解凍」は俳句には情報量が多すぎたのでしょうか。詠まれてないことはないのでしょうけど。
 近代になると

水神の裾吹く風に氷解く

原裕

がありました。この水神はどんなかみさまでしょう。おっさん神だったらちょっとやだな。

4、授業案

 今回は古今集の早春の歌三首を、(だいたい)57577のリズムで現代語訳してみましょう。逐語訳とかは置いておいて、とりあえず雰囲気を作れたら良しとします。

10 春やとき花や遅きと聞きわかむ鶯だにも鳴かずもあるかな
→春早過ぎ?花遅過ぎなの?鶯の声聞きゃ分かるか鳴いてないけど

11 春来ぬと人は言へどもうぐひすの鳴かぬ限りはあらじとぞ思ふ
→来たよ春なんて言うけど鶯が鳴いてくんなきゃ信じられんね

12 谷風にとくる氷のひまごとにうちいづる浪や春の初花
→谷風で解ける氷の割れ目から水吹き出して花にも見えて

 今回は以上です。お読みくださりありがとうございました。

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