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伊勢物語48 可哀想な場面でもドヤァ感を醸し出していく業平パイセンの話

1、本文と解釈

 昔、男ありけり。むまのはなむけせむとて人を待ちけるに、来ざりければ、
   今ぞ知るくるしきものと人待たむ里をばかれずとふべかりけり

 解釈の揺れはほとんどない。和歌中の「人待たむ」が「人が待つ」なのか「人を待つ」なのかの差があるくらいだ。まあどっちでも良い。

 学校で文法を教える身としては、「人待たむ」の「む」は体言に接続する連体形だから、婉曲でとっておきたい。だけど僕が所持している注釈書の中で、学校採用している講談社学術文庫『伊勢物語 全訳注』だけは推量でとっている。ま、これも面白いズレではあるかな。

 昔々のこと、例のあの方についてのお話しでございます。
 あの方は送別の宴をしようとして、お客様を待っておりました。ところがその方が現れなかったのでございます。
   思い知る苦しいものだと僕を待つ女の子たちも辛かったんだね

2、Lesson

 この話は『古今和歌集』にも収録されている。そこでの詞書はもっと具体的だ。

 紀利貞が、阿波介にまかりける時に、餞別せむとて、今日と言ひ送れりける時に、此処彼処にまかり歩きて、夜更くるまで見えざりければ、遣はしける

 『伊勢物語』との違いは、

① 送別される人の具体的な情報(紀利貞、阿波介)
② 「来なかった時」の指定(今日と言ひ送れりける時)
③ 来なかった紀利貞の事情(此処彼処にまかり歩きて)
④ 業平が待っていた時間(夜更くるまで)

の4つだ。
 このうちで紀利貞を知らない読者の想像を刺激するのは、③と④。

 ここでLessonだ。

Lesson ③、④がある『古今和歌集』は、『伊勢物語』とどのように印象が変わるだろうか。

 当たり前のことを質問しているような気もするけれど、中高生が回答することを想定すれば、こんな質問もありうるのではないか、と。

回答例
 ③があることで、待たせた男=紀利貞の不誠実さが具体化される。
 ④があることで、業平が待っていた時間の長さが偲ばれて、業平に感情移入しやすくなる。


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