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詩 秋ということ


 このあいだ浮かんでいた
 真っ白な入道雲は
 手を伸ばせば簡単に
 つかめそうだったのに
 今日見上げた
 赤く染まったいわし雲は
 どれだけ背伸びしてみても
 届きそうにはなかった

 いつからだろう
 遠くで堂々と誇り高く響いていた
 蝉たちの声が
 耳元でひっそりとささやくような
 秋の虫の声に
 変わったのは

 秋と心を重ねるとき
 なぜだかとても悲しくなる
 これを愁いと言うのだろうか

 空の顔色
 風の態度
 太陽の背たけ
 それらの小さな変化に気付くたびに
 どうしょうもなく悲しくなる

 理由は分からない
 どうして、と考えてみても
 ただ、なんとなく悲しくなる
 としか言いようがない

 まるで金木犀のようだと思う
 確かにそこにあれど
 姿は見えずに香っている

 燃えて焼ける夕空の下
 ゆらゆらと辺りを漂う
 秋の空気




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