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舞台『D.C.III~ダ・カーポIII~ミライへの伝言』その4 脚本執筆&COVID-19の章

却説、コンセプト⇒超大まかなあらすじ⇒大まかなあらすじ⇒細かなプロットを提出し、板の上に立たせても大丈夫な役者の人数も確定した、ということで、いよいよ脚本に取り掛かることになった。

前作は、120分を想定し初稿を120KB程で書き上げたのだが、いろいろリクエストを受けた結果、稽古に入る最終稿の段階で150KB近い内容になってしまった。
今作では、ヒロイン紹介や日替わりネタのアイデアもあらかじめ織り込み済みなので、そういった部分で膨れ上がることはないとは思うが、前作ほど冗長にならずに、舞台のテンポで掛け合いを書いていけば、そこまで膨れ上がることはないだろう、と予測。

問題は脚本のベクトルだ。

前作は、「舞台をあまり観たことがないD.C.ファン」が観客の半数以上だろう、という想定で「いかに舞台という娯楽が楽しいか」というギミックを中心に構成させてもらったつもりだ。
のっけからヒロインの一人に客席に対して呼び掛けてもらったり、序盤から舞台を動き回っていたキャラクタが実は他の登場人物には見えてなかったことが途中で判明したり、途中まで原作通りの展開を見せつつどんでん返しをしてみたり、と舞台的に分かりやすいギミックを採用しつつ、初見さんにもD.C.IIIやD.C.シリーズに入りやすくした上で、作品に詳しい古参のファンにも唸ってもらえるような作品を目指した。

そういう意味では『君と旅する時の魔法』は舞台の脚本としてとてもウェルメイドな作品に仕上がったと思っている。
D.C.IIIおよびD.C.シリーズのエントリィ作品としても、舞台演劇の入門作品としても、当初予想していた以上に完成度が高くなってしまった。

つまり舞台脚本としての「完成度」という意味では、新作は前作を超えることはできないだろう。
だが、次回作に求められているのは、幸いにも別のアプローチだ。

前作は初の舞台化作品と言うこともあり、D.C.IIIの概要の部分を舞台化する必要があった。しかし、二作目に求められているのは、もう一歩、踏み込んだ内容のはずだ。
もちろん、この舞台が初観劇、初D.C.III、初D.C.シリーズだ、という観客もいるはずなので、ある程度の解説は入れ込む。だが、それは前作に比べれば一段飛ばしでいいだろう。
その分、各キャラのドラマを深める方向性で、前作に入れ込めなかったキャラとキャラとの関係性を描いていけば、いい舞台になるはずだ。

そう信じて、僕は脚本を書き始めた。

英国を目指す船上から物語は始まる

今作は前作で描いた風見鶏編とは別のループの物語。
前作には登場しなかった「葛木清隆」と「葛木姫乃」を中軸に風見鶏編を描いていく。
そこへ、D.C.シリーズの謎を一身に背負ったサクラギという新キャラを投入することで、観客は風見鶏=王立ロンドン魔法学園のことを改めて知っていく。

前作が生徒会選挙とクリスマスで終わったので、その継承作である新作は、別ループの出来事ではあるが、新年、新学期から始まる。

大変なのは葵ちゃんだ。別のループの出来事なので、他の皆は完全新作。でも、彼女だけは続編を演じなければならない。
彼女が新キャラであるサクラギと出逢えば、来るはずのないイレギュラーな存在にきっと驚くだろう。

謎の存在、サクラギに困惑する葵

抱えているメインの仕事があったので、その合間合間に進めるしか無かったが、初稿の執筆はさくさくと進んでいった。

物語は原作の姫乃ルートをベースにしつつも、いきなり清隆が晴れない霧に取り込まれてしまっても観客が入り込めない。
なので、前半の山場を用意して一旦、霧の危険性を見せてから、物語が展開するように構成させてもらった。

楽しいシーンから徐々に不穏な空気を見せつつ、物語はクライマックスへと近づいていく。
そんな中、前作で描きたかったけどどうしても入れ込めなかったシーンがある。それは姫乃とサラのシーンだ。風見鶏編でのサラと姫乃は、初音島編よりも仲が良い。二人とも家の事情を背負っているという点で共通しているが、原作ゲームでもそのあたりの深掘りをしていなかった。だから、前作に盛り込みたかったのだが、入れる隙間がなかったのである。
というわけで、今作ではガッツリと二人のことを書かせてもらった。

物語は進み、清隆が晴れない霧に取り込まれていき、やがて物語の舞台は初音島編へ。

前作にもあった江戸川耕助による二度(風見鶏編と初音島編)のヒロイン紹介。二度目のヒロイン紹介を葵にやらせよう、と発案してくれたのは演出の市村さんだ。
脚本執筆前の会議で「やはりヒロイン紹介は今回もあった方がいいですよね」的な話をしているときに、葵ちゃんがやったら面白いんじゃないか、というアイデアが出たのだ。
一回目の紹介は耕助がやって、前作からの観客に「あ、今回もあるのね」と思わせる。そして、二度目のヒロイン紹介の際にフェイントで葵が登場したら、お客さんは驚くだろうし、陽ノ下葵による初音島編のヒロイン紹介は、美少女万歳の耕助と違って少々毒のある紹介になってしまうからマンネリ防止にもなるだろう。

そして、前作の初音島編の森園立夏の紹介では、原作にあった立夏との出会いのシーンを再現する、という手法を取らせてもらったが今作はどうするか?

何しろ尺の都合で初音島編のウエイトは全体の四分の一程度。しかも、導入で使わせてもらった前作とは違い、今作はクライマックスで初音島編に入るので、どうしてもシリアスに寄ってしまい、初音島編本来の楽しさがどうしても半減してしまう。
何とか「初音島編の楽しさ」をダイレクトに伝える方法はないものか。

そして出した結論が、森園立夏がキャラソン「国語・数学・立夏…恋愛!」を唄いながら登場し舞台上がライヴ会場になる、というものだった。

そもそも、僕が新田さんを舞台で観たのが『キューティ・ブロンド』だったわけだし、インターバルな期間に音楽劇『ヨルハ』Ver1.2や舞台『ファンタシースターオンライン2-ON STAGE-』などの配信を観て、「新田さんに舞台に出てもらうなら、唄わなきゃ嘘だよなぁ」などと常々思っていたこともある。

そして何より「国語・数学・立夏…恋愛!」の凄まじい歌詞!
作詞・作曲:桃井はるこ!
桃井さんの作った歌の世界観がまんま初音島編の楽しさ、森園立夏の突飛さにマッチしている。凄いですよ、桃井さん!
そんなわけで、どうしても使って欲しかったので、そこは制作さんにお願いしました。何しろ使用楽曲が増えると(以下略)。
結果、とても素晴らしいシーンになった。制作さん、演出の市村さん、音響さん、新田さん、石丸さんをはじめとする演者の方々、そして桃井さんに感謝してもしきれない。素敵なシーンになったと思う(ありがとうございます!)。

……と、脚本から離れてしまった。閑話休題。
そんなこんなで、順調に執筆は進行していった。

舞台D.C.IIIの脚本は、通常の120分前後の舞台と比べても脚本のテキスト量が多く、台本が分厚いと言われている。
とはいっても、普段、僕らが書いている美少女ゲームのテキスト量に比べれば微々たるものだ。各ルートの半分にも満たない量だと言っていい。
だから、分量だけで言うなら、集中すれば10日に満たない日程で書き上がるだろう。

が、先程も述べた通りメインで抱えているお仕事の合間、合間に執筆を続けていたので、執筆期間は二ヶ月ほどもらっていた。

執筆自体は順調だったし、夏休みってことで嫁さんが子供たちを連れて九州に行っており、集中できるってことで「8月末には初稿書き上がりますよ」と僕自身も豪語していた……のだが、

忘れもしない2022年8月22日。
たけうち、COVID-19陽性。

普段、仕事場に引き籠って、家族以外とはほぼほぼ会うこともなく、防疫という意味では理想的な生活をしていたのだが、そんな僕でもSARS-CoV-2に感染、新型コロナウイルス感染症に罹患してしまったのだ。

18日に奈良に進学した姪っ子が帰省してきたってことで、両親が寿司を取ってくれたのだが、嫁も子供も帰省中ってことで気を遣ってくれた両親が「あんたも寿司食べに来なよ」と誘ってくれたのだ。
家族だし、自宅だし、ってことで完全に油断していたわけだが、翌日、姪っ子発熱。
姪っ子が陽性だと聞いた時は「やばいな」という予感があったんだよね。姪っ子と同じ寿司桶で食べてたし、余りの寿司は僕がもらってしまったので。
ってことで、僕も21日に発熱。22日に発熱外来に連絡して、見事、陽性判定。

まあ、幸い嫁も子供もいないし、実家には高齢者の両親しかいないってことで、僕は仕事場でずっと療養することにしたわけだ。しんどかったけどね。

というわけで、脚本の初稿を8月末までに書きあげるつもりが、9月頭まではみ出してしまった。

しんどかったし、数日遅れてしまったが、まあちゃんと書き上げたわけで。脚本があるってのはいいことだ。

前向きに行こう、と思った2022年初秋。約束のあの場所は、まだまだ先だった。

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