2024年J1リーグ展望 ヴィッセル神戸編
「ヴィッセル神戸が優勝できたのは大迫勇也がいたから」
この主張に反論できる方はあまりいないかと思います。
チーム内のみならずリーグ全体のMVPと得点王をW受賞。2023年は大迫勇也の年でもありました。
ただし、
「大迫勇也がいればどんなチームでも優勝できる」
もしこんな主張があったとしたらそれには賛同できません。
なぜなら2022年のヴィッセル神戸が、大迫を擁していながら下位に低迷していたからです。
神戸はどのように強くなっていったのでしょうか。
今年の展望を占う前に、まずはこれまでの流れを確認してみましょう。
2023年度シーズンの総括
監督
まずはここ数年の勝点と得失点の流れを見てみます。
近年の神戸は成績の浮き沈みが激しいので問題点と改善点が見つけやすいチームです。
ざっくりと言えば、
2021年に守備が整備されたものの、
2022年に得点力が落ち、
2023年にどちらもが改善されたという流れになります。
さらに2022年と2023年の監督別成績も見てみます。
これをみると2022年に吉田監督が指揮した時点で失点率0.9点と守備力は充分だったことがわかります。
2023年の神戸はいかに得点力を上げるかがテーマでした。
続いて所属選手の動向を見てみましょう。
選手
これは、それぞれの選手がシーズンをまたいでどれだけリーグ戦の出場時間を増減させたかを表にしたものです。
(※基本的に増減が500分以上の選手のみを抜粋)
(※オレンジ色の枠は、シーズン中を含めたその年の新加入選手)
(※紫色の枠は、前シーズン中を含めた退団選手)
まず現在の神戸の核である大迫や武藤嘉紀は2021年シーズン途中に加入しました。
2022年の得点力の伸び悩みはその前年にチームを去ったドウグラスや古橋享梧の影響が大きいとみていいでしょう。新加入の汰木康也などが出場時間を伸ばしましたが、前任者に代わる新しい得点パターンを確立できなかったということです。
そして2023年。
思い返してみるとシーズン前に神戸優勝を予想する識者は皆無だったと思います。前年度の成績もありますが選手補強の方もそれほど積極的ではなかったからです。
たとえば新加入の本多勇喜はすぐにレギュラーに定着しましたが、前任者の小林友希と個人のスタッツは大きく変わりません。戦力アップというより穴を埋めたという評価が正しいようです。
(もちろんレギュラークラスの穴埋めも大事なことで強化部の見事なファインプレーだったと思います)
齊藤未月は確実に神戸のサッカーを飛躍させた一人です。
スタミナがあり相手ボールを刈る能力に長けていて、さらに運ぶドリブルも持っている。
神戸がポゼッションサッカーの看板を降ろすことができたのも、齊藤が敵からボールを奪い守から攻への移行をスムーズにさせたからだといえます。
ただ、直接得点に絡む選手ではありません。
そうなると新加入選手ではなく、それまで出場時間の少なかった既存の選手の躍進が得点力アップの鍵を握っていそうです。
スタッツ
少し目線を変えてチーム全体のスタッツを見てみます。シーズンをまたいで比べた時に目立った数字の変化を抜粋してみました。
(ここでは触れませんが、ポゼッション率とパス本数の変化については前回の記事で触れているので、ご覧いただければと思います)
さて、今回の表を説明していくと、
BOX内G(ペナルティエリア内のシュートによるゴール)や頭G(ヘッドによるゴール)、一試合での決定機数、クロスの成功数などなど、得点力が向上していることがいろんな数字から見て取れます。
そして見逃せないのが空中戦です。
競り合う数が前年より大幅に増加しているのがわかります。
つまり神戸はポゼッションサッカーをやめて積極的にロングボールを前線に送っていたということになります。
この数字を見れば大迫や武藤の活躍する姿が容易に想像できますが、2022年になぜそれを出来なかったのかが説明できません。
となればロングボールの出し手に変化があったと見るのが妥当でしょう。
初瀬亮のロングボール
これは二つのシーズンにおいてDF陣が送ったロングボールの回数を表にしたものです。
2023年になってロングボールの総数が1.5倍になり、成功数も同様に増加していることがわかります。
特に初瀬亮のロングボール総数12.1本というのはリーグ全体を見ても突出した一位です。
2022年の初瀬は怪我のため大幅に出場時間を減らしていました。彼の復活が神戸優勝の大きな原動力になったのは間違いありません。
左右のパワー!!
DFラインから大量に送られるロングボールを収めるのはもちろん大迫や武藤ですが、もう一人、佐々木大樹の存在を忘れるわけにはいきません。
ポジションはIHか両WG。もちろんプレーも素晴らしいのですが、彼の最大のストロングポイントは体格の良さだと思っています。
サイドを主戦場とするJ1の主な選手を集めてみました。(所属は2023年時点のもの)
ウィングの選手と言えばスピードがありドリブルやクロス技術に優れた小柄の選手というイメージが強いですが、神戸はそうではなく上背があって体重もある選手を左右に配置しています。ロングボールを競り合ったり相手DFを背負いながらボールを収めるためです。
神戸前線の空中戦の強さを具体的に見てみましょう。
「CF平均」「WG平均」は、それぞれJ1リーグのレギュラークラスのセンターフォワード、またはウィング(とサイドハーフ)の平均値を集計したものです。
いかに大迫といえども、相手チームは一番強いCBをぶつけてくるため成功率が50%を超えることはありません。
一方、サイドの選手の場合、基本的に空中戦は期待されていないため競り合う機会自体が少ないです。
しかし相手はSBやCHになることが多いため、ここに武藤のような選手を置けば無双することが可能です。汰木は上背のわりに細身なので空中戦は期待できませんが佐々木のパワーがそれをカバーしていることもわかります。
(競り合いやデュエルの強さを語るとき最近はインテンシティーという言葉を使いますが、ここでは敢えてパワー!!と呼びましょう。文字数が短くて済むんで)
パワーこそ正義、力こそパワーですね(?)
サッカーはどんな数字であっても左右のサイドのバランスを整えることで効果が劇的に上がります。2023年の神戸は左サイドでロングボールの出し手と受け手が強化されて右サイドの武藤に並んだことがわかります。
神戸得点力アップの鍵、その正体はパワーでした。
2024年度シーズンの展望
今オフの神戸の移籍動向ですが、まず流出の方は近年のJリーグでもトップクラスに数の少ない年となりました。(レギュラークラスは大崎玲央のみ)
一方、加入の方は派手さはないものの同カテゴリの主力級をバランス良く選んだ隙のない布陣となっています。
広瀬陸斗、岩波拓也はロングボールの数値維持にはもってこいの人材です。
井手口陽介、鍬先祐弥は中盤のボールハントで躍動するのは間違いありません。
宮代大聖は大迫のサブというよりも、佐々木や汰木と絡んだり、あるいは武藤の代わりとしてサイドの制空権強化に寄与するのではと予想します。
結論としてはつまらないものになってしまいますが、間違いなく今年の優勝候補筆頭です。
現状としてリーグ内で神戸前線のパワーに対抗できるのは浦和の守備陣くらいでしょう。(左SBが不安ですが)
あとは引き分け上等で引きこもられた時に神戸としてはどれだけ取りこぼしを防げるか。シュート精度の高い外国人FWをさらに獲得する可能性は高いと思います。
以上です。
思っていた以上に長くなってしまいましたがこの調子で開幕までにできる限りのチームを分析していきたいと思います。
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