心の痛みは、指に刺さったトゲ。

2020年12月10日 8:30
わたしは通勤電車で、この文を書いている。

昨日、わたしの指にトゲが刺さった。
いつの間にか、刺さっていたトゲ。

夕飯時に、
手で茶碗を持ち上げたら、
指先がちくりと痛んで、
わたしは、そのトゲに気がついた。

「どうにかこのトゲを抜かなくては。」
そのように思い、

スマートフォンの照明で指先を照らし、
変な態勢になりながら、
わたしは指先のトゲの刺さり口に
全意識を集中させ、
針とピンセットを駆使して、
トゲを取り除いた。

取るまでに時間はかかったが、
抜ける瞬間は案外あっさりしており、
気がつくのに2秒ほど遅れた。

トゲを取り除いた後、
指のめくれた皮膚が、少し傷んだ ー

電車に揺られながら、
ふと昨日の指先を見る。

針とピンセットで傷ついたはずの皮膚が
すっかりもとに戻っているようすだ。

たった8時間で、皮膚はもとに戻るのか?

疑問に思った私は、
何度も昨晩までトゲがささって
ちくりと痛かったはずの指先を見つめた。

傷痕はないようにみえた。

その時、
わたしはふとこう思った。

ーー 心の痛みと似ている。

昨日刺さったトゲのように、
目に見えない心の傷は
深く刺さり、ちくりと痛く、

昨日刺さったトゲのように、
簡単に突き刺さる
心の痛みは、トゲになる。

一度刺さったトゲは
もう一生抜けないのだろうか?

いや違う。

あるとき、ある出来事を機に、
トゲは一瞬にして抜けてしまう。

最初は、トゲが抜けたことに気づかない。

心のトゲを抜くために経験した苦労の割には、
その瞬間はあまりにも突然で、
呆気ないからだ。

数秒遅れて、あるいは、数日遅れて、
気がつくのだ。

少し前に痛くて痛くて仕方のなかったものが、
いつの間にか癒えていることに。

その瞬間が、
自分にとっての転機であったことに。

そんな瞬間を、心を痛めた人は、
傷を負った人は、
ほんとうはずっと待っているのかも知れぬ。

ただ、そんな瞬間が起こりうることを
殆どの人が気づくことも、
想像することも、
ましてや、信じることもできない。

ただそれだけのことなのだと。

朝の通勤電車で
わたしは、指先の先にある、
遠くの誰かを見つめた。

再び自分の指先に目をやると、
やはりささくれは残っており、
傷痕が完全に癒えたわけではないようだ。

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