MSR Internship アルムナイ Advent Calendar 2020 (6日目)

原です。Singapore Management Universityで教員をしています。Human-Computer Interaction (HCI)のサブ分野のAccessibilityやOnline workについて研究しています。詳しくはホームページを見てください。2014年、当時University of Maryland, College Park (UMD)の博士課程の学生だったときに米国ワシントン州RedmondのMicrosoft Research (MSR)でインターンをしました。そのつながりで樋口さんにMicrosoft Research Internship アルムナイ Advent Calendar 2020に誘っていただきました。何を書いてもいいと言われたので当時の思い出とか考えていること、今の仕事について簡単に書きます。主に将来研究の仕事をしたいと思っている学生さんを念頭に書きます。

論文の数とネットワークでしか評価されない

「研究者は論文の数とネットワークでしか評価されない」

シビアで多方面から刺されそうな発言ですが、これは昔ある先生に言われた言葉で、自分を戒めるために大事にしています。「研究とは社会にとって有益な新しい知識を作り、それを他者に伝えてナンボなので、知識を伝達する最も重要な媒体である論文を書かない研究者は評価されない」、「研究活動・交流を促進するために、他の研究者・研究関係者とのネットワークを作ることは重要であり、それを構築できない研究者は評価されない」、また、それ以外の活動(コンピュータサイエンスならソフトウェアの開発とか)はこの二つをサポートするものでしかなく直接的な研究価値はない、ということです。この視点で見たときMSRでのインターンは有意義だったと思うばかりです。

上にも書きましたが、2014年の夏、6月から8月半ばにかけて、12週間インターンとしてMSRに在籍しました。MicrosoftのCEOがSteve BallmerからSatya Nadellaに変わった年で、社内の人がよく「今後Microsoftという会社はどう変わっていくんだろう」と話していたのを覚えています。2013年のASSETS(accesibility, assistive technologyの国際会議)で自分の研究を発表した後、発表を見ていたMSR研究者にインターンに応募するように言われ、彼女に履歴書を送ったのがきっかけでした。ただインターン中は結局彼女とではなく、同研究所のShamsi Iqbalの下で働くことになりました。毎年MSRのインターンシップには多数の学生が主に北米の大学から参加します。僕のオフィスメートはCarnegie Mellon Univeristy (CMU)の学生が二人、もう一人はMIT Media Labの学生でした。日本人の方だと、このアドベントカレンダーに参加されている樋口さん(初日)落合先生(二日)平井先生(三日)、松井先生(十三日)、それに今Rice Universityで教員をされている佐野先生が同時期にインターンに参加されていました。あと、奈良先端大からこられていた方にもお会いしたのですが名前が思い出せない…

インターンではSkype TranslatorというSkypeに同時通訳機能を加えた技術の研究チームに配属されました。Redmondの他にも、カリフォルニア・北京・ヨーロッパのMicrosoftの機関から研究者・開発者・デザイナーが参加するチームで、全体で20人くらいメンバーがいたと思います(僕が知らないだけでもっといたかもしれません)。博士課程での研究と全く関係ないHCIの研究がしたいとShamsiに伝えた結果このチームに配属され、「この技術のユーザビリティを研究して」といわれました。ざっくりとしたテーマでしたが、最初の週に大体の論文の構成を決めて翌週から予備実験をしていました。インターンの最後の方で論文を書き、9月のCHI(HCIの国際会議)の締め切りに論文を投稿し、翌年韓国で開催された会議で研究内容を発表しました。旅費も一部サポートしていただきました。発表した論文はこれ。

このような経験をMSRでさせていただいたのですが、インターンしてよかったなと思うのは(1)MSRでできたネットワークからメリットを享受するとき、また(2)MSRのインターンでやった成果を論文にでき、自分の業績を伸ばせたことです。例えば、僕のオフィスメートだった学生は今ではUCLAの教員ですが、インターン中に仲良くなった繋がりで以前学生をvisiting studentとして受け入れてもらっています(学生さんはその後UCLAからPh.D.のオファーをもらっています)。また、もっと直接的に僕が享受してるメリットとして、メンターのShamsiにはCMUでのポジションと現職に応募する際、強力な推薦書を書いてもらっています。二つ目、地味に重要なのですが、MSRインターンでの研究結果は論文にできます。もちろんしっかりと研究するのが前提ですが、他の大手IT企業でのインターンだと、知的財産周りの理由で研究を論文にできない、インターン後しばらく研究を発表できない、というケースを見聞きしました。もちろん、MSRでもそういうケースはないこともないと思うのですが、少なくとも僕が在籍していた当時はMSRは論文をアウトプットすることにとても積極的でした。

なので、将来研究者になりたいと考えている大学生・院生の方は積極的にインターンシップに応募し、機会があれば参加する事をお勧めします。

グループによるアウトプット・資金獲得

僕のMSRでの経験はそんな感じです。その後、UMDを2016年に卒業し、1年間CMUでポスドクをした後、2017年からシンガポールで現職です。将来大学の先生も面白いかもなと思ってる人にむけて、少しだけ今のことを書こうと思います。

研究者は論文とコネで評価されると書きました。ただ、大学の先生はそれに加えてプロダクティブな研究グループを作ること・資金獲得を評価されるのかなと思っています。よく勘違いされるのですが、研究をメインに行う大学の先生のKPI(業績指標)は教育ではありません(少なくともシンガポールとかアメリカはそんな感じです)。もちろん、学生に色々と教えるのは大事ですし、大学の収入の多くがここから発生するのでオペレーション的に大切です。ただ極端な話、僕らは教育をいくら頑張ったとしても研究がクソならクビがとびます。また、自分自身で研究アウトプットを出す以上のことを求められます。最近の僕の仕事はもっぱら、研究スタッフ(学生・エンジニア・ポスドク・教員)を集めて彼ら・彼女らがアウトプットを出せる環境を作ること、研究資金を獲得してくること、です。正直今のところあまり上手くできてないので今後数年の課題です。

大学教員は研究グループを主宰してグループのテーマに沿った研究成果を出すことを求められます。自分の研究分野の仕事ができる人を集め、研究アウトプットを出させないといけません。ただ、僕の感想ですが、アジア圏でHCIの研究ができる人は少ないです。なので少しでも関連分野に研究・開発経験があるスタッフを集めてきて、いかに彼ら・彼女らに研究させるかが大きな仕事になっています。しかし、地理的な理由(優秀な学生はアメリカやイギリス、カナダ、ドイツなどに行きたがる)・最近の渡航制限・その他ここに書けない理由等で人を集めるのはなかなか難しいのかな、という感じです。最近は学部生で当該研究分野に興味がある学生を集めて育てたりもしています。また、学生やスタッフが研究アウトプットを出してくれる環境を作るのにも苦心しています。学生やスタッフが研究に必要なスキル(プログラミング・論文執筆・ミーティング資料作り等)を勉強しやすいようにしたり、研究に使うツールを活用しやすいようにしたりです。自分には簡単なタスクでも、スタッフにスキルが無かったりツールの使い方が分からずつまづくことがあります。今大学院生・ポスドクで教員になることを考えている人は、将来自分のスタッフが今自分がやっている仕事を引き継ぎやすいように準備しておく事をお勧めします。他にも設備を揃えるのも大事ですが、僕の研究は大抵コンピュータさえあればできるので今はあまり問題ではありません(最初はこれも地味に大変でしたが)。

大学の先生のKPI、もう一つは資金獲得です。これはもうそのまんまなので、特に書くことはないです。外部から研究資金をとってこいということです。ただ、シンガポールはアメリカよりは資金を取りやすいのかな、という感じです。そんな感じで大学で研究者をしています。

真面目な事を書いてしまった。品川呼んでください。

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