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Microsoft Researchへのインターンで研究者人生が変わった話

樋口君、ってこれ出してみます?

2012年11月16日15時40分、指導教員の暦本純一先生からMicrosoft Research Redmondでのインターンシップへの応募を勧めるメールをもらったのがMSRインターンとの関わりのはじまりだった。初めての英語のCVをなんとか書いて、当時MSRアカデミックリレーションだった公野さんに送った。D1当時は研究業績はあまりなかった(恥ずかしいがマッチング良ければこれでも通るのかと知ってもらうために当時のCVのPublicationを公開)ため、世界トップクラスのComputer Science研究機関であるMSRのインターンに通るなんて全く思っていなかった。しかし、応募翌月に開催されたSIGGRAPH Asia 2012でのFlying Telepresence システム Flying Head デモ発表中に、本当に偶然MSR研究者で後の受け入れ先のグループリーダーであったZhengyou Zhangにデモを見てもらう機会があり、動くもの作れるやつがいるぞと興味をもってもらったようで面接に声がかかり、なんとかなんとか面接を乗り切りインターンシップが決まったのだった。バット振ることと運とマッチング大事...

ちなみにシグアジでのデモ中は写真のようにシステムオペレーションに必死だったため、研究の紹介をしたのはデモに協力してくれたのは後輩藤井君だったかもしれない...

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今回のアドベントカレンダーの経緯

そんなこんなで博士課程在籍時に2回ほどMSR Redmondでのインターンを経験したのだけど、それは自分の研究者人生にとって大きな影響を与えるものだった。そのため、若い人に研究留学に興味を持ってもらえないかと、研究留学アドベントカレンダーというのを2017年2019年に開催した。寄稿いただいた皆様のおかげで大変良いものになったのでご興味あればぜひ読んでいただきたい(私が2019年最終日をまだ書いてないのは内緒だ!)。

そんな経緯もあり、今年10月某日に現在はMSR RedmondにてSenior Research Program Managerをされている公野さんから、今年はMSRインターンアルムナイ向けのアドベントカレンダーのような取り組みはしないかと打診を受けた。というのも、数年前よりMicrosoft Researchインターン経験者が集まり講演会や交流をするアルムナイイベントを定期的に行っていたのだが、現在の社会的情勢により今年の開催は難しいため、なんらかの交流の場を持ちたいとのことだった。

私自身、今回の社会情勢になってから研究者間でのカジュアルな交流が極端に難しくなってしまい、研究へのモチベーションに大きく影響を受けてしまっているため、ぜひこの企画をやりたいと思った。なので僭越ながら、Microsoft Reseachインターンアルムナイアドベントカレンダー2020を立上げ初日を書かせていただくこととなった。今回、声をかけていただいた公野さん、現MSR University Relationsの鎌倉さん、ご寄稿いただいく皆様、そして読んでいただける皆様には最大限の感謝をしたい。

さて、このアドベントカレンダーの内容は、寄稿いただく方に自由に書いていただきたいと考えている。私は当時の思い出を振り返りつつ、自分の人生に何が影響を与えたのか書いてみたい。ちなみにどういう活動だったのかどういう状況で研究に臨んでいたのか、に関しては過去に書いてあるので、割と日常的な話を中心に書きたい。

2013年夏のインターン

1度目のMSRインターンは初めての海外への中長期滞在(3ヶ月)だった。英語力に大変な不安があった私だったが、メンターであった Phil ChouYinpeng Chenと研究を進める過程で「曖昧な理解のままでわかったふりをしない」「英語力がないことは大きな問題ではないから、とにかくお互いクリアになるまで議論をする」を徹底することを求められ、自然と英語力がないことを恐れることが少なくなった(英語がうまくなったかは別だ)。それと毎日議論を積み重ねていく過程において、本当に頭が良い人というのは「正しい思考を何層にも積み重ねていける人」なんだなと思い大事にしている。

2013年当時といえば、2012年にDeep Learningが大きなブレイクスルーを起こした翌年であり、私の所属したMultimedia, Interaction, and Communication Groupでもよくその話題があがった。Microsoft Kinectが出てきたころに「それKinectでやろう笑」という流れがあったように、「それDeep Learningでやろうぜ笑」という会話がグループミーティング中によく起きた(いまや実際なんでもDeep Learningの時代だが...)。そのときの日本からのインターン同期で、後にヒントンに敗れた男で一世を風靡する、牛久祥孝さんに昼飯を食べながら「結局Deep Learningって何がすごいんすか?」と不躾に聞いたりしていた(あの伝説的なコンペILSVRC 2012の直後だ...)。そんなこんなHuman-Computer Interactionの研究者としてコンピュータビジョン・信号処理の研究者たちと一緒に過ごした経験は今のHCIxAIの研究者としてのキャリアを選択する際に大きく影響を与えている。

当時の生活はひたすら研究をしていたという印象だ。博士課程に入ってから研究があまりうまくいっておらず、今回のインターンでなんとか成果を出したいと正直必至だったため、せっかく海外にいて周囲に世界中の大学から来た優秀な博士課程学生がいたのに、ほとんど昼飯は社食でテイクアウトして自分の席でコードを書きながら食べているし、夜遅くまで研究していて、同室のインターンから「せっかく最高のシアトルの夏にいるんだからもっと楽しめよ」と呆れられていた(短期間であるが学振DCの4倍以上の給与をもらうプレッシャーもあった)。そんなこんなでやっていたら、それなりに満足のいく結果を出せたため、来年もインターンに来てもいいよということになった。私としては、短期間ではあるがここまで研究に集中できていた期間はこれまでなかったため、最高の夏以外に感想がなかった。おそらく、このインターンを経て今後も研究を最先端の場で楽しんでいきたいという思いが固まったのではないだろうか。

とはいえ、間に一週間休暇を取ってグランドキャニオン観光に行ったりしていたので、それなりに楽しんでいた(肋骨にひびが入り、生牡蠣にあたりながらでなければもっと良かったが)。

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2014年のインターン

2度目のインターンは2014年6月からだった。(正直面倒な)J-1ビザ申請も難なくこなし(1度目は一週間遅れた)、大きな問題なくスタートできた。昨年と大きく変わったことといえば、同じ研究室から落合陽一君がきたこともあり、(4日に一回くらいのペースで)とにかくクラフトビールを飲みに行ったことだ。もともとお酒が大好きで、クラフトビールは日本でも多少飲んではいたが、どうしても高いという印象(つまりその価値を感じれていなかった)があり、積極的に飲んではいなかった。しかし、シアトルで飲んだクラフトビールはとにかく美味しかった。家で飲む用にも積極的にスーパーで色々な種類のIPAを購入し、私の充実したクラフトビールライフがはじまった。これは日本に帰ってからも熱が冷めることなく続き、のちのCMUでの1年の研究滞在の際に花開き、いまや地元新潟県十日町市に幼馴染と醸燻酒類研究所というクラフトビール製造会社を立ち上げるほどになった。

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もちろん、飲んでる最中にはインターン同期と色々な話をした。特に盛り上がるのは今後のキャリアの話であった。アメリカの博士学生には、大学教授や研究者になるために博士号を取るのではなく、イケてる民間企業での良いキャリアを構築する手段と考える人も多く、そういう考え方もあるのかと新鮮であった(私はもっと研究したい以外何も考えていなかった...)。それと、大学で研究することと、企業で研究することの違いの話もよくしていた。MSRの研究者たちは自分たちで最先端の研究をしてトップカンファレンスに沢山論文を出しつつも、プロダクトとも近いところで開発を行っていると感じた。印象的であったのは、メンターであるPrincepal ResearcherのPhil(" He did the first work on multiple reference frame video coding (used in all modern video codecs)"という研究者)がいまだに自分でCUDAのコードを書いてバリバリ実装レベルの議論までしていて、いやぁかっけぇなと感動したのを覚えている。そういった経験もあり、最先端の研究もしながら、それをプロダクトレベルにまで持っていける企業研究者に、長い研究者キャリアのうち一度はなってみたいと思うようになった。

実際、2度目のインターン中はMSRの研究者になりたいと思っていた。だが2017年のCMU滞在中に書いたように、自分の実力不足を大きく感じてしまったため、研究者としてもっと実力を付けたいと考えるようになった。そのため、博士課程修了後はHCIと他の分野を結び付けることができる研究者になろうと、東大生産研の佐藤洋一先生のところで4年以上の特任教員生活を送り、他分野間の専門家で協力していくことの重要さや、教育の尊さを学ぶことができた(2019年9月をもって大学教員は一旦やめてしまったが)。

今何をやっているか

そんな経験をしてきた私は、いまはPreferred Networksという企業でHCIxAIの研究者をしながら、副業としてクラフトビール製造企業の取締役をしている。正直、研究者としてはまだまだ実力不足を感じているが、少しでも自分のHCI研究者としての専門性を、社会で活かすことができないかと日々精進しているつもりだ。醸燻の方は、2年かけて今年10月末に初仕込みビールをようやくリリースすることができた。まだまだ、美味しくなる余地はあるが、これまでの研究生活で得た謙虚に学ぶ姿勢を大事に長い目で続けていきたい。

研究者として、クラフトビール屋として、辛くも楽しい日々を送れているのは、MSRインターンでの研究生活が大きく影響しているため、本当に感謝の念を抑えることができない。

最後に

再現性のない話を長々と書いてしまった。特に、現在の社会情勢では、今回書いたような海外インターン生活を送ることは当面難しいのかもしれない。それでも、あのときの挑戦がいまに続いていると考えると、やってよかったなと思えるし、挑戦は大事であると胸張って言い続けたい。

このような感じでMicrosoft Research Internship アルムナイ Advent Calendar 2020の1日目は終わりにする。翌日以降は素晴らしい方々にご寄稿いただけるのでご期待いただきたい。

最後に、醸燻のクラフトビールをよろしくお願いいたします!!!!
(写真は東京初お披露目をさせていただいたRyudaさんでの写真)

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