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【医師が解説】NMNって正直どうなの?

こんにちは。Wellness, Inc代表医師の中田航太郎です。忙しい労働世代が効率的な科学的に正しい健康管理を実現するためのパーソナルドクターサービス『Wellness』を提供しています。僕自身もFounderドクターとして、100名近いトップビジネスパーソンやアスリート・芸能人の健康と向き合ってきました。

健康意識の高い方々の間で話題になっているものに『NMN』と呼ばれるものがあります。アンチエイジング効果を期待して、サプリや化粧品ですでに摂取・塗布しているという方もいるかもしれません。実際のところ、効果はどうなんでしょう?

今回は老化のメカニズムについて簡単に触れ、NMNが効果を発揮すると期待される理由についてお話します。

なぜ私たちは老いるのか?(老化のメカニズム)

アンチエイジング(抗加齢)を目指すのであれば、老化のメカニズムについて理解することが不可欠です。原因が分からないものは解決できないからですね。

老化はまず、「連続的老化」と「非連続的老化」に大きく分かれます。

連続的老化とは、加齢(時間経過)や外部からのストレス要因によって徐々に細胞の機能が低下することです。世の中で『老化を防ぎたい』と言っている人は殆どの場合こちらの老化を意図しているでしょう。『脂っこいものが食べられなくなる』『シミやシワが増える』『物忘れが多くなる』といった症状で徐々に自覚されるものですね。

もう一つの非連続的老化とは、重大な疾病(心筋梗塞や脳梗塞、感染症)によって急激に細胞機能が低下することです。例えば脳梗塞を起こした場合、血管が詰まった部分から先には血流が流れなくなります。その結果エネルギー源が届かず、その部分の細胞は壊死してしまいます。これによって、その部分が司っていた機能は急激に損なわれることになります。このような悲惨な事態を防ぐことが、私たちが推進する予防医学の効果の1つです。

今回は皆さんがイメージする連続的老化について深掘りましょう。

連続的老化の原因は?

連続的老化の原因とはズバリ、『老化細胞の蓄積』と『細胞機能の低下』です。

①老化細胞の蓄積とは?

私たちの細胞には生まれながらにして分裂できる限界回数が決まっていると言われています(これを、ヘイフリック限界と呼びます)。

分裂に数が決まっている理由として、『テロメア』の存在が指摘されています。細胞が分裂を繰り返すごとにテロメアが短くなっていき、ある程度短くなると染色体の構造を維持できなくなり、分裂できない状態になるというものです。

そしてこれ以上分裂できなくなってしまった古い細胞を、老化細胞とよびます。老化細胞の蓄積は、周囲にある細胞の炎症やガン発生に関与する可能性が指摘されています。つまり、老化細胞の割合が増えること自体が病気(非連続的老化)を引き起こすリスクを高め、人間の老化を加速させます。

老化の原因の1つである『老化細胞の蓄積(割合増加)』を防ぐためには、①細胞分裂を無限にする(テロメアを伸ばす・保護する) ②古い老化細胞を早めに除去する といった対策が考えられます。

実際にこれらの方法や懸念点についても研究がなされています。(詳細は今回は割愛)

②細胞機能の低下とは?

もう一つの老化の原因が、『細胞機能の低下』です。皮膚の細胞機能が低下すれば正常なターンオーバーが行われずバリア機能やハリ感が低下しますし、胃壁細胞の機能が低下すれば食べ物の消化機能が低下します。老化細胞が増えているかと別の軸として、細胞機能が保たれているかが重要なのです。

細胞機能の低下とは、シンプルに言うと、ミトコンドリア機能の低下です。ミトコンドリアはエネルギー代謝に不可欠です。

ではミトコンドリア機能はなぜ低下してしまうかというと、1つは酸化ストレスを浴びることで発生する活性酸素による細胞傷害、もう1つはエネルギー代謝に必要な物質の欠乏です。

酸化ストレスを防ぐにはそもそもストレスマネジメントを行うことの他、抗酸化作用のある物質をとること、体内の抗酸化作用が正常に働く生活習慣を送ること、十分な睡眠をとることなどが重要です。酸化を進行させる要因として最近は「糖化」なども注目されており、慢性的な高血糖状態は老化を加速する可能性が示唆されています。

またエネルギー代謝に必要な物質として重要なものにはNAD+があげられます。NAD+は加齢によって減少する他、高脂肪食の摂取によって低下することも分かっています。加齢でどれくらい減るかというと、10代後半のピークから40代にかけて半分くらいに減少すると言われています。

ミトコンドリア機能が低下すると、私たちの身体に備わった活性酸素を除去する酵素(SOD)も減少することが分かっています。つまり細胞にダメージが加わる時間が長くなり、ますます機能が低下する悪循環に陥ります。

ミトコンドリア機能を正常に保つべく、早いうちから活性酸素によるダメージを防ぎ、必要な原料が十分にある状態を維持する必要があるのですね。

NMNはなぜ有効と考えられているのか?

さて、これまで老化のメカニズムについて簡単にお話してきました。では、NMNはどのように老化を防いでくれるのでしょうか?

NMNは、ヒトの体内で自然に産生される物質で、NAD+の原料となります。NAD+の不足はミトコンドリア機能の低下をきたす他、糖尿病等の疾患リスクを高める可能性が指摘されています。

またNAD+はエネルギー代謝を活性化するだけでなく、サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の活性化や加齢・ストレスに伴うDNA損傷の修復にも関わると考えられています。

NMNを補充することでNAD+合成を促し、ミトコンドリア機能の改善やサーチュイン活性化に関わるという事実が、NMNがアンチエイジングに有効と言われている所以です。

では、NMNサプリには効果があるのか?

では、世の中に出回っているNMNサプリには効果があるのか?これに関しては全く答えがわかっていません。理論的に推測されることと、実際のアウトカムが得られることは全く別物なのです。

マウスにおいて寿命延伸が指摘されているとはいえ、それが人間において成り立つかは全く不明です。また、必要容量もマウスとは大きく異なるはずであり、どれくらいの量の投与で効果を発揮するかは分かりません。

過去の論文をみると、人においては漸く肥満患者や糖尿病患者でのデータ推移を評価する研究が出てきた程度であり、健常者において実際に寿命延伸に繋がるというエビデンスはありません。

また用量についても注意が必要です。多くのNMNサプリ会社が引用している論文はマウスに対して12ヶ月前後、100〜300mg/kgのNMNを投与した場合の寿命延伸効果です。しかし、世の中に出回ってるNMNサプリでは1粒100〜200mgのものがほとんど。70kgの男性とすれば、2mg/kg程度ということになります。これでマウスでの研究と同じだけの効果が得られるとはまず考えにくいですよね。。

例えばお酒で考えれば、毎日大量の酒を飲むのは確実に死亡率を高めますが、毎日1杯程度であればほとんど変わらないというデータがあります。つまり、何事も「用量依存性」であるということが重要で、どれくらいの用量を投与すればどれくらいの結果が得られるのか?を検証しない限り、効果は証明できないのです。

少なくとも過去の研究において、NAD+が一定量維持されている20〜30代の人がNMNを摂取しても、ほとんど効果は期待できないでしょう。(NAD+の産生量が低下する40〜50代以降であれば効果がある可能性はありますが、それを裏付けるデータはまだありません)

またヒトでの安全性に関しても、健常者男性10名に対して、100〜500mgの短期間投与でしか示されていません。マウスでは雄よりも雌の方が強く効果が発言する性差も報告されていますので、女性での安全性は示されていないといえるでしょう。

もし仮に年齢が若いにもかかわらずNMN内服で効果を感じたとしたら、(勿論プラセボの可能性もありますが、)年齢不相応に相当の酸化ストレスがかかってエネルギー代謝障害・疲労が発生している状態と考えられます。そうであれば、NMNを摂取することよりも、酸化ストレスを抑制する生活習慣を築くほうがずっと効果が見込めますし、コストもかからないでしょう。

まとめ

NMNは作用機序を考えればこれから期待できる分野ですが、ヒトでの効果を示すエビデンスは残念ながらありません。
どの程度の用量で効果を発揮し、どれくらい摂りすぎると有害かどうかは分かっていません。(適正用量が分かっていません)
サプリが腸管でどの程度吸収されるかも分かっていません。

いま市販で売っているNMNサプリで寿命が延びる可能性は、0ではありませんが、今のところの論文や用量をもとに判断すると著名な効果は期待できなそうです。
むしろミトコンドリア機能の低下が老化の原因であることを考えれば、酸化ストレスを防ぐ生活習慣の構築の方が優先度は高いでしょう。

Wellnessでは、専属のパーソナルドクターがメカニズムからあなたの身体を紐解き、最善のアウトカムを得られるようサポートしています。エビデンスに基づいた本当のアンチエイジングを実現したい方はぜひご相談ください。

では、また。

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