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【シリーズ映像学①】「試写」、嫌いですか?

こんにちは、
ペパーミンツの映像ディレクター・牟田(ムタ)です。

早速ですが、前回ご案内させて頂きました、
シリーズ映像学』をスタートしたいと思います。
(シリーズに込めた思いは、下記をご参考ください!)


お待ちかね?の、第一回のテーマは・・・

「試写」、嫌いですか?


・・・・。

見た瞬間、そっ閉じな方が続出しそうなテーマです。
テレビ関係者の嫌いなワードランキングがあれば、
確実に上位に食い込むであろう、
それが「試写」です。

一方で、
近年増えているワンマン完走型のビデオグラファーや、
一般企業の映像チーム等では、
「試写」というプロセスを行わないケースが散見されます。

今回は主にテレビ業界の「試写」システムについて、
試写とあまり馴染みのない制作者に向けて、
簡単にお話させていただきます。

試写前の編集室からAM4:25をお伝えします・・・

「試写」って何?

映画の試写会等で聞き馴染みがあるかと思いますが、
異業種の方や一般の方に向けて簡単に紹介します。

試写とは、映画など映像作品の製作段階において行われる映像チェックのことである。

wikipediaより

主にテレビの話となりますが、
放送前には何度も「試写」が行われます。
編集マンとディレクターは、
試写をひとつの目標点として、
夜な夜な編集室で編集を進めるわけです。

試写は番組や作品の規模、
スタッフの関係値や実力に応じて回数が増減します。
一般的なプロダクションワークでは、

試写1回目:社内試写(社プレ)
出席者:プロデューサー、ディレクター、編集マン、AD
   (場合によってデスクやAP)

主にディレクター、編集マンが編集した映像を、
社内のプロデューサーに確認してもらいます。
ADは取材先に事実関係の確認、
著作権の確認や処理まで行います。
映像の尺はまだ長く、完成度はまちまちです。
Pによりますが、比較的身内感のある雰囲気です。

試写2回目:局試写(局プレ)
出席者:放送局のP、プロデューサー、ディレクター、編集マン、AD
   (場合によってデスクやAP)

放送局のプロデューサーに映像を見せる場です。
社内試写とは打って変わって、やはり緊張感があります。
映像は、社内試写を踏まえた修正版にアップデートされています。
大抵徹夜で迎えます(泣)
超優秀なDだと、この試写で編集を終えることができます。
(私はいつも無理です)

試写3回目:局試写②(局プレ②)
1回目の局試写で出た意見を踏まえ、修正した映像を見てもらいます。
この頃には「ほぼ尺」になり、完成度が高まっています。

ちなみに3試写でも話がまとまらないと、
4試写、5試写、6試写、7試写・・・・
と、試写無限地獄へと陥る時があります。
戦場と化した編集室からは、
負のオーラ、怒号、異臭(帰れない)が
放たれることとなります。

とにかく、
試写は様々な立場の人から
「あーでもないこーでもない」と言われます。
素晴らしい意見、ハッとする意見、
時に無責任な意見も含めて、
『意見に揉みくちゃにされる場』なのです。

AD時代に目撃。某先輩Dの試写前の喫煙量・・・
(ストレスが可視化されていて思わず撮ってしまった)

「試写」がない苦しみ・・・?!

脈絡おかしいですが、
私は「試写」って素晴らしいな、
と最近つくづく再認識しました。
あんなに辛かった試写を、
自分から願ってでも行いたいようになりました。

なぜ、そう思ったのか?

理由は、プロモーションビデオ等の、
いわゆる企業案件としての映像を手掛け始めて、
ワンマンで完パケる機会が増えたからです。
ワンマン、すなわち1人になると、
「試写」がワークフローから抜け落ちてしまったのです。

するとどうでしょう。
「この話ちゃんと伝わるかな?」
「この構成(話の流れ)もっと良くならないかな?」
「見てて飽きないかな」
などなど、
自分の作品に、孤独に思い悩む時間が急増しました

完パケやリリース前に他者のフィードバックが得られないのは、
想像以上にしんどいものがあります。
私は「俺の作品に他人の意見なんて必要ない」みたいな
アーティスト的全能感を持ち合わせていないので、
とにかく不安や悩みが多くなってしまいました。

編集室は滞在日数が増えるにつれて生活感が出てきます。

今こそ自発的に「試写」を!

試写の辛さの一片、
そして試写がないことで生じるしんどさの話をしてきました。
最後に、私なりの「試写のススメ」をお伝えします。

①他者の意見による気付きが、映像品質を高める
総じてディレクターは、
映像、そしてテーマに並々ならぬ情熱を持っています。
それは素晴らしい原動力となる一方で、
時に「盲目的」になる要因になります。

試写の段階で、
他者の目線(=一般視聴者とも言える)が加わることで、
あなたの映像は一段とブラッシュアップされるはずです。

自分の映像に意見を言われることはとてもしんどいです。
「つまらない」「わからない」なんて言われたら、
制作者のプライドはズタボロになります。

ただ、そんなストレートな声はひとつの事実
すべてを受け入れる必要は勿論ありません。
ただ、一度謙虚に意見を受け入れて、
自分なりの映像の解答を考えてみる。
そうすることで映像が、きっとよくなるはずです。
プライド、情熱、葛藤、無力感の中で、
ディレクターはより良い映像を作れるようになる
のです。

②リスクヘッジとしての試写(技術編)
リスクヘッジとは、
「起こりうるリスクの程度を予測して、
 リスクに対応できる体制を取って備える」
こと。

試写という「複眼チェック」を行うことで、
例えばノイズ、音声トラブル、フォーカスの甘さなど、
映像品質としてのリスクに、
ポスプロ(仕上げ)前に気づき対処することができます。

③リスクヘッジとしての試写(コンプライアンス編)
また一方で、
「この写り込んでる資料って放送して大丈夫?」
「この発言、誰かを傷つけない?」
「このカット、場所や個人が特定されてしまわない?」
などなど、
コンプライアンス的なリスクにも気づくことができます。

編集は過労で頭も朦朧としてくるので、
一人の「単眼チェック」では、
どうしても気付きにくく、ヒューマンエラーが生じます
冷静な誰かの目で見てもらうことで、
気付けるリスクは沢山あるはずです。
「自分を過信しない」ことが大切です。


【要注意!】試写の危険性とリスク

試写のプラスの一面を述べてきましたが、
偽造・捏造が起こるのも試写・試写前後なのでは、
と常々感じています。

例えば、
世間を賑わせた下記の事案。
試写とは切っても切り離せない問題と言えます。


試写という緊張感ある場があることで、
・もっと面白くしないと不味いかも
・わかりやすくしないと伝わらないかも
・素材が足りてないから怒られるかも
といった強迫観念的なプレッシャーから、
様々な問題が起こる可能性が予想されます。

またどうしても、
「立場の上の方の意見が通る」
側面は否めません。
どんな偉い人の、どんな意見だろうと、
事実と異なることに対しては、
ディレクターや現場は毅然と向き合わないといけません

何でも鵜呑みにするのは、
前述の「謙虚さ」とはまったく性質が異なります。

この話は非常にややこしく難しいので、
今回は深入りしませんが、
最後に、「試写をする人」に向けてアドバイス(お願い)
があります。

試写をする人へのお願い

ディレクターや編集マン、ADさんは、
試写に至るまでに血を吐くような努力をしてきました。
時にプライベートを犠牲にし、
映像を面白くするために多くを掛けてきました。

時に厳しさも必要ですが、
お互い「制作者としてのリスペクト」を持って、
「思いやりを持った言葉」でフィードバック
するようにしていただきたいです。

良い試写とは、
「皆で面白くしよう!」という土壌のもと、
「前向きで建設的な意見」を、
「フラットな立場で交わらせる場」
だと思います。

長くなりましたが、
是非試写という行為を再認識し、
自身の映像をブラッシュアップするシステムとして、
有効に活用していただけると嬉しいです。
ワンマン制作者の方は、
コンプライアンスで見せられる範囲内で、
是非試写を心がけてみてください。

それでは、また次回。
最後までありがとうございました。

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