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詩集 〜船〜

【船】

まっくらな海を
船は進む

たくさんの人を乗せて
たくさんの人が行きたがる港を目指して
まっくろな煙をあげながら
船は進む

生きるということは
大きな船から自分だけの小さな小舟で飛び出していくこと

信念という自分だけの灯台を遥か彼方にうちたてて
正解も轍もない暗闇の海をそれでも進んでいくこと

願わくば
すべての人々が

大きな船を飛び出して
自分だけの小さな船で漕ぎ出す勇気を持てますように

その人にとっての本当の灯台を見つけられますように
その人の本当の願いをたずさえた その灯台は
その人だけでなく 世界を照らす光になる

そして何より
私の船が
人々の進む船が
進むための黒い煙をあげませんように

これ以上
このまっくらな海が
くろに染まらぬように

私たちが
それぞれの灯台にたどり着き
その道を振り返ったとき
ひそかに胸をはれるように

船よ進め
ゆっくりでいい

できる限り誰も傷つけない進み方で
美しい夜明けを目指して




【空港】

見知らぬ空港にひとり
折りたためば大人も入る
大きなリュックと待ちぼうけ

ぼくのリュックにはなんでも入る
テントもカメラも三脚も
本も着替えも寝袋も

それでもすべては入らない
本100冊は入らんし、
長過ぎる三脚も入らない

ぼくたちが
旅に
未来に
連れて行けるものは少しだけ

目に付くもの
キラキラしたもの
全部拾って詰め込んでたら
きっとぼくらは
どこにもいけない

選ぶんだ

自分がその身に背負うもの

自分が未来へ運びたいもの

あなたが荷物を詰めるとき
選び方を間違えてはいけないよ

あなたがそれに触れたとき
あなたの心臓が力を帯びる
踏み出す一歩に意味を感じる
そんなものだけ連れていけ

捨てたくないもの
捨てなきゃいけない時もくるだろう
それでも
ぼくが選ばなきゃいけない

だってこれはぼくの旅
誰も見たことがない景色を目指す
孤独で楽しいぼくの旅



【きみへ】

きみの
小さな小さな
息づかいをおもう

この青い
大きな大きな
世界の反対側
世界の果てを走りながら


きみには
知っていてもらいたい

その呼吸ひとつで
きみの存在そのものが

森に咲く一輪の花のように
唯一無二の太陽のように
川底に沈む石ころのように
草をはむ子鹿のように
今まさに終わろうとする老人の命のように

美しく
この世界になくてはならないものであると

これから始まるきみの人生
その旅を終えるまでの道中で
きみはたくさんの暗闇と絶望に触れるとおもう

そんなとき
このことがきみを導いてくれると
ぼくは信じているよ

ようこそ
この影を抱えた美しく素晴らしい世界へ

きみの誕生を
心から嬉しく思う



【手紙】

大きな門出に立つ君へ
灯台を打ち立てろ

ぼくは確信している
君の灯台は世界を広く照らす

君が君である証を示し続けるんだ
人間の、人生の価値が一体何で決まるのかを
その君なりの答えを世の中に叩きつけろ

これまで、そしてこれからも
ぼくらの命を支え続ける命たちに
誇れるような生き様を刻もう

君が本当に大切にしたいこと、信念だけは死んでも守り抜け
それらを失ったら実体を失ったホログラムと一緒だ

ぼくの言葉ではないが この言葉を贈ろう
「愛するものを愛するために 全力を尽くせ」

君はこの社会に対して思うことがあるはずだ
そんな社会に身をゆだねてはいけない

可能ならば声をあげてほしい
その生き様が君自身をよく示し
良い仲間と出会うきっかけにもなるはずだ

君がきみを貫くことで
生活が苦しくなったり
壁にぶつかったりすることもあるだろう

そんなとき
きみが帰ってこられる場所を作れるよう
ぼくも頑張る

だから恐れるな
君ならできる

きみとともにこの人生を駆け抜けられることを
嬉しく思う

どうか元気で



【たんぽぽ】

みらいも
かこも
おかねも
ちいも

あってないようなものに
ながされず

ぼくたちのじんせいは
たんぽぽのわたげのように
じぶんのこころという
かぜの ふくまま おもむくまま

いつか
たどりつくべきばしょに
むかえられ
ねをはり
そしてはなをさかせ

またそこから
ひとのじんせいが
はじまるのでしょう

さあ
ゆうきをだして

ふぅーっと
こころのかぜを
つかまえて



【主人公】

いつだって
きみが主人公だ

そのことを忘れてはいけないよ

きみはいつだって
その光で空気に色を染めてきた

きみがいればどこだって
その空間はきみ色になる

その色はいつも
あたたかくて軽やかで

きっとそれは
きみのためであり
きみのためでないのだろう

ぼくはそんなきみが大好きだ

でもね
きみ自身わかっていることだけど
きみはまだ
きみ自身の輝きを隠しているね

どんなに美しい宝石でも
地面から掘り出して
磨いてあげないと
その輝きは日の目を見ない

今度は君が照らされる番だ

例えそれがどんな色をしていようと
ぼくはきみの中の宝石を見たいんだ

掘り出す道具はどこにあるだろう
掘り出すためにジャマなものはなんだろう
どこから掘ればいいんだろう

大丈夫
全部きみが知ってるよ

焦らなくていい
ゆっくりでいい

ただ自分から目を離してはいけない
怖くても 体が嫌がっても
心が引っかかったものを
ひとつずつ拾いながら進むんだ

いつだって
きみが主人公だ



【雪の森】

雪の森が好きだ

どこまでも静かで
生きる木々の
力強さだけが色濃い
美しい雪の森が好きだ

いつも思う

わたしの心にも
雪が降ってくれたらいいのに

そしたらこのうるさくて醜い心にも
美しさと静寂がやってくるだろう

その冷たさが
わたしの鼓動の熱さを
きっと思い出させてくれるだろう

わたしの心に
降れ
雪よ


【暖炉】

あの日々の
再来を願っていた

あんなにも
寒くて暖かい
静かで賑やかな
あの日々のことを

しかしいま
あなたとの何気ない時間のなか
不意に悟った

もうあの日々の再来はないのだと

記憶はどんどん薄れていく
吹雪の中振り返ると
かつて歩いた風景が
少しずつ見えなくなっていくように

寂しいことです

特に寒くなるといけません
あの暖炉を思い出してしまうから


あの頃
よくあの場所で流れていた音楽を
今もよく聞くのです

音は形なきタイムカプセル

あの頃の記憶と感情を今に運ぶ

私はずっと
この音楽を聞き続けるでしょう

どれだけ記憶が薄れようとも
もうあなたに会えなくなっても

私とあなたがそこにいたことを

過ぎゆく季節のすきまの
小春日和のようなあの日々が
確かに存在したことを

私の心が忘れてしまわないように
いつまでも抱きしめていられるように

そして
いつかの再会と
いつの日か別の形であんな日々が
未来で待っていることを信じて

寒空の下
今日も生きていきます



【祝命】

人と人とがともにいる
当たり前のように見えて
実はとても大変なこと

ひだまりに寄り添う草木も
地面の下では削りあう

そんな世界で
あなたといのちを祝い合える

人と人とが出会う
当たり前のように見えて
奇跡のようなこと

これだけ人がいるのだから
誰かに出会うのは当然かもしれない

ただ、目の前の人に出会えたことは
あのとき涙した景色と同じように
二度とあるようなものではないのです

この道を歩ききるまで
いつ倒れるかわからぬこの道だが
悲しみと喜びに満ちたこの道を
例え距離が離れていても
真心をこめて共に歩いていきたい


どうせ歩くのなら

足音を踏み鳴らそう
遠くの仲間に届くように

一歩一歩踏みしめよう
それがどんな一歩でも
そこからの景色は今にしか輝かぬもの

ふたたび足並みがそろい
あなたたちの笑顔の合唱に
声を重ねるその日まで

この道を 笑顔でつなごう



【燈】

絶望に包まれたこの世界
どの方角に歩いても
明かりの見えない暗闇のなか

ぼくたちはこの命が続く限り
それぞれの胸のなかに
火を育まねばならない

小さくてもいいから
少しずつ
少しずつ

ぼくたちの行く末を
ほのかにでも照らせるように

暗闇のなか 彷徨い続けて
手探りで見つけてきた
宝物をその火にくべて

火にくべるのは
見つけてきたモノのなかでも
あなたが本当に
大切だと思ったモノだけ

あなたが育てるその火が
少しでもあなたの色をして
優しくあたたかくなるように
間違った道を照らさぬように

強風吹き荒ぶ暗闇のなか
私たちの火は
いつも風前の灯

身を挺して覆い
守るように
あなたの火を育まねばならない

ぼくらが育てた
この小さな炎が
これからこの暗闇を生きる誰かの
希望の燈となるかもしれないのだから

小さくてもいいから
少しずつ
少しずつ

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