2023年のメタバース業界大予想
あけましておめでとうございます。
VRで入るメタバース楽しいですよね。
年初ということで、23年の予想をしようと思います。コメントをしたいというより、その予想を踏まえて、自分のメタバース上での活動方向を考えていきたいという位置づけですので、予想についての議論は歓迎します。
断っておきますが、すべて個人としての分析・コメントであり、所属・関連する組織を代表するものではありません。
1.ハードウェア編
まずは、VRを中心とするハードウェア関係です。
1)HMD
2022年に一番売れたHMDは間違いなくmeta Quest2です。metaアカウントの問題やら値上げの問題やら、QuestProが出るなどいろいろありましたが、一般向けの定番はQuest2のままです。
2023年も基本的にはQuest2(もしくはその後継機のQuest3)が中心という状況は変わらないでしょう。
Quest2と同等レベルの製品を作れる企業はいくつかありますが、すでに実績があり、さらに限界まで低価格にしているQuest2相手ではなかなか対抗するのは難しいです。結果的には他社は高級路線や特殊用途特化などの路線になると思います。
波乱要因は、PSVR2です。PS5の供給に関する問題が解決していないのであまり宣伝をできていませんが、発売する以上、シェアを取ることを考えているはずです。現状のVR機器の利用目的のかなりの部分がメタバースである以上、何らかの形で対応される可能性が高いと予想しました。
2)コントローラ(手)
VRのコントローラーについてですが、23年も手に握る形のコントローラから大きく変化はないと予想しました。
Quest2にはハンドトラッキング機能があり、精度的にはそれなりに使えるのですが、メタバース関連ではほぼ使われていません。
この理由として、ハンドトラッキングに空間内での移動入力をうまく組み込めないことがあると考えています。(ジェスチャー入力は精度も低く、かつ操作者の疲労面でも課題があります)
もしかすると、手に握る形のコントローラーとその上のジョイスティックは、キーボードのQWERTY配列のように、最悪と言われながら延々と残る形になるのかもしれません。
3)全身キャプチャデバイス
フルトラッキング呼ばれるデバイスですが、2022年12月に突如Sonyがmocopiを発表し、話題が盛り上がりました。
mocopiは、ハードウェアデザインもソフトウェアもよくできているという評価ですので、供給問題がなければ普通に売れるデバイスになると思います。
ただ、全身キャプチャデバイスについては、有効に活用できる場面が少ないのが課題です。ライブや演劇など演者がモーションを見せる面では確実に効果があるのですが、それ以外の場面についてはなかなか微妙です。
・日常的なコミュニケーションにおいて差があるのかが不明(個性のようなレベルで扱われてる気がする)
・デバイスが一般化していくなかで、特別感はなくなっていく
・精度や疲労の関係で、全身を使ったゲームもあまり普及していない
とはいえ、デバイスの普及が、コンテンツ制作者を刺激するのは基本ですので、2023年は、全身動作を活用した面白いコンテンツが出てくることを期待してます。
全身動作を使うゲームを長時間やるのは難しいですが、スポーツのような競技として位置付けてみるのも一つのアイデアです。
2.イベント編
続いてメタバース上で行われるイベントについての予想です。
1)商業イベント
当事者じゃないのですが、メタバース上の商業イベントは、曲がり角にきていると感じています。理由は以下の3つです。
・メタバースというだけでは、一般(メタバースの外)向けに新しさをアピールできなくなってきている
・物理イベントの制約がなくなり、物理イベントのノウハウを持つ事業者が無理にメタバースでイベントをやる必要がなくなった
・メタバースのユーザー数と、一人当たりの課金額を考えると、課金だけではプロのクリエーターを活用したコンテンツの製作費を回収できない
ユーザー数の話は、将来的な増加を見越した投資という説明もできるのですが、(物理イベントの制約がなくなったことにより)ユーザー数が劇的に増えない状況では、なかなかその説明にも難しさがあります。
2023年のイベントはすでに準備が進行しているので、一見活況という形になるかと思います。ただ、2024年以降の新たなイベントを立ち上げる際に影響が出てくるかと思います。そういう課題を乗り越えて、持続可能な成長を実現してほしいとは思っています。
2)音楽ライブ(商業イベント除く)
音楽ライブは、メタバースの定番イベントになりました。HMDをかぶったまま歌う演者も増えてきましたし、楽器演奏時の手の動きをメタバース上に持ってくる仕組みも導入され始めてます。
この流れは2023年も変わらないと思いますし、引き続き演者の新規参入もあると思います。
課題としては、気軽に有料ライブを開催できないことがあります。グッズ販売や、YouTubeを通じて収益確保の手段はありますが、メタバースライブを主戦場に戦ってる演者にしてみれば直接収入が得られる状態(無料ライブにするか有料ライブにするかを選べる)の方がよいはずです。
有料ライブを解禁するかどうかはプラットフォーム側の判断次第なので、2023年中に解禁される可能性は大いにあります。ただ、演者の側も有料ライブならではの価値を考えて、チケットを売れるようにする必要があるので、定着までは時間がかかるでしょう。
3)演劇関係
2022年は、VR演劇が結構盛り上がってきた年でした。もともとメタバースは演劇に向いた仕組みなのですが、演劇の経験がある人がメタバースにくるようになり、いろいろな団体が立ち上げられるようになりました。
この傾向は2023年も続いて、様々な団体が公演をやっていくと思いますし、演目の幅も広がっていくことが期待できます。
ここで、演劇は音楽ライブ以上に制作にかかわるメンバーが多いことや、ワールドギミックの制約などで観客数が制限されることから、有料チケット制との相性はいいです。ただ、分野自体出始めなので、もう少し公演数が増えて、評価が定まってからという気がします。
私自身も、猫日和きゃりこさん主催のVRイマーシブシアターのプロジェクトに参加させていただいており、作る側としていいものを見せたいと思っています。
4)学術イベント
新型コロナが流行している間、アカデミックの学会はオンラインで実施されていましたが、2022年後半あたりからオフラインの開催が増えてきていました。その理由として、十分なコミュニケーションを取るには対面がよい、と言われていました。
メタバースに慣れた人からすれば、Zoom会議ならコミュニケーション不足を感じるのもわかるし、メタバースを使ってみてから「対面じゃないと」と言ってほしい気持ちはあります。
ではなぜメタバースを使ってみないのか、という疑問が出るのですが、一言でいえば、参加者の多数がメタバースに入れる環境にないから、です。研究者なら高性能PC持ってるので、スペック的には十分なのですが、セッティングにはある程度のノウハウが必要ですし、企業内のネットワークからだとメタバースにつなげないという制約が多くあります。
バーチャル学会は参加できる環境にある人だけで集まるということで、この制約を乗り越えている例であり、着実に実績を積み重ねています。将来的には普通の学会もこのレベルでメタバースを使えるようになってほしいとは思っています。
要するに、2023年も学術イベントのメタバース活用はあまり進まないとは思います。
少し違う話になりますが、最近は論文にビデオを付けて投稿する仕組みができています。この流れの延長で、論文の付録としてメタバースのワールドを付けるような時代が来たら楽しいとか思っています。
3.プラットフォーム編
2022年、全体的に見ればユーザーが増えていった年であると思います。また、様々な会社(ドコモなど)が自社ブランドでのメタバースをスタートさせた年でもありました。
1)自社ブランドメタバース
既存のプラットフォームを使えば、いろいろ楽ですが、一方で、ビジネス展開には様々な制約を受けてしまいます。ある程度の資本力のある会社が、自社でメタバースのプラットフォームを作る事例はいくつかあります。
さらに、こういう企業をターゲットに、OEMでプラットフォームを提供することに注力している企業もあります。
これらのメタバースですが、自社でプラットフォームを立ち上げるぐらいの投資規模の場合、長期計画ですので、2023年はコンテンツの拡充とユーザー獲得の施策を着実に進めることになると予想しています。ビジネスとして成り立つ流れを作れるか、という面では正念場ですが、ユーザー側から見れば、いきなりサービス終了もしないし、かといって急激に成長することもない、といった感じになるのではないかと思います。
2)大手メタバース
大手と言いつつ実質的にclusterのことになるのですが、これまで商業イベントがビジネスの柱でした(会社資料で公表している)。ただ、この流れは前述のとおり曲がり角にきています。
そこで、もう一つの柱として狙っているのが、3Dアイテムのマーケット機能における手数料収入ということのようです。ワールドクラフトは機能としてよくできてるし、マーケットもスマホユーザーの多いプラットフォームの特性をうまく生かしているし、さらにリリース後も丁寧に盛り上げてる感じで、この辺りはうまいと感じます。
ただ、マーケット機能をプラットフォームに組み込んでしまうことには弊害があります。購入体験の便利さと引き換えに、アイテムの持ち出し・持ち込みが制限されてしまう懸念です。スマホゲームであれば、ゲーム内アイテムをそもそも持ち出す概念があまりないので、スマホユーザーとの相性はいいのですが、ほかのメタバースも使ってるユーザーからすれば、囲い込みされるといろいろ不便があります。
囲い込みは本来の意図ではないとは思うので、持ち込み・持ち出しへの対応も将来的にはされるとは思うのですが、収益への影響で見れば短期的にはネガティブな機能ですので、優先度の設定が難しいところです。2023年はそのあたりの試行錯誤が行われるのかと思います。
3)アバター制作
2022年、アバターに関するトレンドは、着せ替え衣装やその衣装を着せるためのツールの発展と、Unity等の高度なツールを使わずにアバターを作れるサービス・ツールの普及です(着せ替えツールと一部機能がかぶりますが)。衣装が増えてきたのは、アバター本体のクオリティがあがって新規参入が難しくなったことや、最近普及しているアバターが着せ替えに対応した構成になっていることなどが要因だとは思いますが、この辺りはそこまで詳しくはわかりません。
2023年も、高度な表現をしたい人はUnityを使うし、そうでない人は着せ替えも含めて操作が容易なツールを利用するようになると思います。着せ替え用アイテムの需要も2023年中は引き続きあると思います。ただ、季節が一巡してある程度出そろった後、衣装が売れなくなる時期が来るとは予想しています。
4.新規活用場面編
ここまでは現状のメタバースの利用場面を中心に見てきましたが、もうちょっと外側から見た、新たな活用場面についてもみていきたいと思います。
1)教育分野
N高S高の事例があるので、メタバースを教育に活用できること自体は証明できてます。ただ、一般的な学校で活用するのは、これからという感じです。
一方、GIGAスクール構想の結果、現在iPadなどのタブレット端末が小学校で利用されています。知らないうちに学校の環境も変わってしまってるのです。実際のスペックはわかりませんが、メタバースアプリを組み込めるタブレットもあると思います。
遊び目的のアプリと思われてしまうと、親からの抵抗もあるかもしれませんが、ある程度管理されたメタバースを使って、学校と生徒とのコミュニケーションや自宅学習の支援をするという枠組みとして見せれば十分実現は可能です。23年にはそういう事例がでてくるかもしれません。
2)医療分野
コロナウィルスによるイベント制限はなくなりつつありますが、相変わらず医療現場には大きな負担がかかっています。
その軽減のために、医療行為のうち、直接接触しないと行えないもの以外は、オンラインでの実施が許容される流れにあります。例えば、事前に撮影した画像データの説明や治療方針の確認などは、接触が必要ではありませんので、こういった行為をオンライン化していくことになるかと思います。
オンライン化は電話やWeb会議でもよいのですが、メタバース的なコミュケーションツールの導入により、診断や理解が容易になる効果は見込めますので、環境が整えば活用してみる事例が出てくると予想しています。
3)高齢者福祉
高齢者施設の高齢者にVRHMDをかぶってもらって、旅行体験をしてもらうような事例などがすでに出てきており、「高齢者にメタバースは無理」ではなくなっています。高齢者が出かけるのが難しく、コミュニケーション部不足になる問題も、メタバースであれば解消できます。
高齢者の家に導入するには、導入時やトラブル時の手厚いサポートが必要という課題はあるのですが、地域にボランティア組織などを立ち上げれば十分運用可能という気はしています。
5.地域創生編
実際の地域と連動するメタバース、これまでもいろいろな事例が出てきていますが、この分野についての予想を書きたいと思います。
1)観光需要喚起目的
事例を見ていく中で比較的多いのが、観光客にアピールして、実際の地域にきてもらうことを目的としたメタバースです。フォトグラメトリの技術をつかって、実際の観光スポットを撮影して、メタバース上に再現するものや、現地の空間のエッセンスを再現したものなどがあります。
こういったメタバースの最大の問題は、空間だけあっても、メタバースへの来場者が実際に観光地に行く効果があまり高くない、という点です。空間だけでは、実際に行ってみたいと思うきっかけがありません。
ご当地Vtuberも活用して、イベントなどを積極的に打って、その地域のファンを増やしていく活動の一環でメタバースを使う、のが一番いい方向だと思っています。そういう意味では、バーチャル沖縄は相変わらず上手にやっている、という印象です。
2023年、旅行の制限がない中、メタバース上での活動が観光地にきてくれる観光客の増加につながったのかを計測する場面が出てくると思います。(このために、メタバース上で配布して現地で使えるクーポン、とかが出てくるかもしれません。)
あと、観光業は国の助成金がいろいろありますが、IT関連の事業の場合地元が主体的に動けていない場合があるといわれています。地域にITに詳しい人材がいないという実情はあるものの、メタバース関連で何かやるには、地元側のリーダーがメタバースでやれることを理解しておくことは必須だろうとは思っています。
2)地域住民向け
もう一つのメタバース活用用途が、その地域に住んでいる住民向けのコミュニケーションスペースの提供です。地方自治体はいろいろなサービスをやっていますが、住民にうまく情報が届いていないというのは全国に共通する課題ですし、新しい住人の多い都市部で地域のコミュニティが機能していなかったり、地方では人口密度の低下により、車で移動しないと近隣に人がいなかったりする課題があります。
そこで、コミュニティセンター的な機能をメタバース上に作ることで、物理的なコミュニティセンターだけではカバーできなかったこれらの課題に対応できるようになるのではないかという仮説です。この辺りはバーチャル大阪館に関する記事として以前書いている話からあまり変わっていません。
2023年の展望ですが、こちらの普及はまだまだ先という感じです。学術イベントのところにも書きましたが、メタバースを使えない人の方が多い状況であるためです。ただ、将来的にはメタバースを活用した公共サービスは必要ですので、今の時点で実験的に活用してみるといったことはされるかもしれません。
6.コミュニティ編
メタバースで長く活動しているユーザーは、何らかのコミュニティに属している感じがあります。(あまり明示的でないにせよ)
そういう意味でメタバースのユーザーというのは、メタバースのコミュニティに参加しているユーザーの合計、という意味合いにもなります。そういうわけでコミュニティについても書いておきたいと思います。
1)入りやすく、活躍しやすいコミュニティ
メタバースは自由度が高いので、活動目的が決まらないと何をしていいかわからなくなるので、ある程度操作に慣れてきたら、活動目的を決めてその関連するコミュニティに入るというのがいいと思います。
ただ、活動目的を決めるのもなかなかに難しいですし、以前からある組織に、いきなり新人が入ることの難しさもあります。
そういうわけで、新しく入ってきた人とコミュニティの接点を作るということ、そしてコミュニティの側もちゃんと受け入れる仕組みを作る、ということが重要になってきます。
難しいのは、ユーザーごとに、持ってるスキルもモチベーションも、活動頻度も違うということです。また、人は活躍してる実感が感じられないと続けるのが難しいので、特に初期は、活動している実感を感じられるようにコミュニティの側でちゃんと設計する必要があります。一方で、コミュニティ運営の側もボランティアであり、十分に目が行き届かないことがあります。そのあたりをうまくやる技術はコミュニティマネジメントと呼ばれる分野であり、技術コミュニティの運用の事例をもとにしてまとめられているようです。
というわけで、2023年は、コミュニティマネジメント分野への注目が高まると予測していて、自分もこの辺り勉強したいと思ってます。
人の魅力で人は集まるのは事実ですが、うまく運営するための先人のノウハウを活用すれば、より多くの人にとってコミュニティが心地よいものになる、ということは納得いただけると思います。
(参考になるスライドがありました。)
3)企業によるユーザー・ファンコミュニティ
唐突ですが、広告とは対象者が知らなかった製品・サービスを周知し、ポジティブな印象を与えて、最終的に購入してもらうための活動です。そして、近年マス広告から、インフルエンサを活用したSNS中心の広告に移行してきているのですが、ステマのような雑な行為が後を絶ちません。その一方で、D2Cと呼ばれる、ユーザーにファンになってもらい、自身に拡散をしてもらうスタイルの企業が出てきています。
このD2Cモデル、メタバースとの相性が良い形態です。オンラインなので、製作者と顧客の相互コミュニケーションの機会は多く作れますし、アバターの身体があることで、信用度も増しています。VRゲームを作ってるMyDearestさんがやってるのはある意味この形かもしれません。
自社製品のユーザーコミュニティやファンコミュニティをメタバース上で形成することによる経済的効果は十分に期待できます。また、すでにウェブ会員やポイントカードなどでユーザーのネットワークを構築している企業が、そのネットワーク強化にメタバースを活用する使い方もありえます。
企業がコミュニティを作るという以外に、既存の関連コミュニティに対してスポンサード(支配ではなくてあくまで支援)することで、ファンコミュニティに近い存在として活用するという方向もあるかもしれません。
2023年はこのように、コミュニティと企業がマッチングして、共栄の道を探っていく展開になると予想しています。また、コミュニティそのものではなくて、コミュニティ運営経験者を、企業が採用するような事例も出てくる可能性もあります。
7.まとめ
いろいろな分野を雑多に書いたのですが、商業イベントが曲がり角にきていることは大きな問題です。商業イベントに限らず、様々な活動が、持続可能なのかを一度考える時期がきたように思います。そして、持続可能な成長を実現するためのポイントはコミュニティへの投資・支援であるという感じです。
まじめな話ばかりしましたけど、結局は楽しく過ごすことが最も大事だし、遊ぶときはちゃんと遊びたいと思っています。
改めまして、今年もよろしくおねがいします。
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