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「おいしいふたり暮らし」を書き終えて。

こんにちはこんばんは、小谷です。お久しぶりです。生きてます。前回の記事が9月の読書報告ですね……あのあと、仕事に追われていました。ようやく目処が立ったので、報告に参りました。

なんと、2020年5月に行われたアルファポリス第3回ライト文芸大賞にて「おいしいふたり暮らし〜今日もかたよりご飯をいただきます〜」が大賞受賞しました。そんな本作が、3月に書籍刊行が決まりました!\(^o^)/急・展・開!

仕事というのがそうです、書籍化作業です。本業も大変でしたが、なんとかどっちもミスなくクリアしてます。とにかく、一仕事終えてホッとしているところです。(裏でカクヨムコン用の原稿書いたりしてましたが、そのへんについては次回に完結記録をつけます)

まずは、感謝の言葉を。

編集部の皆様、担当様、この度の大変光栄な賞に選出してくださり、ありがとうございました。刊行と落選の行ったり来たりで、目の前の景色とのギャップに右往左往している頃に訪れた最高の出会いでした。かねてより、アルファポリスさんでの刊行に憧れていたので、とても嬉しいです。イラストレーターのななミツ様、カバーデザインのAFTERGLOW様、印刷会社様、制作に携わってくださったすべての皆様、とても愛のあふれる素敵な本を作ってくださり、ありがとうございました!

そして何より、サイト掲載時から応援をしていただいた皆様、本当にありがとうございました!素敵な物語が出来ました。パワーアップした「おいしいふたり暮らし」をどうぞ末永くよろしくお願いします。

それでは、完結記録を綴っていきます。また、この記事は小谷杏子の完結記録の場なので、受賞や出版の流れなどは掲載しません。以下、本作のネタバレあります。

* * *

「おいしいふたり暮らし」の完結記録をしないといけないと思いながら、えーっと10ヶ月?経ったんですか……えぇ……そんなに経ったんだ。本作を書き終え、投稿したのが5月の下旬だったので、そこからかなり時間が経ってます。実は5月以降から執筆不調が続いてまして、まぁ、それでnoteを始めたようなところもありますが、結局時間が空きましたね。続かないズボラです。5月から私は小説を読んだり、寝たり、アニメ観たり、アニメ観たり、映画観たり、アニメ観たりしてました。そんな中での受賞の連絡だったので、まさに青天の霹靂と言いますか。びっくりしました。前作、はちぼくの刊行で出版することに、満足してしまったところもあり、次作を書けないのではという不安とか、本屋に行くと私の本が置いてあるというプレッシャーだとかでちょっと気が抜けていたので、思い切り尻を叩かれた気分でした。

さて、そんな私と同じく小説の主人公も青天の霹靂を迎えるとこから始まる「おいしいふたり暮らし」。ここでちょっとあらすじを。

真殿修は会社の昼休み、スマートフォンで繋いだ家用モニターを起動させる。そこに映るのは恋人であり、同棲相手の垣内頼子。修は毎日、昼になると彼女の食生活を抜き打ちチェックしている。これには深い事情があった。頼子は偏食家であり、ズボラな性格。そんな頼子の身を案じた修は食生活を改善するよう頼んだが「だったら、あたしがちゃんとできるようになるまで監視してよ」とすがられ……頼子がつくるズボラ飯動画についつい魅入ってしまうのだった。これは、おいしく、おかしな大人の日常生活を描いた物語。(投稿時のあらすじより)

です。ざっくり言えば、ご飯ものです。

構想は2、3月の頃でした。一年前ですね。別所のコンテストに応募しようと思ったのですが、二章を書き終えてから筆が止まりました。思えば、不調はこの時でした。はちぼくの刊行が一息つき、変なプレッシャーを感じた時期ですね。それからしばらく本屋に行けなくなったんですが、まぁそこは私のメンタルが弱すぎるんですよね。

というのも、その時点で考えていたのは「ズボラ彼女とバランス食彼氏のお料理勝負」だったんです。タイトルも「偏食よりこさんのズボラ飯」でした。でも、主人公を修にして、しかも彼の視点で語られるので頼子が出てこない。そもそも頼子はモニターの奥にいる。これではお料理勝負できないじゃないかと。修が頼子に「偏食を改善してほしい」という希望は最初からあり、モラハラ彼氏っぽい冒頭にしたくて書き始めたのに四品目くらいから方向性に迷ってしまいました。三品目でのカレー戦争はその名残です。もともと、お料理勝負という題材で始めたので前半は頼子のズボラ飯VS修のしっかりバランスご飯という構図になってます。基本的な軸は初段階からブレてないものの、四品目以降の後半はガラッと色を変えました。この三品目と四品目、一ヶ月空けて書いてるんですよね。応募先の締切が過ぎたこともあり、もっと的確な場所に投稿しようと気持ちを切り替える時期でした。そして、いざ四品目執筆。初段階では頼子が作る朝食に修がケチをつけるという内容でした。でも、なんだか不穏な空気になってしまう(私が書くともっと洒落にならんくらい暗くなりそうだった)ので、やめました。「モラハラにはなりたくない」と思っていた修がだんだんその素質を見せ始めるという方向だったのを、修のトラウマ克服と頼子との馴れ初めに変更。そこからの流れも変更。喧嘩するというところだけ変えずに、あとは修の主観的な感情も残しつつ、サブキャラも働かせて書き終えました。

こうして振り返ってみると、ご飯を通して二人の面白くて温かい日常ストーリーの裏で、修の挫折から再生するまでの物語にもなっていました。五品目がもっともそうですね。馴れ初めのきっかけは修の腐りかけた根性を頼子が明るく救ったという。恋に落ちるはずです。

作中のご飯は実際に作りました。ズボラ飯は基本的に私がよく作って食べるメニューです。また、修の職業であるフードマネジメントは、2016年くらいに書いた作品のキャラクターが勤める会社で、そのキャラはフードコーディネーターでした。そこからフードマネジメントの仕事に興味を持ち、会社の設定や資料を作り、他の作品のキャラクターが勤める職場にしたりとなんだかんだずっと使ってきましたね。そんな関係で当時、書いてた作品「21gのひと」と「アンビバレンス」から一人ずつキャラクターを本作に連れてきました。

修の同僚として出てくる湯崎淳は「21gのひと」の登場人物です。この時はまだ高校生で、主人公の元親友という物語のキーパーソン的存在でした。主人公の心をバッキバキにへし折った人なんですが、この毒っぽいところは大人になっても変わらずです。物語の都合上、ほとんど「21g」の本編に出てこず、作品唯一のヒール役でもあり、不遇なキャラクターでして。その主人公と和解はしましたが、結局その後は疎遠になってます。彼のその後を書けていなかったので思い切ってメインキャラにしました。個人的に、彼とは気が合います。あと、安原さんと早く付き合えばいいのにと何度か思いました。

「おいしいふたり暮らし」後半でひょっこり出てくるのは、企画営業部部長の相田渚です。彼は「アンビバレンス」に出てきます。超重要人物ですね。「アンビバ」作中に出てくるヒーローの好きな人、という複雑な状況下にいました。でも、渚はノーマルです。主人公は女子ですが、まぁ、この三角関係を描いたお仕事恋愛小説です。主人公とヒーローの間にいるから相田という名前になった説があります。この当時の渚は主任でした。「アンビバ」その後は奥さんとの間に娘ちゃんがいます。なので、この「おいしいふたり暮らし」世界では、渚はすでに4歳の娘ちゃんがいるんですよね。思い入れと愛着がありすぎて、ついつい登場させました。前作でも今作でもおいしいところをかっさらうのが渚らしいです。

今はどっちも非公開にしています。公開は考えてませんし、この二つをベースにした新作を考えています。たくさんの応援をありがとうございました。私が書いた中でもかなり反響があり、今の私の基礎にもなっています。この二作を取り入れたのが「おいしいふたり暮らし」です。

では、修と頼子の話をします。まず、主人公の修。27歳。誕生日は11月11日、ポッキーの日生まれ。今更ですが「しゅう」と読みます。変換に時間がかかる男です。「おさむ」の方が素直に出てくれるから、何度か「おさむ」で変換した思い出があります。この人、三品目くらいまでよく分からない人で、全然仲良くなれなかったですね……最後まで彼の顔が浮かばず、カバーイラストを見せてもらった時「こんな顔してたんだ!」と驚きました。顔が分かれば「かわいいな」と思うことができました。イラストレーターさんは偉大です。すごい。見本誌をいただいてから、とくに愛着が増幅し、何度も眺めては「かわいい」と呟いてる毎日です。

修は料理人時代にトラウマがあり、なかなか自分に自信が持てない人です。そのくせ、自分が作るご飯にはプライドを持っていて、バランスを取りがちな凝り性です。読者さんの反応が楽しみなんですが、私自身、修に対しては「いやいや、なんでそんな風に考えるかなぁ」とツッコミを入れながら書いてました。恋愛も仕事も中途半端で、どっちに対しても「憧れ」が強く、期待通りに運ばなければ極度に落ち込みます。もうお気づきかと思いますが、超めんどくさいやつです。

そんな修が好きになった女性が、二つ年上の垣内頼子。「よりこ」と読みます。29歳。12月12日生まれ。修とは反対に、おおらかでズボラでのんきな自由人です。家で仕事をしているので、リモートワークが盛んな昨今ではより親近感があるかもしれません。頼子は修とは違い、変換もすぐ出来るし素直だし、かわいいし楽しい人です。でも、本音は絶対に教えてくれないある意味、修よりも謎です。修目線で話が進むので、どうしても頼子の本心は見えないのですが、きちんと彼女と向き合っていけば、こっちもまぁまぁ面倒な人かなと思いました。修よりも年上なので、彼の前ではなんだかんだカッコつけたがりです。でも、嘘がつけないのですぐにボロを出しちゃう人です。変なところで遠慮したり「いやいや、そこは察してよ!」と突然の感情爆発だとか。偏食することに対して悪びれることがなく、食や人に過剰な愛着は持たず、修との付き合いも最初はマイペースにしてしまい、おざなりになり、修から怒られるという経験を経て、逆の立場になれば「察して!」と言わんばかりに不機嫌になったり。ちなみに、頼子の名前の由来は「かたより」から来てます。前述の通り、元々のタイトルが「偏食よりこさん」でしたし、子供の頃に読んでいた「わかったさん」と「こまったさん」シリーズのようなイメージでした。苗字も「片山」にしたら完全なる「かたより」だったなと今更気づきました(笑)

そんなめんどくさい二人ですが、人間ってめんどくさい生き物ですよね……完璧な人なんていない。書いてる時から「この子たち、世の中に飛び出していっても大丈夫かしら……」とちょっと不安でした。が、いざ手を離れて送り出したら、彼らの面白さに改めて気づくことができました。間違いなく面白いです。保証します。

そんな極端で偏った二人の物語、メインは「ご飯」ですが、改稿時にはもっと「同棲感」を増やしてます。「おいしい」からさらに甘さが増したので、こちらは現物をチェックしてみてください。

突然ですが、私は生まれも育ちも九州です。GoTo読書の企画を見ながら「いいなぁ〜、私もご当地小説などもいつか出版してもらいたいなぁ」とそんなことを考えています。出版社さん、ぜひお願いします。やる気はあります。というのはさておき、九州の福岡に住んでおりまして、本作にも無意識に地元食材を多用しています。鶏肉が代表でしょうか。福岡は鶏料理が豊富で、単純に私が鶏肉好きというのもあって、頼子のオーダーが鶏肉中心です。

手羽元カレーは、私の母が作るカレーを参考にしています。母に読まれたらなんだか調子に乗りそうなので嫌だなぁと思いますが、それもさておき。お気に入りの料理は手羽元の甘辛煮です。修と頼子の大事なメニューでもあります。また、この物語を書くためにフライパンを買いました。卵焼き用とグリルパン。卵焼き用フライパンで卵焼きを作ると、めっちゃフワフワになるんですね……いや、当たり前なんですけど、持ってなかったし独り身なので日常で使うことがなく。またフワフワの卵焼きを作りたいです。上手に巻けるようになりたい。

一番勉強になったのは牛すじカレーです。修のカレーですね。牛すじの下処理の大変さにびっくりし、感動しました。確か、ゴールデンウィークあたりに作りました。下処理を調べても、ちょっとピンとこないのでやってみることにしたんですよね。基本がズボラなので、修が作る料理はあまり作ってないです。そう言えば。なので、ルウまで作ることが出来ず、市販のルウで作ってみたんですが……いや、それでもじっくり煮込んで育てた牛すじ、とてもおいしかったです。今度は発売記念にルウから手作りに挑戦したいです。

あと印象的なのは、絶望スパゲティですね。本編改稿時にようやく「本当にナンプラーであの味になるのか?」と気になったので、作ってみたら本当に出来ました。まず、会社帰りに何度か某パスタ専門店に行き、絶望スパゲティを食べて味を覚えまして、それからようやく再現するに至りました。クックソースはオリジナル調味料なので現実には存在しないんですが、市販のナンプラーで出来ちゃうので、ぜひお試しあれ。

白だし卵かけご飯は、妹が編み出した食べ方です。私はそれまで醤油で食べるものだと思っていたので、妹からこの組み合わせを聞いた時はびっくりしました。でも、あとで調べたら結構普通でしたね(笑)

去年の3月、妹に「アサリについてどう思う?」と真剣に相談したのを思い出しました。その時、妹は「身をそのまま食べるのが嫌だ」と答えてくれましたが、後々訊いてみたら「多分、そう答えたほうがいいんだろうな〜」と思いながら答えたそうです。あの時、本作を書きながら迷ってて、なかなか神妙に相談していました。一年後、まさか本になるとは夢にも思わず。

本作にはたくさんの個性豊かなキャラクターが出てきます。どの人も、身近にいそうなキャラクターです。頼子の飼い猫、ジンジャーの由来は、頼子が神社で拾ったから「ジンジャー」。というのを本編には出てこないので、ここでバラしました。倉橋さんとか安原さんとか、修の周りに女性が多いわけですが、それすらも頼子はあまり気にしてないという、それはそれで修がやきもきしちゃう、などなど。裏話がたくさんありますね。とても書ききれないです。

でも、そろそろ切り上げますか。それでは、終わりに。

本作はコロナ禍ど真ん中で生まれた作品です。連日のニュースがつらく、とにかく明るい作品が書きたいと思い、平和でほのぼのとしたあの日常を思い描きながら書いてました。私自身、飲食店に勤めていたこともあり、ロックダウンのあの状況がしんどかったです。街を彩る飲食店がまた活発に元気に、なんの驚異もなく動く日常に戻れることを願っています。

とは言え、なんかもう何も考えずに二人のおいしい日常を楽しんでいただければと思います!ドキドキハラハラな展開もあります。まず一品目、びっくりしますよね。「小谷杏子っぽい」と思う方もいるかもしれません。でも、そのうち「あれ?」と思うかもしれません。今までろくに明るい小説を書いたことがなく、友人たちや前作を知る読者さんも驚いてくれるような気がします。とにかく、面白い作品に仕上がりました。ぜひ、ご一読……いえ、ご賞味ください。

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