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「透明なぼくらは、この結末を信じない」を書き終えて。

こんにちはこんばんは、小谷です。

この書き出しは随分前から使っているのでここでも使うことにしました。

前回、私は迷子であると話をしました。カクヨム外で書いた自分の小説や創作の原点を記録する場所がどこにもないので、この場を借りて綴っていきます。それに、口下手なので「どうしてこれを書こうと思ったの?」とか「どうやって書いてるの?」なんて直に訊かれると頭が真っ白になります。言葉がうまく組み上がらず、会話がままならないので文章化するのが楽だったりします。

さて。タイトルに書いてる小説は現在、スターツ出版文庫さまより発売中の「八月、ぼくらの後悔にさよならを」の原作です。(原作?言い方合ってる???)

これですね、これ。「八月、ぼくらの後悔にさよならを」の大元の「透明なぼくらは、この結末を信じない」です。↓↓↓

https://novema.jp/book/n1566180

出版される前は、ノベマ!で投稿しており、第4回スターツ出版文庫大賞にエントリーしていました。その投稿をする前のお話です。

えーっと、ちょっと暗い話になります。拙作を知っている方なら、あとがきまで読んでもらえたかもしれません。あのあとがき、自分でも暗いこと書いてるなと思ってました。

でも、本作の雰囲気を壊したくはないです……「あ、やばそうだな」と思ったらUターンしてください。以下、ネタバレもあるので注意してください。

※ここは、「透明なぼくらは、この結末を信じない」の完結記録をするために設けた場所です。出版社様とのやり取りや受賞の流れは記載してません。


***

2019年5月5日。あれはよく覚えてます。文学フリマ東京の前日だったので。

その頃、私は深刻なほど落ち込んでいました。いや、あの日はそうでもなかったんですけど、その前に色々あって。

前年の4月くらいから「アンビバレンス」という恋愛小説を書いていました。コンテストに出し、結果は惨敗。それからは「天神さまはお見通し!」というアクション系に走りまして……いや、ちょこちょこ青春系の短編を書いてましたね。イベントの参加もしてて、エブリスタの妄想コンテストで賞をいただいたり、短編集収録のお仕事をいただいたり、創作活動も慌ただしくなってきた時期がありました。そんな忙しい日が続いた後、ちょっと私生活の話になってくるんですけど、急に親友と連絡がつかなくなりまして。そして、職場での人間関係も悪いことになっており、家族も頼れない状況で周囲がギスギスしていました。眠れない日が続きました。休日の昼間はずっと眠っていて、夜が眠れなくなり、体も疲れていました。で、なんとか親友の件は解決の運びになったわけです。

そんなある休日の昼間、寝ては起きての繰り返しの合間に、セリフが浮かびました。

「僕の死んだ理由を探して欲しい」

幽霊の男の子と生きている女の子の話を書こう、と思い立ちました。ベッドの上で、ボケーっと壁を見ながら。ラストシーンまで明確に浮かんだのは、思えばこれが初めてではないかと思います。そうじゃないかもしれない。

まぁ、かなり落ち込んでいた時期です。とにかく私は助けが欲しかったんですよね。高校の時から小説を書くことを応援してくれていた、いわば心の支えだった人と話ができなくなってしまい、いつまでも夢を追い続けていた17歳の私が9年後、急にひとりぼっちになった。今思うとなかなか大げさに落ち込んでいたんですが、それくらい深刻でした。

ひとりぼっちの女の子が成長する話が書きたい。誰かの力を借りながら、大切な人を助けられるような話が書きたい。そして、親友に届けたい。どうせやるなら、今まで書いてきたものの集大成になるようなものにしたい。私自身、たくさんの人に支えてもらっているので、主人公が周りの人に助けられる話がいい。青春小説の他にもホラーやサスペンスを書いていたので、幽霊を題材にするのは自然でした。

これが4月の最後らへんです。すぐにスマホでメモをして設定を練り始めました。が、すぐに書こうとは思わず、ちょうど9月にエブリスタでスターツ出版文庫大賞が始まるだろうし、その時に合わせて書こうかな〜なんて考えて放置しました。

そして、5月5日。「新しくできた『ノベマ!』で、スターツのコンテストがあるよ」と教えてもらい「よし、書こう!」と張り切ることになりました。(その節は本当にありがとうございました。)

予定よりも前倒しで始まった「透明なぼくらは、この結末を信じない」。当時はまだこのタイトルではなく「ハロー、リグレット。」でした。「透明な〜」になったのは投稿を始めた7月下旬です。それまでずっと「ハロリグ」と呼んでました。懐かしい。

文フリが終わった翌日から設定を本格的に練り始めたんですが、6月は職場環境がかなり悪いことになってしまい、私の体調が一気に崩れました。実際、6月の記憶がほとんどないです。そして四苦八苦。やる気を起こしたのは6月下旬くらいでしょう。同時期に書いていたのは短編「肉食の羊」でした。親しくしていただいている方のアンソロジーに寄稿した物語です。(これはカクヨムにも置いてます)

「肉食の羊」が書き終わって「透明な〜」も全体の流れが決まり、仕事が終わってその足でスタバやドトールに通い、スマホの画面にBluetoothキーボードをつなぎ、閉店まで書いてました。この時に今の執筆スタイルが出来上がりました。今思うと、執筆環境もそれほど良くはなかったですね……「透明な〜」もとい「はちぼく」は小さなスマホ一台で仕上がりました。いや、まぁ、それまでも会社のパソコンやスマホで書いてたんですけどね。

5月に一念発起し、書き始めたものの手が止まった理由は体調も含むんですが、当時のニュースが原因だったかもしれません。2019年の5月と言えば交通事故が相次いでいた時期でした。

本作の大元は幽霊の少年・サトルの死因を、主人公の女の子・真彩(まあさ)が霊媒師の先輩と一緒に探っていくお話でした。このとき、サトルの死因はすでに出来上がっていました。だからこそ「これ、書いていいのかな」と迷いまして。

迷いながら書き続けること一ヶ月。締め切りは8月8日なので迷ってる場合じゃありません。でも、四章まで書いてまた手が止まりました。それが7月の頭あたりです。一週間くらい寝かせていたかもしれません。それから先にラストシーンを書きました。ラストをまず置いといて、四章と五章を後で書くという。でも実は、この7月も記憶が曖昧なんです。職場では仕事のミスがないものの、どんな仕事をしていたのか記憶に残らないくらいでした。

そんな2019年7月はおぞましく酷い事件がありました。Twitterから知ることになり、衝撃を受けて、かなり具合が悪くなりました。それ以前からニュースを見ることを避けていたんですが。でも、この事件を知ってから、なんだか迷いが吹っ切れました。書かなきゃいけない、という謎の使命感が生まれました。「自分よりも生きるべき人が命を落とすのは残酷だ」という一文は、この時の気持ちがかなり入っています。ここまでくると、私もかなり正義感が強かったんだなとびっくりします。そんな状況下で生まれた「はちぼく」の原型「透明な〜」なので、確かに繊細な物語なのです。


主人公の真彩は投稿時は「まあさ」という読みでした。読みにこだわりはそこまでなく、ただ「彩」という字を使いたかっただけです。彩は「いろどり」です。彼女の色のない生活、すなわち透明な生活にサトルという透明な少年から色を与えられる。だから「彩」を使いました。

サトルは「覚」と書きます。西木覚(にしき さとる)くんです。「西木」は最初、「仁色(にしき)」でした。でも別作品に「仁」というキャラクターがいまして、さすがにかぶるのは良くないなーと思い、急遽「西木」に変えました。こっちは漢字の「覚」よりも「サトル」を重視しています。というのも、創作を始めた17、8歳の頃に私が登場人物の名前に「サトル」という名前を多用していたからです。「覚」という字は意味があるようで深いものはなく「いつまでも覚えていてほしいから」という後付けの理由があります。

色にこだわるのは、私が色彩検定を持っているからですね(笑)でもまぁ、これも親友にはわかってもらえるかもしれません。色に関しては彼女も私も真面目に勉強しましたから。

カナトの字も「銀人(カナト)」でした。本作もかなり色彩豊かなんですが、背景としてはそういうものがありました。でも、カナトは書いてる当時は嫌いなキャラクターだったんです。だって、人の揚げ足とるのを生きがいにしてるんですよ、彼は。正義感を振りかざして主語がいちいち大きい。飄々と正論ばかり言うので、彼の描写はかなり辛辣です。それまで私が周りからこっぴどく言われてきたことをストレートに言うわけですから、そりゃ仲良くできませんって。でも、いつの間にか大事な存在になってましたね……仲良くしたくないんですけど、悔しいことに憎めないんですね。

岩蕗光先生は、これはかなり複雑な話になってきます。と言うのも、私は前述したように、それまでホラーを書いてました。今日も「ホラーの人というイメージがあった」と言われたばかりなんですが、拙作の中に「霊媒堂猫の手」というのがありまして。こちらは明治時代を舞台に霊媒師が怪異を解決するというお話です。この「猫の手」に岩蕗という人物が出てきます。「透明な〜」は私の十年の集大成なので、伝記ホラーを書いてきた何かを残したかった。そんなわけで、輸入された光先生。彼女は真彩という少数派の味方であり、最大の理解者です。でも、最初はそうじゃなく、カナトの方が真彩の味方でした。立ち位置が逆だったんですね。しかし「猫の手」からキャラクターを輸入するなら、私個人としては光先生の方が心強かったんです。カナトと先生の相性が悪い理由は、猫の手でたっぷり描いています。カクヨムで全話公開中で、BOOTHで製本版の通販もしてますが、ここで宣伝する気はないのでリンクは割愛します。(文フリで新刊を販売するので、その時はここでも宣伝の投稿をします)

私はこの作品にかなり愛を注ぎ込んでますね。えげつないくらい注いでます。これがダメだったらしばらく休もうと思ってたくらいです。なんでえげつないかと言うと、私は作品が完結したら冷めるんです。愛着を持ってるはずなんですけど、しばらくしたら切り替えて次に進みます。それができないことももちろんありますが。薄情なやつです。

そんなこんなで7月後半から怒涛の投稿を開始。書き終わってから三度の修正を経て、ようやく投稿でした。8月7日から8日までの間、寝ずに書いたのはよく覚えてます。徹夜しました。もう二度としたくないです。8日は平日だったので、普通に朝から仕事でしたし、徹夜明けのハイテンションのまま応募用あらすじを書いて、仕事して、カラオケに行きました。一人打ち上げです。その翌々日、妹が実家から家出しまして、これもなかなか大変な事件だったんですが、それについてはまた次回の「流線を描いて飛べ」の完結記録で語りたいと思います。


濃い二ヶ月でしたね……なのに、あんまり覚えてないってどういうことなのか。とにかく必死だったのがよくわかります。

「透明なぼくらは、この結末を信じない」というタイトルは、四章を書いてる最中にふと出てきたフレーズでした。それでも(仮)だったんです。何度か考えて、ひねってひねってひねって出てきたのがこれです。そもそも定着してないタイトルです。しかし「ぼくら」には強いこだわりがありました。だからこのタイトルにしたわけですが。

透明なぼくらは、この結末を信じない。透明なままなら、まだ信じたくない。

透明だからこそ、この結末は受け入れがたい。でもいつかは受け入れなくちゃいけない。前を向くには乗り越えなきゃいけない。好きな歌の中に登場人物不明な「ぼく」が出てくることがあるじゃないですか。そういう感じで「ぼくら」は誰かです。

そうそう。写真の海は、本作を初めて書き終わったあと、妹と海に行きました。その時に撮ったものです。この海を見て触ってみて、真彩が海に入るシーンを後日付け足しました。

最後に。真彩は十年前の私です。そして、今の誰かです。私は十年前の私を助けないといけなかった。サトルは十年後の私です。助けたい一心で、透明なまま漂っています。この作品が誰かの助けになれればいいなと切に願います。

幻のエピローグもあったんですけどね。でも、これはいらないだろうということで、ノベマ!に投稿した元原稿のプロローグに一部だけ入れました。一つ言うなら、書籍に入れなかったのは私の判断です。もう十分、伝わっているはずなので。

これからの私の原点は「八月、ぼくらの後悔にさよならを」です。忘れないように大切にしていきたいと思います。ので、どうぞこれからも「はちぼく」をよろしくお願いします。


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