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日本のベンチャーキャピタルとスタートアップが暗号資産での資金調達解禁までに必ず読んでおくべきnote

こんにちは、株式会社 K Squared CEOの村上です。前職はスカイランドベンチャーズという国内の独立系ベンチャーキャピタルでWeb3の投資責任者をしていて、国内外のスタートアップに投資してきました。現在は新しく会社を起業していて、イスラエルと日本を行き来しながら準備を進めています。

日経新聞で政府はスタートアップ企業の資金調達に関する規制を緩和し、Web3スタートアップが投資ファンドから出資を受ける際に、株式などの代わりに暗号資産(仮想通貨)を渡せるようにする旨のニュースがTwitterでも話題になってたので、この話題について深掘りしようと思います。


ニュースの背景

トークン(暗号資産)を発行するWeb3スタートアップは、通常のスタートアップが株式でIPOやM&AでExitするのとは違って、トークン(暗号資産)を発行してそれを起業家やチーム、投資家に分配することによってExitします。日本のVCファンドが組成するときによく使う投資事業有限責任組合(LPS)は、そのスタートアップが将来発行するトークンに対して出資することはできないので、海外のWeb3スタートアップが使うSAFTという雛形を使った資金調達方法、これは、"Simple Agreement for Future Tokens"の略でスタートアップ企業がブロックチェーンベースのプロジェクトの開発資金を、後日発行されるトークンの予約販売を通じて調達できるようにする契約を結ぶことが出来ませんでした。これについて、見直しが行われることになったというのが今回の背景です。

海外スタートアップのトークン(暗号資産)での資金調達の現状

SAFTの契約書はで2017年にアメリカの弁護士事務所Cooley社のパートナーとProtocol Labs が作成した時の雛形を見てみると、

https://saftproject.com/#saft-whitepaper

日本語訳
本証明書は、2017年[日付]頃、署名のない購入者(以下「購入者」)による$[__________](以下「購入金額」)の支払いと引き換えに、[法人設立州]の法人である[会社名](以下「会社」)は、以下に定める条件に従い、[トークン名]の特定のユニット(以下「トークン」または「[トークン名]」)に対する権利(以下「権利」)を購入者に発行することを証明する。

というように、後日発行されるトークンの予約販売を通じて調達できるようにする契約書が作成されました。(条項はもっと詳しいですし、多くの実務が発生するのですがここでは省略します)

ただし、Telegramが、TONブロックチェーンネットワークの開発のために、総額17億ドル超の資金調達をSAFT形式で行いましたが、2020年3月24日、ニューヨーク連邦地方裁判所はTelegramに対し、4月に予定された仮想通貨GRAMの発行についてアメリカ国民及び海外の投資家についても配当を一切許可しないという差し止め命令を下しました。最終的にTelegramがSECの要求に応じるとともに、調達した約12億ドルの返還と民事制裁金の支払い代金1850万ドルに応じることで決着がついています。

実際に、現在アメリカのWeb3スタートアップでSAFT契約が使われることは稀で、SAFTの雛形の一番上に、

米国居住者への通知

本証券の募集および販売は、1933 年米国証券法(「証券法」)または特定の州の証券法に基づいて登録されていません。 この証券は、有効な登録届出書またはその免責条項に従って、同法および適用される州証券法で認められている場合を除き、募集、販売、その他の譲渡、担保設定、抵当権の設定を行うことはできません。

と書かれているように、米国ではほとんど使われていません。
現状としては、トークン発行体を以下のような国において、SAFTで資金調達をするやり方が普通で、記事にあるように、「デジタル資産の取り扱いで日本は国際的に遅れている。国内スタートアップの資金調達手段を多様化する」というよりかは、かなり攻めた法改正をしようとしていると言えます。

https://law-kc.com/saft-simple-agreement-for-future-tokens-crypto-lawyer-blockchain

トークン(暗号資産)での資金調達は海外でも主流ではない

では、海外のWeb3スタートアップもトークンではなく、どうやって資金調達をしているのかというと、株式(SAFE)+ token warrant という形で、株式で資金調達を進めて、株式の保有比率に応じてトークンを投資家に付与するというやり方が最近は多いです。理由としては、発行予定のトークンのトークノミクスが固まっていない場合でも、株式で資金調達をすることができ、SAFTの問題点も回避できるため、SAFT以外の資金調達としてこちらが使われることが多いです。
よって、Web3スタートアップ側もトークンによる出資が可能になったとしても、そもそも後日発行されるトークンの予約販売を通じて調達するべきなのか、株式での出資を受けるべきなのかについて、慎重に議論すべきで、あくまで選択肢が増えたと考えるべきです。

トークンファイナンスとエクイティファイナンスは別物

通常の株式によるVC調達とは違って、トークンでは投資家の保有分%は減ります。

dYdXより

上記はdYdXという有名なPerpetual DEXのトークンのアロケーションは、過去にdYdXは87MドルもVCからの資金調達を行なっていますが、投資家にはトークン全体の27.7%しかアロケートされておらず、各投資家の保有%は株式と比べて少ない%を保有することがスタンダードになっています。なので、解禁された場合に、VC側もスタートアップ側もエクイティファイナンスの感覚のまま、トークン全体の10%を1つの投資家に渡したり、取得してしまうと、その時点でトークノミクスが持続可能なものとは程遠くなり、投資家もスタートアップも苦しむことになります。(株式のように第三者割当増資で保有%がダイリューションしていくことも基本的にはないので、10%渡すと10%のままでそのまま売り圧になります)

この辺りは、投資する前にVC側もスタートアップ側もExitについてよく理解することが必要です。

トークン(暗号資産)出資をする日本のVCファンドはどうやってリターンを得るのか

株式のExit戦略とは全く違うものになるので、契約する時点では、トークンのロックアップをどれくらいの期間にするべきなのかなど検討すべき項目がありますし、ロックアップが解除されてついに受け取ったトークンに対して、このプロジェクトのガバナンスに参加したり、すぐトークンを売却、(CEXで売るのか、DEXで売るのか)したり、もしくはステーキングをしながら長期保有をしていくのか、トレードで売却していくのかなど、IPO後の上場株よりもセカンダリーでの選択肢が多くあり、同じWeb3スタートアップに投資していてもVCファンドによってリターンの差が大きく開く問題なので、どういった戦略を持ってExitしていくのかはよく検討していく必要があります。

弊社では、Web3事業に関する相談も請け負っていますので、なにかご相談がある方は、Twitterの方にご連絡ください!


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