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エヴァンゲリオンという人生録

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#シン・エヴァンゲリオン劇場版

#ネタバレ  注意!

新鮮な気分のうちに書き記したいのでネタバレ回避の方は後日読んでほしい。

1995年10月某日、周囲がざわつき始めた。

「庵野監督の新作が凄いぞ!」

私は古くからの庵野作品、所謂自主制作の時代から彼をウォッチしていて私自身も自主制作でアニメを作り始めた側であったので「すごい奴だなぁ」と生意気にも歳上の庵野氏に対して仲間意識を持っていた時期もあった。

その彼の新作が凄い、か。

「不思議の海のナディア」で製作中に逃げ出したと、あまり良い噂を聞かなかっただけにエヴァに対して興味無く、録画対象には入っていなかった。この頃は私自身メンタル的に参る事態もあったり車に入れ込んだりと、アニメチェックどころではなかったのだ。

そこまでざわつくならばと観始めた最初があのヤシマ作戦の回である。よりにもよってこの血が沸る回がファーストコンタクトとなり長いエヴァの呪縛が始まった。こんなに長くなるとは知らずに。

最終回を迎える前迄には未視聴の話も見ることが出来、挑んだラストがあの始末。

「庵野さんよ、あんたナディアの教訓なんもないのか!」

作品のメッセージに私が救われた部分もあったのだが、エヴァに対するモヤモヤは膨らんだままとなった。

に2021年3月8日。

25年余りの月日が流れ、呪縛に決着をつける日が来た。時の流れは私の人生観を大きく変えていた。TV版が始まった年に地下鉄サリン事件、阪神淡路大震災があった。あたりまえの日常が失われる脅威が冷めやらぬ状況で観たエヴァ。東日本大震災後に観た「Q」、コロナ禍で観る「シン」。そして何より今自分の息子がシンジと同じ14歳、私もゲンドウに近い50代だ。もうあらゆる視点が1995年とは違う。

前置きが長い。

色々変わったのは庵野監督自身も同じ。「シン」いや、「Q」からまるで別人格のような異世界の庵野監督が作り上げている。「Q」では混沌の世界の庵野監督、「シン」では何かを掴んだ庵野監督がスクリーンを通してそこにいた。しかし相変わらずオタク心を鷲掴みにするお約束が満載。「あぁ、これも…これもやりたかったんだろうなぁ」とほくそ笑む。この辺だけは昔から変わらない。

冒頭のパリの掴みパートで血が沸いたところで場面は変わってサードインパクト(加持の活躍でニアサード止まりだった)後のあの廃墟を歩くエヴァパイロット達をケンスケが拾う。なんて展開だ。そしてトウジ達との再会。世の中を壊したと自覚した後カヲルの惨劇、14年の月日を一気にぶつけられたシンジのメンタルはアスカに弱いと詰られるが、そんなの私だって無理ですぜ。アスカ、お前が強すぎるんだよ!

というか観ている私もその後の農作業、加持少年の流れは景色こそ長閑だが頭の中は大混乱、ジェットコースターである。何があった。ニアサー後の彼らにではない。庵野監督にだ。

いや、なんとなくはわかる。我々庵野氏を見守るオタクは様々な情報を元に氏に大きな葛藤と何か掴んだものがあったことを知っている。それは「シン・ゴジラ」で既に片鱗を感じていたことだ。蒲田のエキストラに加わって久しぶりに庵野監督をお見かけした。普通のオタクたる氏がそこにいたように見えた。余談だが私は本編に1コマすら映ってないが特典ディスクにはバッチリスマホを耳に当てながら走る姿が映っていた。これもまたモヤモヤの因果なのか。

エヴァは生きるとは何か、人とは何かを終始問いかけていたと思う。しかしTV版での問いと「シン」では明らかに違う。いや、違うのは問いではなく答えなのか。母になったヒカリとミサト、彼女達が母として遠回しと言うべきかストレートと言うべきか、とにかく答えている。アスカもシンジより先に大人になった事をシンジに伝え、1人ではない生き方という解を見出したケンイチがいるであろう世界に通じるシャッターの外に消えた。お前も弱かったんだな。ゲンドウもまた人類を巻き込みユイという唯一無二の救世主にすがる人生にケリを付けてあの電車から降りて行った。あまりにも寂しい最後だ。親指を立てて溶鉱炉に沈んでいくより辛いラストだ。ただゲンドウさんよ、同年代になった今はあんたの気持ちがちょっとだけわかるよ。カヲルとレイ、つまりそれは新しい舞台にいるゲンドウとユイであり、"CV:神木"に声変わりしたシンジはまさかのマリエンドを迎え、庵野監督の故郷の街を走り出す。

これが25年待った庵野監督の答え。

我々は庵野監督の葛藤を四半世紀も観続け、悩まされ、今それを見届けた。彼の戦いに奥様である安野モヨコ先生が重要な位置におられる事は作中の絵本で表されているしパンフレットの監督メッセージではストレートに記されている。

「こんなに当たり前のつまらない答えか。」

そう感じた方もいると思う。しかし私にはこんなに嬉しい答えはない。

遡れば自分がシンジと同じ歳の頃に庵野監督の自主制作に出会い、自分もアニメを作り始めて、庵野って奴は恐ろしく凄いと実感するまでの一瞬のような時間、勝手に仲間意識を持った私。その後彼にも私にも人生の紆余曲折があった。嬉しいこともあったが死んだ方がマシと考えたこともあった。25年間通ったルートは全く違うが、あの時の彼がこんなに平凡な心の安住を得られたのならそれを喜ばずにはいられない。エヴァから人々にチェンジからのラストまでの流れは最後我々に「エヴァを卒業しろ」というメッセージだろう。"電車+CV :緒方"から"電車+CV:神木"だ。引き継ぎ先が最適かはともかくなんて優しい見送りか。何せこれまでは「おめでとう、ありがとう」と「気持ち悪い」で一方的に突っぱね締めてたのが彼だった。

シンジの成長物語かと思って観始めた作品はあるオタクの人生葛藤劇だった。今はそれでいい。

あ、でも最後に一言、愛を込めて馴れ馴れしく言わせてほしい。

「ありがとう、でも気持ち悪いw」👍

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