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書評 165 「思いがけず利他」

違和感のあるタイトルだが、読み終わった時には納得できる。

利他的行動、利己的行動と対峙するものとなるが、多くの利他的行動は実は利己ではないのかと著者は問う。「情けは人のためならず」の言葉通りで、人のためと言いながら自分に利益が返ってくることを期待していたり、自身の功名心からであるならば、それは本当に利他なのか、と。

真の利他的行動は無意識であり、なおかつ相手がそれを認めた時に確立するというのが著者の結論になるが、いきなり示されても直感的に理解するのは難しい。それを落語の人情噺から始まって、歴史に名を残す宗教家(仏僧)の言葉、海外の異文化での価値観を見る実話などを引きながら、ゆっくりと理解を深めていってくれる。

抽象的でわかりにくい概念をテーマにしながら、平易な文章で読者の理解を少しずつ進めてくれるのが本書の良さ。終章の応用編はやや急ぎ気味に感じるのが少々残念。

倫理学の入門書と捉えても面白い一冊。


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