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SS 44 「無敵のスーパースター」

テニス界を席巻するスーパースター、27歳。世界ランキング1位を占め続けて、もう5年が経った。無敗ではないが、大きな大会では負け知らず。あまりに強すぎて、「このままではプロになろうとするジュニア選手がいなくなる」なんて声まで上がってくる。

22歳の彼が登場した時、世界は度肝を抜かれた。サーブは時速220kmを超える豪速。ストロークも速いのに、スピンも効いていてコーナーにきっちり入る。それでいて、スライスも切れ味良くて、容易に返せない。脚はそんなに速くはないが、とにかく読みがいい。プロならば、相手が打ち終わる前にステップやスイングから打つコースを読むのは普通のことだが、彼はそれが0.5秒くらい早い。だから、追いつく。そんな超弩級のプレーを爽やかな笑顔でやってのける。

テニスファンは、そのあまりの強さに呆れてしまい、一時は大会から観客がいなくなりかけたが、やがてその異常さを楽しむ様になった。また、彼のインタビューはすごく面白い。「そんな大胆なことを・・・」と思わせる発言をにこやかに語る。そして何年経っても22歳の若々しさを失わない。

いつしか世界のテニスファンたちは彼を「笑顔の魔人」と呼ぶようになった。彼の人間離れした身体能力を称えた呼び名だ。

「おかしいな、なんでバレたんだろう。ちゃんと髪の毛も伸ばしては切り、汗もかくようにしていたぞ。食事だってみんなと同じように食べてきた。少なくとも人間を食べるようなことはしてないのに。こんな楽しい遊び、テニスをもっと続けたかったなあ。仕方ない、帰るか」

どうやら魔界にテニスは無いらしい。


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