トップオブザトップ
まぁそんなワケで高2になってから、稲中卓球部にどハマりしたり、部活では吹奏楽部の練習を放棄してひたすらバンドスコアのドラムばかり練習していた。
4人グループのウッチーや千景、ミナと4人でカラオケに行っては、それぞれの“得意分野”の歌ばかり歌う。それに他のグループの女子が加わることもある。4人とも電車通学ではなく、比較的街中に住んでいたのでそれは助かった。
ウッチーはその頃流行っていたSHAZNAのボーカルizamの髪型をそっくりそのまんまにしたようなヘアスタイルで、工藤静香や相川七瀬の歌ばかり歌っていた。
千景はとても歌唱力があり、ドリカムをはじめとした中低音の歌を歌う。
ミナは“新曲を誰よりも先に歌う”ことに命をかけているようなところがあり、SPEEDの歌を好んで歌った。
私はもちろん小室ファミリーとジュディマリ、それしかない。華原朋美、trf、globe、安室奈美恵、高音キーが得意だったので逆にそれらの歌しか歌えない。たまに布袋寅泰も歌った。
アルトの中低音の部分が出ない。コンプレックスだった。
ジュディマリはとても流行っていたし、他の友人もよく歌っていたので、曲がかぶる。アルバムの中にあるマニアックな歌ばかり歌っていた。
私の見た目は、稲中の“サンチェ”をジュディマリのYUKI風に真似したおかっぱ頭で、そんな見た目で安室奈美恵なんかを振り付けつきで歌うもんだから、皆にビックリされていた。
見た目は太ってしまって見苦しいが、根っこは今を生きるギャル魂そのものだった。(と思う)
親友のみっきーとしおりんは電車通学なので、学校帰りにカラオケに行けるのはテストが終わった当日、または“この日遊ぼうね!”と約束した日のみだった。
特にみっきーは、フケ頭こそ高2になりマシになったが、とにかく“石橋を叩きまくって渡るか渡らないかを迷う”タイプで、次の日曜日に遊ぼう!と皆で話していても『いや〜、突然言われても…心の準備が…せめて1ヶ月前に言ってくれないと…』と言う頑固さがあった。
じゃあそれまでの土日に予定があるのか?と聞いても何もない、彼氏もいないのに、みっきーと遊ぶ予定を立てるためには“1ヶ月前予約”をせねばならない…という超絶めんどくさいプランを友美たち皆で考えた。
全く融通が効かん奴だ…一度プール授業の後、放課後に“みっきーを女子化させよう計画!”を練り、私が持っていた化粧道具一式を取り出し、丁寧にみっきーの顔をつくった。
初めて化粧をしたそうだ。
よくよく見ると、みっきーの一重は私と違って大きな一重まぶただった、まつ毛も長い、こりゃ宝の持ち腐れだ!と皆でワイワイ騒ぎながらみっきー女子化作戦を何度も重ねた。
私とみっきーは何もかも正反対で、初めて出会う人種であった。
何度フラれてもバレンタインにチョコをあげ続ける事、中2のチョコ捨てられ事件などを話すと『私ならショックで二度と誰にもチョコレートあげれなくなると思う、何でそんなに勇気があるん?そんな人は見た事がない』と言った。
私は逆に『好きな人にフラれても、それがまた生きる原動力になったり、女子力に磨きがかかる』事を力説したが、あんまり伝わっていない。
そもそもみっきーは“女子力”を削ぎ落としたような面があり、私は不思議で仕方がなかった。
今で言うところの“ジェンダーレスのはしり”みたいな感じだ。
そもそも男にそこまで興味もない。たまにチラッと出てくる男子の名前は、私の好きなTの隣にいつも居る、顔立ちのキリッとした大人しく成績優秀な男子生徒だった。
そんなこんなでとにかく遅刻の量が半端なかった私は、大嫌いな数2の授業はほぼ欠席、数Bの先生の方がまだ好きで、幾分マシだった。
中間テストの1週間前になっても、お構いなくウッチー、ミナとカラオケに行き、帰りにミスドでしこたまドーナツを食べて解散する。
ミナとはテストの前日もペチャクチャ喋りながらミスドを頬張った。
周りは試験モード全開で、私は後に知ったのだが、今何時間勉強しているか?どこら辺まで進んだか?友人の進捗状況を知るために、家の電話からお互い“探り”を入れていたらしい…私にはそんな電話、誰からも一度もかかってきた事などない。
ハナからバカなので相手にもされていなかったのだ。
中間テスト1日目の1限は現代文だと、私は朝から大クソ真面目に教室で現代文の教科書を開いて読んでいた。
周りは数2のテキストを見ている。『フッ…バカめ、今数2なんて見てどうするんだ…』と半分小馬鹿にしたような気持ちで現代文のポイントを見ていた。
すると廊下を通りかかった友美が私を見つけてやってきた。
『ハッシー、なんで現代文見てるの?1限は数2だよ…現代文は明日の1限だよ…』
『は…?今何て言った?いや現代文だろ!』
友美は大笑いしながら、周りを良く見ろと言った。皆数2のテキストしか見ていない、時間割を見ると、1限:数2 と書いてあった。
ウソだろ!おい、数2って…授業もろくに受けてないのに…公式だけ頭に入れておこうと思って(数学なんて一夜漬けは無理なのだが、公式さえ頭に叩き込めば何とかなる…事も過去にあった)今日の晩やろうと思ってたのにぃぃぃ〜!!
とんだバカは、私だったのだ。
数2は翌日の1限だと思い込み、1人で現代文の教科書を読んでいた…友美はドンマイと苦笑いしながら去って行った…。
ちょ、ちょい、テスト開始まであと15分しかない!教科書は?ない!!
急いで隣の席の女子に数2の教科書を見せてもらったが、サッパリだ…そもそも授業すら受けてないのだから…終わった…。
1限の数2、解けたと思う問題が2問くらいしかない。証明問題のはじめと最後の決まり文句だけ書いて提出した。
白紙で出すよりマシだ…何の証明もできていないが、決まり文句だけご丁寧に書いて、部分点を狙うしかない。
他のテストがどうだったかなんて覚えてない。
答案返却が恐ろしくて…もしかしたら、いや、一桁かもしれない…今度ばかりは自業自得だ。
大嫌いな数2の女教師が、答案返却の時、コラ〜!ッとしかめ面でテストを渡してきた。
(成績の良い者にはニッコリ笑うので、その女教師の表情で皆に色々とバレる、迷惑極まりない)
点数を見る前に、そこだけ三角に折り曲げて教室の後ろでコッソリ見た。
……7点!!!!!!!
できたと思った2問と証明問題の決まり文句のところだけ、“オマケ”部分点が足されていた。
つ、ついに生まれて初めて一桁を取ってしまった…これは母にブッ殺されるだろう…
実は“ノート点”という、お慰め加点たるものがあり、きちんと数2のノートを提出したら、少しだけ加算されるシステムがあった。
せめて二桁でないと…7点なんて…死んでも見せれない…。
しかしそもそも数2の授業自体をほとんどすっぽかしてノートなどとっていない。
大急ぎでミスチル好きな家の近いS君にお願いし、膨大な量のノートを写させてもらうためにS君のお宅をお邪魔する事になった。
男子の家にお邪魔するのも初めてだ。
緊張…?それどころではない。
Sくんは大人しく優等生タイプだが、意外な事に自室ではタバコを吸っていた。
私は彼の家にお邪魔し、お母さんかおばあちゃんかわならないけれど、挨拶は丁寧に、部屋に入るなり速攻でノートの書き写しを開始した。数2だけでなく古典もだ!
Sくんの字はとても綺麗で、ノートもきちんと整理されており読みやすい。もう感謝しかない。隣の学区というだけで気づかなかったが、私の家からチャリで5分の距離にあった、助かる…家が1番近いのは女友達ではなくSくんだったのだ。
しばらくするとSくんの部屋の子機がなり、お母さんがジュースとケーキを部屋まで持ってきてくれた。なんて優しいお母さんなんだ!
私がノートを一心不乱に書き写している間、Sくんはベットの上でミスチルを聞いたり漫画を読んでいた。
ふー、終わった!ありがと!マジで感謝だわ。
翌日、速攻で授業を受けてないはずの数2のノートを提出した。
成績カードが返ってきた…勿論数学が赤点なのは決まっているが、7点から15点に上がっていた!!
恐るべしノート点!次に度数分布表を見る。
各教科の平均点と学年最高点と学年最低点が記載されている。数2、数2…あった!
“学年最低点”7点の隣に2名とあった。私だ!
待てよ、もう1人私と同じアホがいるな…誰だろう…野球部の山本くんも違うと言う。
何人か思い浮かぶ男子が居る…同じ数学補講メンバーの中に南原という男子が居ることを思い出した。
南原はとても陽気で豊田くんたちとつるんでいるオシャレ男子だった、南原の席に近づき、数2の点数をコッソリ聞いてみた。
『アッタリー!!マジで?オレだけかと思った!ハッシーやったーお揃いじゃん!』とガッツポーズをとり、南原が大声で叫んだ。
南原はめちゃくちゃ嬉しそうだ。
そして2人でもう一度、度数分布表を見て、『今回の数2、オレとハッシーが学年最低点だね…』と再確認した。
とりあえずケツはケツなのだが、もう1人お仲間がいた…おぉ…南原よ…。
数Bは30点代でもちろん赤点だ。古典も55点、赤点、赤が3つもある…。
英語だけ何とか70点代をキープしていた。
学年順位を見る、アレ?198分の196って何?
一瞬意味が分からなかった。
そうだ、理数科と英語科合わせて200人、去年1人亡くなったので199人のはずなのに、そして196って私が196番ってコト?
あー欠席者が居たのね…だから198人で順位出てるのね、ハイハイ、、で196番ってことはもしかして私がケツから2番目ってコトですか⁈
いやまてよ、197番は誰だ…私の後にもう1人いるはずだ…直感的に南原の元へ再度成績カードを持って行って順位を聞いた。
『オレ、196番になってるよ、アハハー、やばいねー!どーしよ!』南原はゲラゲラ大笑いしている。
『ちょっと待った!私も196番なんだよね…』
南原と2人で、ない知恵を絞って考えた。
『あ!わかった!オレとハッシーが同点だから俺らの後ろは誰も居ないんだよ!スゲェ!奇跡だ、これぞトップオブザトップ!』
南原が大喜びして握手を求めてきた…おお同士よ…
ついにやってしまった…ケツってのはこういう事なんだ…数2もだけど、学年最低点を南原と同点でゴールか…コレで晴れて学年1バカの称号を得たわけだ…どうしよう…マジでブッ殺される…
成績カードは親に見せてハンコをもらって提出せねばならない。
色んな方法を考えた挙句、196を169にうまいこと修正ペンを使って書き直してみた。赤点は怒られるだろうが198分の196位よりマシだろう…。
母には夜サッと渡して、明日提出しなきゃならないからハンコ押して!と急かし、169番だった事で無事通過した。母は未だに196番のケツを取った事を知らない。
169の数字をまた196に書き換えて、おぐちゃんに提出した。修正ペンで段差がついている。
きっと担任のおぐちゃんは気づいていただろう、だが最後まで何も言わなかった。
それから駅前の塾は辞めさせられ、母の信仰していた宗教の“兄弟”が経営していた数学専門の塾に週1で通う事になった。
更に数学の家庭教師には、やはり同じ宗教の“姉妹”が来てくれるようになった。
奈良女子大を出たとても頭のいい“姉妹”だったが、私が居眠りをしても『あらまぁ…レナさんは今日も疲れているのですね…どうしましょう』と言ったきり私を起こさない。
母がケーキと紅茶を出す時間になると、自然に目が覚めた。
“姉妹”には1年間数学の家庭教師に来てもらったが、おそらく計2ページもやっていない。
母は何も知らない。姉妹と真面目に勉強していると思い込んでいたようだった。
その後、その姉妹は何かを思い立ち、その後神戸大学を受け直し、院まで行った。
その時初めて思ったことは、勉強ができる人が必ずしも教え方が上手いわけではないんだな…『あらまぁ…』と困った顔をして下を向いたままの姉妹をよく思い出す。
とんだ中間テストになってしまった。
数2の日にちを間違えたせいだ!と開き直っていたが、そもそも何もしていない自分が悪い。
進学校は、ちょっと手を抜くと真っ逆さまに転落し、奈落の底へ突き落とされる。
大嫌いな数学を期末で挽回せねば…数学の補講にも嫌々だが行くようにした。
学年1位を取るのも難しいが、学年最下位を取る事も人生において滅多にない事である。
それからは、周りの呆れた友だちが色々協力してくれるようになった。