見出し画像

ケバい女子と転校生

中2になり、大好きなミッちゃんをはじめ、夕ちゃん、小雪ともクラスがバラバラになった。
クラス替えの名簿を見て私はゲンナリした。
男子はまあいい、仲の良い女友達が1人も居ない、同じ部活のメンバーも居ない。
そして小学校の合唱部で姑息な意地悪をしてきた葉子ちゃんの名前があった、他にもあまり好きではないバレー部女子の名前が数名あった。

どうしよう…まあでも何とかなるか!と考えていた。

新学期の最初の席順は出席番号順に男女が一列おきに机を並べる。隣の席は武田くんというバスケ部でセンターをしていた男子になった。ミッちゃんとも仲の良い一軍メンバーだ、よし、まずまずだ。他にも同じバスケ部で学年1モテる淳一も同じクラスになっていた。大人しい小川くんもいる。

当時、男女共に運動部系ではバスケ部が1番人気があった。“スラムダンク”という漫画も大流行していたのだが、特に男子バスケ部は県大会で毎回ベスト4に入る強さだった事もあり、学校内で“バスケ部に所属している”というだけで、自分もイケていると錯覚する男子も多かったように思う。
一学年214人のうちおよそ半分が男子で、そのうちの30名弱が男子バスケ部員だ。要は男子の4人に1人はバスケ部員だった。

サッカー部がなかったのと、野球部があまり強くなかったのも手伝って、男子バスケ部は他のどの部活よりも人気だった。大好きなミッちゃん、武田くん、淳一は特に女子から人気があり、彼ら3人は2年生の途中から既にスタメンに入っていた。

新学期早々、隣の席の武田くんと仲良くなった。彼は背が高く数学が非常によくできる、メガネをかけている優等生タイプだが、明るくて冗談をよく言う。数学で分からない問題があると、授業が終わったら速攻武田くんに聞くと丁寧に教えてくれた。ノートもよく貸してくれた。相変わらずミッちゃんの事は断トツで好きだったが、武田くんの事も少し気になりだした。武田くんと仲良くしていると、不思議な事に苦手だったバレー部女子が私に話しかけてくるようになった。きっと自分たちも武田くんと仲良くなりたかったんたろう。

何回目かの席替えで今度は学年1モテる淳一が隣の席になった。この淳一というのが実に女たらしで、背も高く、とにかくコミュニケーション能力がめちゃくちゃ高い、ミッちゃんと正反対のタイプだがカッコいいのは誰もが認めていた。淳一は何故か私を気に入り、皆、等間隔に机を空けて並べているのに、いつも私の方に席を寄せてきては隣からちょっかいを出してくる。
私もついついお喋り大好き女子だったので、授業そっちのけで淳一とぺちゃくちゃ喋ったり、持ち込み禁止のガムやハイチュウを交換したり、お互いをつつき合ってじゃれて遊んでいた。淳一の事も武田くんと同じく気になる男子の1人になるのに時間はかからなかった。
彼らは私の名前をレナからケバ奈と勝手にあだ名をつけた。理由を聞くと『だってお前ケバいじゃん!』と返された。
武田くんがつけたそのあだ名を淳一も気に入り、それに乗っかった男子から『レナはケバい、ケバいからケバ奈』とからかわれた。
化粧も何もしてないのに、私のどこがケバいんだ?と思ったが、あまり気にせず毎日ケバいケバいと言われながらも、それなりに楽しくやっていた。

嫌な予感がしていた。
武田くんにケバ奈と呼ばれながら、休み時間に数学を教えてもらっていた。どこからともなくジーッと視線を感じる。視線の主はバレー部女子の正子だった。正子と仲の良いあの意地の悪い葉子ちゃんも一緒になって私の方を睨んでいた。他にも急に口を聞かなくなった女子が数名いた。

女子に嫌われたら最後だ。

色々考えた私は、隣の席の淳一を無視することにした。だが逆効果だった。淳一は、『オイ、ケバ奈、何で無視すんだよ!』と思いっきり席をくっつけてきた。英語の先生に注意されたが、淳一が『教科書忘れたんで、橋本さんに見せてもらってまーす』と答える。仕方なく教科書を半分見せていると、隣からニヤニヤ淳一が笑いながらシャーペンで顔をつついてきたり、くだらない冗談を耳元でささやいてくる。要するに距離感がめちゃくちゃ近いのだ。周囲から見ると、私と淳一がイチャイチャしているように見えたんだろう。

ふと後ろを振り返ると、それまで仲良くしていたバスケ部女子がジーッとこちらを凝視していて、プイと顔をそむけられた。

音楽の授業で、合唱コンクールで誰が伴奏するか議題に上がったとき、淳一、武田くんをはじめ、もっこりーず軍団の瑛太までも『レナが上手いから、先生レナでーす』みたいにはやし立てた。先生は『皆の推薦があるなら橋本さんね』のひと言で決まった。女子の大半は黙っていた。

口を聞いてくれる女子がいよいよ少なくなってきた、ヤバい。ていうか、私はミッちゃんが1番好きなの皆知ってるはずなのに何で無視すんの?
いわゆる“モテる男子と仲良くしてるレナ”が気に入らなくて仕方がないんだろう。別に武田くんも淳一も、私の事を好きじゃない事くらい頭では分かっていた。下ネタも話せるし、単純に絡みやすかったんだろう。
たまったもんじゃない!話したければ自分たちも淳一らに話しかければいいのに!!と心の中で叫んだ。

無視してくるバレー部女子とバスケ部女子の一部は、レナちゃんは歩くスピーカーみたいにお喋りだ、お父さんがいない(しつこいなあ)、男子をたらし込んでいる、いつもブランドのソックス履いてる…ピアノ弾けるから威張ってる…ありとあらゆる噂話をしてそれをクラス中に広めた。

また始まった、小学校の時と同じだ。
でも中学のほうがもっと陰湿だった。
お昼休み、とうとうお弁当を一緒に食べてくれる女子が居なくなった。

危うく今日こそ1人でお弁当を食べなきゃならないのかな…なんて思っていたら、テニス部の直美ちゃんが不憫に思ったのか、ランチタイムの時中に入れてくれた。直美ちゃんは学年で3本の指に入る皆が憧れる女子だった。賢くて茶色いストレートヘアがよく似合う、笑うとえくぼができる綺麗な女子、私も直美ちゃんに密かに憧れていた。直美ちゃんは、今の時代で言うところの学校内カーストの最上位に属する、いわゆる一軍メンバー、モテる女子数名の小さなグループだった。直美ちゃんが、レナちゃん一緒にお弁当食べようよ、机こっちに持ってきて!と言ってくれた時、どんなに嬉しかったか。

私が直美ちゃんのグループに入れてもらってお弁当を食べていると、例の女子たちが不満そうな顔をしていた。レナなんか1人で食べればいいのに!そんな声が聞こえてきそうだった。

直美ちゃんをしばらく観察していてつくづく思った。
自分に余裕がある、本当に好かれる女子って、しょうもない事で僻んだり無視したりしないんだな…優しいし賢くて美人、憧れるなあ…さすが一軍女子だ…器が違う。

直美ちゃんが欠席でいない時は、私は小川くんたち大人しめの男子のグループか、淳一や武田くんたち男子グループの隅っこに女子ひとり、ポツンと座ってお弁当を食べた。男子は気楽でいい。色々と忖度しない。

2学期も中頃を過ぎた頃、ある日突然クラスに転校生がやってきた。何でも隣の市の有名な中学からわざわざ私のいる中学に転校してきたという。

アケミというショートカットの、身長が私と同じくらい高い(170cm)明るくてハキハキした美人なのだが、今まで見た事のない、出会った事のない不思議なタイプの女子だった。
同じくらいの背丈で近くの席になり、帰る方向が同じで、孤独だった私とすぐに仲良くなった。
アケミはノリも良く意気投合し、早速家に遊びに来るよう言われ、部活がない日彼女の家を訪ねた。

彼女は自分の部屋に私を上げ、制服をダルそうに脱ぎながら、セブンスターをくわえて気怠そうにタバコを吸い出した。
え…?!アケミってまさかのまさか、ヤ、ヤ、ヤンキーだったのですか?目ん玉が飛び出そうになった。私の中学にはヤンキーという属性の人たちは2つ上の世代で完全に居なくなっていた。
今まで見た事のないタイプの不思議な女子、という違和感の正体は、彼女の慣れたタバコの吸い方ひとつですぐに腑に落ちた。
『レナちゃんも吸う?今セッターしかないけど』と言われたが断った。
そう、アケミは筋金入りのヤンキーだったのだ。


この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?