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はじめてのシステム思考 #4 氷山モデル 事例編

VUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性が高い)時代と言われる現代、複雑な問題に対処する能力がますます求められています。そのような能力の一つであるシステム思考は、戦略,組織,政策,地域,持続可能性など様々な課題領域で、複雑な問題の解決に役立つ思考法です。
このマガジンでは、私が15年ほどシステム思考を学び実践してきたことをもとに、初学者向けにシステム思考の基本を紹介します。(周南公立大学で受け持つシステム思考の講義の一部をnoteにまとめたものです)

この連載を読んでいただきシステム思考を更に学びたいと思った方は、日本におけるシステム思考の第一人者・小田理一郎氏が経営するチェンジエージェント社のHPをのぞいてみるとよいでしょう。システム思考に関連する様々な情報発信やセミナー、研修などが紹介されています。

今回は第4回「氷山モデルの事例編」です。3つの事例を氷山モデルに当てはめながら、氷山モデルの視点の違いに慣れていきます。


事例①なぜ、学力が身につかないのか?

1つ目の事例はこのような問題です。

テストで悪い点をとらないために、友人から講義ノートを借りたら良い点を取れた。次のテストでもノートを借りればいいやと思って、自分で勉強する時間が少なくなっていって、だんだんと、ノートを借りても点が取れなくなってきた…

この問題を氷山モデルに当てはめて考えていきましょう。まずは具体的な出来事の視点、つまり何が起こっているのか?というと、友人からノートを借りて対策しているのに、テストの点が下がっています。
次にパターンの視点、つまり今までどんなパターンが起きているのか?というと、毎回ノートを借りている。最初は効果があったのに、だんだんノートを借りても点数が上がらず、むしろ下がってきている。というパターンが見えてきます。
さらに構造の視点、つまりどんな構造、要因と因果関係が、パターンを生んでいるのか?というと、「ノートを借りる」ことで、「自分で勉強する時間」が減る。 「自分で勉強する時間」が減るから、「テストの点数」も下がる。という構造が見えてきます。
最後にメンタルモデルの視点、つまりどんな思考の前提、心の声が、構造を生んでいるのか?というと、私自身は 「ノートを借りれるから、勉強せずに遊べるなー」という心の声、一方で先生は 「真面目に勉強している学生が点を取れるテストにしよう」という心の声を持っている、と考えることができます。
今紹介したのは、考え方のほんの一例で、これとは違う考えもありますが、視点が変わると考える内容も変わってくるんだということを理解してもらいたいと思います。


事例②なぜ、あの人ばかりに接客が任されるのか?

2つ目の事例このような問題です。

私は接客に興味があって、飲食店でバイトを始めた。最初は私がキッチン、同僚の人が接客をするホールのシフトになった。同僚が接客を頑張ったのでお客さんの評判がよくなり、また同僚にホールのシフトが回り、また私はキッチンに…。私も接客の機会があれば、頑張れるのに…

この問題を氷山モデルに当てはめて考えていきましょう。まずは具体的な出来事の視点、つまり何が起こっているのか?というと、私も接客したいのに、同僚にばかりホールのシフトが回っています。
次にパターンの視点、つまり今までどんなパターンが起きているのか?というと、キッチンのシフトは最初だけだと思っていたのに、同僚が接客すると次もますます同僚に接客の機会が回されて、私の機会が減る。というパターンが見えてきます。
さらに構造の視点、つまりどんな構造、要因と因果関係が、パターンを生んでいるのか?というと、同僚が「接客機会」を得ると、お客さんの同僚への「評判」が高まる。同僚の「評判」が高まると、店長はまた同僚に「接客機会」を与える。という構造が見えてきます。
最後にメンタルモデルの視点、つまりどんな思考の前提、心の声が、構造を生んでいるのか?というと、店長は「実績のある方に任せた方が、なんとなく安心できる」とか「バイトの人たちは、休まず出勤し続けてくれるはず」という心の声を持っている、と考えることができます。


事例③なぜ、映える観光地なのに人が来ないのか?

3つ目の事例はこのような問題です。

地元の観光地はインスタ映えすると評判で、遠方からの観光客が増えていた。口コミが増えるほど観光客も増えたが、同時に市営駐車場の前に渋滞の列ができるようになり、観光客や近隣住民から苦情が増えて、だんだんと観光客の数も増えなくなってしまった。もったいないなぁ…

この問題を氷山モデルに当てはめて考えていきましょう。まずは具体的な出来事の視点、つまり何が起こっているのか?というと、最近、観光客の数が増えていません。
次にパターンの視点、つまり今までどんなパターンが起きているのか?というと、最初はどんどん増えていたのに、あるとき伸び悩み初めて、最近はほとんど増えることがない。というパターンが見えてきます。
さらに構造の視点、つまりどんな構造、要因と因果関係が、パターンを生んでいるのか?というと、「口コミ」が増えると、「観光客」が増え、また「口コミ」が増える。「観光客」が増えると、「駐車場待ちの渋滞」が増える。という構造が見えてきます。
最後にメンタルモデルの視点、つまりどんな思考の前提、心の声が、構造を生んでいるのか?というと、観光客は「映える写真のためだけに、長い渋滞を我慢したくない」、一方で市役所は、「駐車場を広げても、観光客が増えないかもしれない」という心の声を持っている、と考えることができます。

いかがでしょう?だんだんと各視点の違いがつかめてきたでしょうか?
第4回「氷山モデルの事例編」は以上です。次回は、問題の構造を捉えるツールである「因果ループ図」について解説します。

嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/