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はじめてのシステム思考 #5 因果ループ図

VUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性が高い)時代と言われる現代、複雑な問題に対処する能力がますます求められています。そのような能力の一つであるシステム思考は、戦略,組織,政策,地域,持続可能性など様々な課題領域で、複雑な問題の解決に役立つ思考法です。
このマガジンでは、私が15年ほどシステム思考を学び実践してきたことをもとに、初学者向けにシステム思考の基本を紹介します。(周南公立大学で受け持つシステム思考の講義の一部をnoteにまとめたものです)

この連載を読んでいただきシステム思考を更に学びたいと思った方は、日本におけるシステム思考の第一人者・小田理一郎氏が経営するチェンジエージェント社のHPをのぞいてみるとよいでしょう。システム思考に関連する様々な情報発信やセミナー、研修などが紹介されています。

今回は第5回「因果ループ図」です。問題の構造を捉えるツールである「因果ループ図」について解説します。


「因果ループ図」とは

因果ループ図は、システムの重要な要素を因果関係で結び、構造を可視化するツールです。因果ループ図を使うことで、関係者の考え方が明らかになり、問題に関わる様々な要因と因果関係の全体像が可視化され、構造の力をうまく利用した解決の糸口を見出すことができます。
因果ループ図は、シンプルなパーツの組合せでできています。まずは変数。これはシステムの重要な要素で、増えたり減ったりするものです。
次に矢印。変数の間を因果関係で結びます。原因の変数と結果の変数が、同じ方向で増減するなら「同」の矢印。逆方向に増減するなら「逆」の矢印になります。
ちなみに、原因から結果に影響するまでに時間がかかる因果関係については、矢印に遅れを表す二重線のマークを付けます。
最後にループです。因果の矢印が1周して循環する構造を表します。ループには2種類あって、どんどん増えたり減ったりする「自己強化型」と、ある一定レベルに落ち着こう・留まろうとする「バランス型」があります。これらの要素について1つ1つ説明していきます。

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因果ループ図の要素①変数

まずは変数について。変数とは、問題、つまりシステムに関係する重要な要素であり、増えたり減ったりするものです。増えたり減ったりする、そして名詞の形で表すということが重要です。
例えば今、どうすればテストの成績があがるかなー?という問題について考えるとします。この問題に関係する重要な変数を挙げるならば、テストの点数、勉強時間、やる気、難易度、親の干渉度合い、誘惑などが挙げられます。
増えたり減ったりする名詞形で書く、というのは、例えば「勉強する」ではなく「勉強時間」と表現するということです。こうすることで、勉強時間が増えることと、勉強時間が減ることの両方を表現することができます。
また、変数という言葉から、数値化できるものでないといけないと思いますが、重要な要素であれば数値化できないものも変数にしましょう。例えば、やる気や、親の干渉度合いなどです。

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因果ループ図の要素②矢印

次の要素は矢印です。矢印は、変数と変数を因果関係で結ぶものです。矢印の元が要因となる変数、矢印の先が結果となる変数です。例えば、勉強時間が増えると、それが要因となってテストの点数という結果が増える。その場合は勉強時間からテストの点数に矢印を書きます。

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矢印は、増減の仕方によって2種類あります。1つは「同の矢印」と言って、要因と結果が同じ方向に増えたり減ったりします。要因の変数が増えれば結果の変数も増える、要因の変数が減れば結果の変数も減る、というように同じ方向に増減します。例えば勉強時間とテストの点数は、同の矢印で結ばれます。矢印を描くときは青色を使って「同」と書き添えると分かりやすいでしょう。
ちなみにもう一つ、遅れについて説明します。要因の変数が増減してもすぐに結果が増減するわけではない、結果に影響が現れるまでに時間がかかる因果関係があります。たとえば、勉強時間を増やしてもすぐにテストの点数が上がるわけではない、という場合などです。このように遅れを伴う因果関係を表す時は、矢印に二本線を入れて遅れを表します。

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もう1つは「逆の矢印」と言って、要因と結果が逆方向に増えたり減ったりします。要因の変数が増えると結果の変数が減る、要因の変数が減ると結果の変数が増える、というように逆方向に増減します。例えばテストの難易度が上がれば点数は下がる、難易度が下がればテストの点数は上がるという関係です。矢印を書くときは赤色を使って「逆」と書き添えると分かりやすいでしょう。

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因果ループ図の要素③ループ

最後の要素はループです。ループは、因果関係の矢印がぐるっと一周して、循環する構造を表します。「因果ループ図」というからには、このループを書くことが重要です。システムの中でどんなループ構造が回っているかを理解することで、システムが生み出すパターンを理解したり、パターンを変化させることにつながります

ループも2種類あって、1つが「自己強化型ループ」です。「ますます良くなる」「どんどん悪くなる」というように加速的に物事が進展していくパターンを生むループ構造で、好循環にも悪循環にもなり得ます。
例えば、勉強時間が増えると、テストの点数が上がり、点数が良いとやる気も上がり、ますます勉強時間が増え、点数が上がり、という好循環があります。逆に、勉強時間が減ると、テストの点数が下がり、点数が悪いからやる気も下がり、ますます勉強時間が減って点数が下がる、という悪循環にもなります。
自己強化型ループの見つけ方は、ループを作っている矢印に着目して、ループの中に逆の矢印が1つも無いか、偶数個の場合は自己強化型ループになります。逆の矢印は増減を打ち消す矢印ですが、たとえば2個の逆の矢印があればお互いに打ち消し合って、結果としては影響を強める構造になります。

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もう一つのループは「バランス型ループ」です。バランス型ループは、システムをある水準にとどめよう、収束しようとする力が働くループ構造です。例えば、勉強時間が増えると、テストの点数が上がり、そうすると逆に親が口を出してこなくなり、ゆるんで勉強時間が今度は減って、テストの点数も下がり、そうなると今度は親が口を出してきて、勉強時間が増えて、という具合に、極端に増えたり減ったりはせず、均衡が保たれる構造です。
バランス型ループの見つけ方は、ループの中に逆の矢印が奇数個ある場合はバランス型ループになります。逆の矢印は変化の方向を打ち消すからです。

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これらのループの書き方ですが、ループを見つけたらその中にぐるっと矢印を書いて、自己強化ならReinfoceのR、バランスならBと書いて識別します。さらに、そのループがどんなパターンを生むループなのか、イメージしやすい名前を付けます。例えば、「点数が上がるとますますやる気になるループ」や「点数が低いと親が口出してくるループ」などです。

ここまで、因果ループ図の要素を説明してきました。ループは少し難しいかもしれませんが、変数、矢印、ループだけで、あらゆる問題の構造を可視化できるというのは、とてもパワフルなツールだと思いませんか?

第5回「因果ループ図」は以上です。次回は、第4回でも取り上げた3つの事例について、問題の構造を因果ループ図で可視化しながら、因果ループ図について理解を深めていきます。

嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/