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はじめてのシステム思考 #2 システム思考とは

VUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性が高い)時代と言われる現代、複雑な問題に対処する能力がますます求められています。そのような能力の一つであるシステム思考は、戦略,組織,政策,地域,持続可能性など様々な課題領域で、複雑な問題の解決に役立つ思考法です。
このマガジンでは、私が15年ほどシステム思考を学び実践してきたことをもとに、初学者向けにシステム思考の基本を紹介します。(周南公立大学で受け持つシステム思考の講義の一部をnoteにまとめたものです)

この連載を読んでいただきシステム思考を更に学びたいと思った方は、日本におけるシステム思考の第一人者・小田理一郎氏が経営するチェンジエージェント社のHPをのぞいてみるとよいでしょう。システム思考に関連する様々な情報発信やセミナー、研修などが紹介されています。

今回は第2回「システム思考とは」です。システム思考の「システム」とは何か?「システム思考」とは何か?他の思考法と比べてどんな特徴があるのか?ということについて解説していきます。


「システム」とは

システム思考の前に、「システム」という言葉について説明しておきます。システムと聞くとITシステムのことだと思う人が多いですが、システムはITだけではなく、もっと幅広い概念です。
システムとは、「目的を達成するために、互いに影響し合う要素の集まり」のことを言います。システムは複数の要素から成り立っており、それらが互いに影響し合うことで、特定の目的を達成しようとするものです。
とても抽象的でわかりにくい概念ですが、実は皆さんの身の回りにあるもののほとんどは、システムとして捉えることができます。システムとして見る時の視点は、それがどんな要素から成り立っているのか?要素同士はどう影響し合っているのか?それによってどんな目的を達成しようとしているのか?を考えます。
例えば、人間の身体もシステムとして見ることができます。身体は、多くの細胞や骨、筋肉、臓器、神経などの要素から成り立っていて、血液や信号などを通じて影響を与えあっています。それによって、健康に生存することや、子孫を残すことなどの目的を果たそうとしています。

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あらゆるものを、システムとして見る

システムとして見るという感覚を掴んでいただくために、以下に4つの写真を載ました。それぞれの写真は、どんなシステムとして捉えることができるでしょうか?つまり、どんな要素があり、どう影響し合い、どんな目的を果たそうとしているでしょうか?

まずはこの写真。自動車は、タイヤやエンジンなど複数の要素が、メカニックに影響し合い、安全で高速な移動という目的を果たしているシステムですね。さらに、交通システムとして見れば、車両、道路、通行人、信号、道路交通法、損害保険など、交通インフラを支える様々な要素からなるシステムと捉えることもできます。

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次にこの写真。サッカーチームは、複数のプレーヤーという要素がパスや声を交わしながら連携して得点を取るというシステムですね。さらにスポーツビジネスというシステムとして見れば、プレーヤーだけでなく、球団やスポンサー、地域住民、メディアなど、様々な関係者がお金やサービスをやりとりするシステムです。

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次にこの写真。街もシステムです。多くの建物やインフラという要素からなり、影響し合って、住みやすい街という目的を果たしています。物理的な物だけでなく、市民や行政、企業やNPOなど様々な関係者が存在しています。

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最後にこの写真。牛という生物単体でもシステムですし、牛の群れをシステムと捉えることもできます。さらには、生態系という視点で見れば、牛、草、湖、山、空、それぞれの自然が互いに支え合って成り立っているエコシステムです。

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このようにあらゆるものをシステムとして捉えることができるのです。


「システム思考」とは

前置きが長くなりましたが、いよいよシステム思考そのものについて解説します。システム思考とは、複雑な物事をシステムとして、その大局、全体、根本を捉える物の見方です。大局というのは、時間軸を広げて見ること。全体というのは、幅広く関係する要因を見ること。根本というのは、全体に影響する前提条件から見ることです。この講義では、システム思考の主要なツールとして、氷山モデルと因果ループ図について学びます。
氷山モデルは、物事を捉える視点の深さを表しており、第3回、第4回で詳しく解説します。私たちが普段見ている出来事のレイヤーだけでなく、その下には大局的なパターンの視点が存在し、さらに深層には、パターンを創り出す全体的な構造があり、さらにその深層には、構造を生み出す根本的な前提としてメンタルモデルの視点が存在します。
因果ループ図は、システムの構造を可視化するためのツールで、第5回、第6回、第7回で詳しく解説します。

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論理思考で問題を見た場合

システム思考の特徴を理解するために、論理思考・ロジカルシンキングと対比させてみましょう。一言で違いを言うならば、論理思考は「分ける思考」で、システム思考は「つなげる思考」です。同じ問題に取り組む際に、論理思考のロジックツリーで考えた場合と、システム思考の因果ループ図で考えた場合、思考のアプローチや解決策がどのように違うのかを見ていきましょう。
まずは論理思考で見た場合です。論理思考は、モレやダブりなく、問題を要素に切り分けた上で、客観的に理解しようとする思考法です。ここではある消費財メーカーの社員が、利益を改善するという問題を取り上げます。
論理思考の主要なツールは、ロジックツリーです。問題の対象、ここでは利益を、モレやダブりなく要素に分解します。これをMECEと言います。利益は売上マイナス費用で計算されるので、利益UPのためには売上UPか費用Downに分解されます。更に売上は価格×数量、費用は固定費と変動費という2種類の費用に分解されます。
ここまでMECEに分解出来たら、今度はこの要素ごとに解決策の案を挙げていきます。価格を上げるために、ブランドイメージを向上させる。数量を上げるために、販売促進セールで値引きする。固定費を削減するために、人手の仕事を自動化する。変動費を下げるために、製品に使う材料を安いものに変更する、などです。
最後に、これらの案を客観的に評価していきます。効果がでそうか?実現できそうか?という2つの評価軸で考えると、効果が出そうで実現しやすい「販売促進セール」が最も妥当な解決策として結論づけられました。

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システム思考で問題を見た場合

次は、同じ問題をシステム思考で見てみましょう。システム思考の特徴は、問題に取組む当事者の関心や心理なども含めてつなげて、構造的に理解することにあります。システム思考の代表的なツールは因果ループ図です。因果ループ図は第5回以降で詳しく説明しますが、簡単に言えば、「販促セール」などの文字は変数といって当事者が気にしている物事変数同士をつなぐ矢印は原因と結果の関係で、色によって結果の出方が変わります。そして丸のRやBと書いてあるのはループといって循環する構造を表しています。
利益を改善するために、実はメーカーの社員たちは、論理思考で考える前から「販促セール」がいいだろうと思っていました。なぜならこれまでも販促セールで乗り切ってきたからです。利益を獲得しないと!となると販促セールを行って問題が一旦収束する、また利益が下がればセールして・・・という循環の「とりあえずセールでしのぐループ」という構造が存在します。
一方で、実は社員たちは「これではいけない」とも感じています。本来は、商品のブランドイメージをじっくり高めていって、価格を上げることで利益を上げることが、本質的な問題解決だと気づいています。これが「ブランドをじっくり育てるループ」です。でもこれには時間がかかるため、忙しい中で手を付けることができずにいます。
そんな中で、利益が下がるたびにセールでしのいできたので、いつの間にか社員はセールばかりに頼るようになっていきます。そうすると困ったことに、商品に安売りイメージが定着して、本質的なブランドイメージに対しては逆効果になってしまい、ますます本質的なブランドイメージ向上が難しくなってしまうのです。この循環が「本質的解決から遠のくループ」です。
この構造を分析することで得られた解決策の案は、まず販促セールへの依存が引き起こす悪影響の構造を自覚することです。自分たちのよかれと思って取る行動が、実は自分たちの首をしめているのだと、気づくところから始めます。その上で、長期的なビジョン、実現したい世界観に基づいて、ブランドイメージ向上活動に関する目標を設定することです。

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いかがでしょうか?同じ問題でも論理思考と比べると、社員の心理や、つながり、構造といった全く異なる景色が見えてきます。そうすると、当然ここから見出される解決策も異なってくるわけです。論理思考よりシステム思考が優れていると言いたいわけではありません。どちらも得意不得意があり、両方必要ですが、システム思考はつなげる思考という特徴を理解してください。

第2回「システム思考とは」は以上です。次回は、システム思考の中核的な概念である氷山モデルと、氷山モデルを構成する4つの視点について解説します。


嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/