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はじめてのシステム思考 #8 レバレッジポイント

VUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性が高い)時代と言われる現代、複雑な問題に対処する能力がますます求められています。そのような能力の一つであるシステム思考は、戦略,組織,政策,地域,持続可能性など様々な課題領域で、複雑な問題の解決に役立つ思考法です。
このマガジンでは、私が15年ほどシステム思考を学び実践してきたことをもとに、初学者向けにシステム思考の基本を紹介します。(周南公立大学で受け持つシステム思考の講義の一部をnoteにまとめたものです)

この連載を読んでいただきシステム思考を更に学びたいと思った方は、日本におけるシステム思考の第一人者・小田理一郎氏が経営するチェンジエージェント社のHPをのぞいてみるとよいでしょう。システム思考に関連する様々な情報発信やセミナー、研修などが紹介されています。

今回は第8回「レバレッジポイント」です。因果ループ図で構造を可視化した上で効果的な解決策を探る考え方について解説します。


レバレッジポイントとは

因果ループ図が書けて問題の構造が明らかになったら、レバレッジポイントという解決策を探っていきます。レバレッジとは、てこの事です。てことはこの絵のように、小さな力で大きな影響を生み出すものです。因果ループ図で描いた全体の構造の中で、望ましい方向へ大きな影響を与えられるツボを探すというイメージです。

レバレッジポイントを探す上で参考になる考え方を5つ紹介します。⑤に向かうほど難易度は高いですが、その分効果も大きいです。
1つ目は、物理的な構造を変える。物の動きや人の行動を制限したり、増幅させたりする。または因果でつながっていない変数同士をつなげたり、逆につながっている因果を切り離したりするという考え方です。

①物理的な構造を変える
・物や行動を制限する/増幅させる
・変数同士を繋げる・切り離す

2つ目は、ループを強めたり弱めたりする。望ましい影響を生むループの力を強くしたり、早く回るようにする。または望ましくない影響を生むループの力を弱めたり、遅く回るようにするという考え方です。

②ループを強める、弱める
・望ましいループを強める/速く回す
・望ましくないループを弱める/遅く回す

3つ目は、情報の流れを変える。関係者の重要な行動の前には、判断があるはずです。その判断に影響する情報を、判断する人に見せるようにしたり、逆に見せないようにすることで、システム全体にとって望ましい行動を取るように誘導するという考え方です。

③情報の流れを変える
・判断に影響する情報を見せる/見せない

4つ目は、ルールや組織を変える。関係者が共有しているルールを変えることで、望ましい行動をとる動機を与えたり、逆に望ましくない行動をとる動機を奪ったりします。また、集団の中での立場や関係性を変えます。集団を分離させて立場を分けたり、別々の立場の集団を統合したりすることが、関係者の思考や行動に影響します。

④ルールや組織を変える
・ルールを変えて、動機を与える/奪う
・集団の中の立場や関係性を変える

5つ目は、メンタルモデルに気づくことです。システムの構造を生み出している自分たちの暗黙の前提に気づくと、構造も変わっていきます。自分が思う理想像と現実との乖離、その乖離への自分の向き合い方に気づいたり、相手に対する自分の見方、信頼関係や不安な気持ちなどが構造にどう影響しているか気づくというアプローチです。

⑤メンタルモデルに気づく
・自分の思う理想像と現実の乖離
・相手に対する自分の見方(信頼,不信)

いずれも難しそうという印象を持つかもしれませんが、まずは、全体の構造をなぞりながら、どの変数や矢印を変えると良い影響が全体に広がりそうかを考えてみましょう。


レバレッジポイントの例

学力向上の事例を例にして、レバレッジポイントを具体的に見ていきましょう。
物理的な構造を変えるアプローチでは、例えば、本人しかノートを開くことができないようなロックをかけて、物理的にノートの貸し借りができないようにするという解決策があり得ます。
ループを強めたり弱めたりするアプローチでは、例えば、テストの点数ではなく、その先にあるなりたい自分の理想像を目標にすることで、じっくり実力をつけるループを回すという解決策があり得ます。
情報の流れを変えるアプローチでは、例えば、テストの正解だった問題よりも、不正解だった問題を強調して結果を伝えることで、自分で勉強するという判断を促すという解決策があり得ます。
ルールや組織を変えるアプローチでは、成績をテストの点数ではなく「上位何%」という指標で決めるというルールに変更することで、学生同士の競争意識を高めてノートの貸し借りをしないように仕向けるという解決策があり得ます。
最後にメンタルモデルに気づくアプローチでは、自分の友達への依存心が、自分自身の自立を妨げているということに気づいてもらうことで、学ぶ力が無くなるループを弱めるという解決策があり得ます。

以上のように、あまり現実的ではないものも含めて、様々なレバレッジポイントを検討することができますが、その中でも、自分達で実現することができ、かつ全体への効果が大きい解決策を選びましょう。

第8回「レバレッジポイント」は以上です。次回は、第1回から第8回の内容を振り返った上で、更にシステム思考の学びを深めていくとどうなっていけるのかについて、まとめていきます。

嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/