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はじめてのシステム思考 #6 因果ループ図 事例編

VUCA(変動性,不確実性,複雑性,曖昧性が高い)時代と言われる現代、複雑な問題に対処する能力がますます求められています。そのような能力の一つであるシステム思考は、戦略,組織,政策,地域,持続可能性など様々な課題領域で、複雑な問題の解決に役立つ思考法です。
このマガジンでは、私が15年ほどシステム思考を学び実践してきたことをもとに、初学者向けにシステム思考の基本を紹介します。(周南公立大学で受け持つシステム思考の講義の一部をnoteにまとめたものです)

この連載を読んでいただきシステム思考を更に学びたいと思った方は、日本におけるシステム思考の第一人者・小田理一郎氏が経営するチェンジエージェント社のHPをのぞいてみるとよいでしょう。システム思考に関連する様々な情報発信やセミナー、研修などが紹介されています。

今回は第6回「因果ループ図の事例編」です。第4回でも取り上げた3つの事例について、問題の構造を因果ループ図で可視化しながら、因果ループ図について理解を深めていきます。


事例①なぜ、学力が身につかないのか?

1つ目の事例はこのような問題でした。

テストで悪い点をとらないために、友人から講義ノートを借りたら良い点を取れた。次のテストでもノートを借りればいいやと思って、自分で勉強する時間が少なくなっていって、だんだんと、ノートを借りても点が取れなくなってきた…

この問題の構造を因果ループ図で可視化してみましょう。構造を考える前に、パターンの視点も抑えておきます。「テストの点数」を主要な変数としたときの時系列変化パターングラフはこのような形です。ノートを借りればその時は点数は上がるのだけど、長期的にはだんだんと点数が下がっていくというパターンがありそうです。では、どんな構造がこのパターンを作り出しているのでしょうか?

因果ループ図で可視化した構造がこちらです。ノートを借りれば、テストの点数が上がります。逆にテストの点数が下がるとノートを借りる行動が増えます。ここに「ノート借りてしのぐループ」というバランス型のループが存在します。この構造が、点数が短期的に上下するパターンを作っているんですね。
しかし本来は、テストの点が下がったら、自分で勉強時間をかけて、じっくりと実力をつけて点数を上げることが望ましいですよね。ここに「じっくり実力をつけるループ」が存在しますが、現状はこのループが回っていない状況です。
なぜ回らないかというと、ノートを借りてばかりいると、友達に頼ればいいやという気持ちが高まってきます。友達に依存する気持ちが高まると、自分で勉強する時間が減ってしまう。そうすると点数は下がって、ますますノートを借りようとする。外側をぐるっと回るループがあるのがわかりますか?これが「学ぶ力が無くなるループ」で、逆の矢印が2つあるので自己強化型ループです。このループが回っている間は、勉強時間はますます少なくなり、長期的にテストの点数が下がり続けるというパターンを生み出しています。
このように、システムの中にある複数のループが影響を与えあい、強めたり弱めたりしながら、全体としてのパターンを作り出しています。これが、問題を構造的に理解するということです。


事例②なぜ、あの人ばかりに接客が任されるのか?

2つ目の事例はこのような問題でした。

私は接客に興味があって、飲食店でバイトを始めた。最初は私がキッチン、同僚の人が接客をするホールのシフトになった。同僚が接客を頑張ったのでお客さんの評判がよくなり、また同僚にホールのシフトが回り、また私はキッチンに…。私も接客の機会があれば、頑張れるのに…

この問題の構造を因果ループ図で可視化してみましょう。構造を考える前に、パターンの視点も抑えておきます。「私と同僚の接客機会」を主要な変数としたときの時系列変化パターングラフはこのような形です。同僚の接客機会はどんどん増えていく一方で、私の接客機会はどんどん減っていく、というパターンです。では、どんな構造がこのパターンを作り出しているのでしょうか?勘の良い人は、どんどん増える・減るというパターンを見て「自己強化型ループ」があるかも?と推測されるかもしれませんね。

因果ループ図で可視化した構造がこちらです。同僚が接客をすると、お客さんからの同僚の評判が高まり、それを踏まえて店長がまた同僚にホールのシフトを配分します。そうするとまた同僚が接客し評判が高まり、ますますホールのシフトが増える、つまり「同僚ばっかりホールループ」という自己強化型ループが存在します。この構造が同僚の接客機会をますます増やすパターンを生んでいます。
一方で、ホールのシフトは限られているので、同僚がホールに立てば必然的に私にキッチンのシフトが回ってきます。私は接客機会を得られないので、お客さんからの評判も得ることができません。そうすると店長はまた、評判の高い同僚にホールを任せ、私はまたキッチンで、つまり「私ばっかりキッチンループ」という自己強化型ループが存在します。この構造が私の接客機会がますます減るというパターンを生んでいます。


事例③なぜ、映える観光地なのに人が来ないのか?

3つ目の事例はこのような問題でした。

地元の観光地はインスタ映えすると評判で、遠方からの観光客が増えていた。口コミが増えるほど観光客も増えたが、同時に市営駐車場の前に渋滞の列ができるようになり、観光客や近隣住民から苦情が増えて、だんだんと観光客の数も増えなくなってしまった。もったいないなぁ…

この問題の構造を因果ループ図で可視化してみましょう。構造を考える前に、パターンの視点も抑えておきます。「観光客数」を主要な変数としたときの時系列変化パターングラフはこのような形です。最初は観光客が急増していたのに、ある時から頭打ちになって増えなくなったというパターンですね。このパターンを見て、急増する段階では自己強化型ループが、頭打ちになって増えない段階ではバランス型ループが構造として働いていそうだな、と推測できます。

因果ループ図で可視化した構造がこちらです。観光客が増えると、口コミが増えて、それを見てまた観光客が増え、口コミが増え、という「評判が評判を呼ぶループ」という自己強化型ループが存在します。これがパターングラフ前半の観光客急増のパターンを生んでいます。
一方で、観光客がある水準より増えると駐車場の前に渋滞が発生し、渋滞が長くなると観光客がじわじわと離れていってしまう、という「渋滞で伸び悩みループ」というバランス型ループが存在します。これがパターングラフ後半の頭打ちと伸び悩みのパターンを生んでいます。また、渋滞発生の要因には駐車場スペースの不足があります。観光客の車が駐車場の広さを超えたときに渋滞が発生するということで、これが制約となって観光客数の伸びを止めていることが分かります。このように、時間軸の中で前半は自己強化、後半ばバランス、のように強く働くループが入れ替ることもあります。

いかがでしょう?問題を構造的に理解するという感覚がだんだんと掴めてきたでしょうか?
第6回「因果ループ図の事例編」は以上です。次回は、因果ループ図の作成手順と注意点について解説します。

嬉しくて鼻血出ます \(^,,^)/