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ユーミンとわらしべ長者

松任谷由実

 彼の実家に行く前日、何故かルージュの伝言を思い出した。
彼氏の浮気を叱ってもらいに行くのと、彼の仏壇に誕生日プレゼントを届けに行くのでは似ている要素など皆無だけれども、漠然とした不安を抱えて電車に乗る自分の気持ちがこの曲を思い起こしたのだろうか。

 この不安、13年前にも味わっている。遠距離恋愛を終わらせて彼のもとに一人で運転して押しかけ女房のごとく出発した日の気持ち。「私は何をしてるんだろう。これでいいのかな?」という不安を乗り越えようとしていた時だ。あの決断から二人の人生は同じ時を刻むようになった。

わらしべ長者

 仏壇に義母さんがお灯明とお線香を灯して「来てくれたわよ~」と彼に声を掛ける。座った私は、まず彼の父に自己紹介してから、彼になんと挨拶しようかと彼に気持ちを遷した。涙が出そうになるのを感じ、口が勝手に動く「ヤバイヤバイヤバイ...」席を立ち、居間に戻るとキッチンから義母が私を見ていた。
 「危なかったです!危険です。もう大丈夫です」ささっと涙を拭い気持ちを整え、義母さんが入れてくれたコーヒーを二人で飲む。

 初めて飲んだコピルアクは美味しかった。ドリップパックにしておいて良かった。簡単は大事だ。微妙な間が開くのを防いでくれる。

彼に持って来た誕生日プレゼントを義母に渡し、「貴方が作ったの?」と驚かれながら、レジンのネックレスは彼母の手によって彼の位牌に掛けられた。大胆さに笑った。流石に親子だ。画して育てられ彼が彼になっていったのだろう。

 そして、ネックレスは翌日、イヤリングとダイヤのネックレスになって私の首を飾った。「本当はね、あの子が貴方に買ってあげなきゃいけないのよ!だから○○からだと思って受け取ってね」と、少し彼にお小言を言いながら、当たり前のように渡してくれた。

 声に出さずに「これじゃわらしべ長者じゃん」と思っている私の気持ちは彼に通じてしまっているのだろうか。。。

工場と会食

 住んでいた地で会食を予約していたが、店側のアクシデントでキャンセルになり、心配していたあの場所には立ち寄らないことにした。こうした事が起きても「あぁ、まだ機が熟していないんだな」と冷静にストンを受け入れるようになったのも死別の効果なのだろうか。

 自分の興味が向く方向も、トラブルも何かしらのご縁やら何かのきっかけの1つと考えるようになった。

 知人が誘って現れた知人母は御年92歳だそうだ。お会いした瞬間に義母と顔を見合わせて驚いた。美魔女だった。若い頃美人だったと想像できるとかではなくて、現役の美人さんだった。年齢相当に足腰は弱くなって杖を使われているけれど、よく笑いよく食べ、これほどにイケてる92歳に二人して驚いた。


ダイソー@330 ×2

 彼母といろいろお喋りをしながら、なんとなく絶縁している自分の母との関係を清算しなきゃいけない時期が訪れたような気がした。

 ということで、ダイソーでアロマ用に売っているクリスタルとフローライトを買って来た。アロマは買わずに替わりにヤスリを買ってきた。磨いてみよう。パワーストーンは良くわからないけど、自分で磨けば自分のお守りになりそうな気がする。しらんけど。

 ついでに命と向き合うのを怖くなってしまっている気持ちも乗り越えなきゃならない時期が来てるもかも知れないと思った。彼の家は緑に溢れていて、小さな置物がいろんな場所で個性を見せていた。家族写真や絵画は空間を彩っていた。

 彼のお父様が一時退院をして家族全員で写真館で撮った集合写真。
「家族みんなで飯食ったり写真撮ったりはこれが最期かもしれんからな」と彼が言って出掛けて言った日を思い出した。

 優しく微笑む彼のお父さんの遺影はこの写真を使った。
しかし!!その写真から君の遺影まで用意するとは誰も思わなかっただろう。もう家族全員この写真から遺影作ればいいんじゃないの?と、ダークな私の心がつぶやく。

 遺影の彼もやはり笑顔だった。でもね、二人でいたときの、私と笑っている時の彼の笑顔も彼の目も、もっと素敵なのを私は知っている。私専用の笑顔があったんだ。変なマウントを取っている自分を自覚する。

本丸

 乗り換えに手こずって乗り込んだ近鉄線で隣に座った初老の男性の待ち受け画面は名古屋城だった。「流石だな」と何が流石なのかわからなかったけれど、非常に名古屋を感じた。

 こうして何を考えても何をしても〈死別〉を感じているのを乗り切るには母との関係を片付けるしかないとつくづく思う。すんなり育ってこられなかった自分の過去を自分で整える。ここが本丸だろう。まさか自分がアダルトチルドレンだとは思わなかったけれど、なんでもいいや。自分が気持ちよく快適に過ごせるように考え答えを探すだけだ。

エアコン

 彼のお仏壇のある部屋のエアコンが動かなくなった。霊がいると家電が壊れるとよくYouTubeで聞くけれど、我が家の家電は軒並み20年選手なので壊れ難い...。買い換えられない私のお財布状況を常に彼が気にしているのを感じつつ、私の脳内では〈私と彼は一緒に彼実家に行った〉だからエアコンが壊れたと結論付けた。エアコン本体ではなくてリモコンが壊れたあたりのセコさが実に彼らしい。メルカリで500円位でリモコンは売っている。

 いきなり壊れたエアコンにうんざりしている彼母の横で、やっぱり私はラブラブなんだと少し嬉しい気持ちで猫を撫でていた。


 片道3時間。以外に近いのかもしれない。
同じ故人を想っていても違うもんだなとも思った。
ついでに、ご主人を見送っている彼母は「主人の事はね、頭にきた事を思い出しちゃうのよ。思い出してまた頭に来るの」と笑っていた。死別にもいろいろあるんだね。いろんな人がいるように、いろんな死別があるんだね。

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