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マスキング

 キットで買ったクロスステッチ。四角い目をバツ×印で埋めると丸いミモザが咲いていく。不思議だ。
 同じ色で挿せる場所を最短距離でワープしながら刺し進める。〈糸が足りるだろうか〉という心配しながら遊ぶ。

差し迫った小さな不安はいいものだ。少し先の大きな不安を考える余裕をマスキングしてくれる。
〈糸が足りるだろうか〉は〈今日の夕飯どうしようか〉を覆い隠し、今日の夕飯は〈義母宅への訪問〉を隠し、義母からの招待は〈絶縁宣言した実母との関係〉を隠し、実母の存在は〈圧倒的に足りない老後の資金問題〉を隠している。

 大きな問題を考えるのは余裕があるときだ。そして大きな問題なんて考えても答えが出ないから大きな問題であるのだから、小さな問題でマスキングして先延ばしにする。
 大問題が目前に迫っても、結局はなるようにしかならない。きっちり綺麗にスッキリ解決しようがないから大問題なんだから。

明日来ていく服をどうしよう?も、このまとまらない髪型をどうしよう?も、結局は始業時間にはどうにかして会社に着いている。諦めの決着でも満足の決着でも、〈その問題が解決〉した事には変わらない。
 だから小さな悩みはいい。くだらない悩みをマスキングしてくれる。
ゆえに以外に早くクロスステッチは進んでいく。綺麗な花を咲かせながら次に何を作ろうか考えている。

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