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免許の更新と1年が過ぎて

免許の更新

 アホらしい話である。免許の更新に行くのに車が無い。意味なく地価が高い(過疎った中心市街地)ので駐車場代やら考えると車は買うことも維持することもできない。しかし就職の条件に要普通免許はゴロゴロしているので、更新しないわけにはいかない。
 バスに乗って免許の更新に行く人は少ない。私の乗ったバスから〈免許センター前〉で降りたのは私だけだった。
 ついでに、昔とった杵柄はもはや貝塚であり、大型免許とけん引免許があるので深視力検査がある。バリバリの老眼にムチ打って、検査官のおまわりさんに「大丈夫!絶対に大丈夫だから落ち着いて見ましょう」とノリノリに乗せられてギリギリ通過して、更新の度に「深視力嫌なので大型とけん引を返納したいのですが」と言いそびれた。

写真を撮り、新しい免許証の住所/氏名等を確認して免許ができるまで30分の時間潰し講習を受ける。講習会場は3F。
「免許を更新する人は階段位登れないようじゃダメだから」という理由ではないと思うがバリアフリーとは無縁の階段。しかも、講習前の受付は2階。

講習会場で席についた私は少し息が切れていた。「おいおい、こんなんじゃ就職どころではないぞ」と引きこもり生活を反省しそうになったが、違う。

さっき、新しい免許証の住所を確認したときに「これで三重県の住所は全部封印しちゃったんだ」って思った。
 引越して住所変更しても免許証の裏書きされるだけだったけれど、新しい免許になれば消えてなくなる。そんな気持ちが引き起こした動悸だった。
講習のビデオに衝撃を受けてしまっている風を装いながら、気持ちを落ち着け、動悸は過呼吸に進むこと無く治まってくれた。
 しかし30分間の講習中、私は頭の中でずっと前回の免許証の更新を思い出していた。警察署が隣の市にしかなかったので助手席でドライブのように更新に行き、日を改めて講習を受けて免許の受け取りだったのに読み落としていて、あと1日で失効という日に気がついて、県庁所在地まですっ飛ばして連れて行って貰って更新できた。
 何を思い出しても、ありがとうとごめんねがセットで出てくる。

新しい免許証を受け取り、帰り道片道520円だったバス代をケチり、少し歩こうと近くの駅に向かった。電車代200円。浮いた320円はおやつ代にしようかなと思いながら。
 駅に着けばステラおばさんもビヤードパパもいる。しかし、電車の中で彼の元へと高速バスと電車を乗り継いで通った日のときめきを思い出して、駅についても迎えに来ないんだなって思った所で玉砕。
 お家に着くまでがお出掛けです...。心が無になって帰宅。

免許の更新なんて彼要素なんて全く無いと思っていたのに地雷ばかりだった。1年分、少しは強くなっているハズなのに激弱。どんだけ彼は私の中に入り込んでいたんだろう。

1年が過ぎて

 何も変わらないような、却ってキツくなったような、そんなこんなな1年だった。

 初めの2ヶ月は事業を納めて引越し、次の2ヶ月は狭いマンションの1室に持ち込んでしまった荷物+犬1匹+猫2匹。どうやって居場所を確保し生活を成り立たせるか。捨てなきゃ無理な物量をパスルのように入れ込み、今度はほぼ汚部屋となっていた家の掃除をした。
 彼の幻影を追いかけるように、古い携帯、メモリーカード、USBを漁って何か残っていないかと探して、飾れそうな写真を加工していた。
あるいは、彼の写真をぼーっと眺めながら1日が過ぎてしまう日の方が多かったかも知れない。図書館から死別関連の書籍を借りまくって読んでいたのもこの時期だった。

 手を動かすことが無くなると、今度は彼の死後分かった浮気に心が飲み込まれた。この迷いにケリをつけて再就職。

 死別さえしていなければ乗り越えられたことかも知れない言葉が乗り越えられずに退職。

7ヶ月目あたり、5月の連休あたりから再びパニックに近い状態になってきた。6月の彼の誕生日。毎年何をプレゼントしようかと考え始める時期だ。
彼の実家は7月がお盆。私の住む長野は8月がお盆。9月のお彼岸から命日まで、死別する日に向かってカウンドダウンしている怖い日ばかりだった。

 1年が経ち何かが変わったとすれば、浮気については心が乱れる事が無くなった。「なんで?」「どうしたらいいの?」ばかりだった思考が「これからどうしよう」に変わったのかも知れない。
 ほとんど大差無いのだけど、通帳の残高が初任給程度になってしまっているので切羽詰まったからなのかも知れないけれど「これから」という文字の意味を持ち続けたいと思う。

 大差ないと言えば、以外に少ない希死念慮と思っていたのだが、かわりに「何のために生きているんだろう」「生きている価値なんてあるのかな」は常に存在している。この大差の無い考えの違いに〈大きな差〉を持ち続けないと歩けないそんな世界に住んでいる事には間違いないと思う。


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