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たぶん満月

 会社からの帰りにふと見上げた空にたぶん満月が輝いていた。
彼と見上げた夜空はいったい何度あったのだろう。理系と文系、学問と無知の狭間を言ったり来たりしながらお喋りに夢中になっていた。

 なんの血がそうさせるのか、私達はお互いに相手を 笑顔にする 笑わせる、もっとしっくりくる言葉にすると〈笑かす〉ために喋っていたのだと思う。

 くそデカイ満月と小さい満月が同じ大きさなんて到底信じられないし、大きくて綺麗なお月さまの写真を撮ったのに、画面の真ん中にポツンと小さく映るのに納得は出来なかった。月が自分で発光していないなんて思えない美しさだし....、いい歳のおっさんとおばさんの会話とは思えない事を毎度のように話していた。

 乱視と老眼の目に映る満月は〈雪だるまみたいに見える〉かたや〈いっぱいあってどれが本物かわからん〉という有様で、いつもたぶん満月だろうと思って見ていた。

そんな会話を(´∀`*)ウフフと温かく思い出し刹那、私が失ったのは思い描いていた未来だけではなく、一緒に過去の思い出を語る相手も失っているのだと気がついた。

Bさん

 うちの会社は早期退職すると退職金が上乗せされるようだ。
しばらく前から、Bさんは年休消化で長い休暇をスタートさせた。59歳。

 どう書いても悪口のようになってしまいそうなのだが、決して悪口は書かない。〈ある意味で彼は非常に人気者〉なのである。

まぁ5歳児を想像していただくのが判りやすい。仕事から帰って来て速攻で夕飯を支度をしたいお母さんに「今日保育園でね!」と自分の素敵体験を大声で一気にまくし立てるアレをBさんはする。シフトで次々に出勤してくるお気に入りの同僚みんなにする。みんなを笑わせようと頑張っているのだが、相手の都合は考えない。

 長身で大股で真っ直ぐ前だけを見てガンガン歩くので何にでもぶつかる。以外に破壊力があるし、狭い通路でも道を譲らない。流石にぶつかりそうになって笑っていると「俺は避けないから、そっちが避けてね」と普通に言う。
大笑いしながら「どっちかが避けるんでなくて、お互いに避けるんだよ」って言うと心底驚いてくれた。

ミスを指摘されると秒で言い訳が繰り出され、相手が上役でない場合にはキレて大声で怒鳴り始める。何故か私と相性がいいのか、怒鳴り始めたBさんを一言で宥めることができたので、周囲は〈お母さんと息子〉〈ペットと飼い主〉と呼ぶようになった。

 そんなBさん、恐ろしい程のポジティブな人である。
Bさんが早番の日、次のシフトの社員には「何をやらかしてあるのだろうか」と不安にさせ、同じ勤務時間になった時には「本当に喋ってるだけで動かない」と呆れられながらも、当のBさんは「俺、コレやったら間違えちゃうかも知れないから次の人に頼む!」と至って平然とお土産を残すし、彼にとっては当たり前なので、それでヘリクダル事もなければお礼もない。

 恐ろしい勢いで仕事が出来ないので上からの評判はすこぶる悪いのだが、一緒に働いている周りは、困るんだけども何か憎めない所があると受け入れる。見習ってはいけないと思いつつも、羨ましい鈍感力がある。

 心が病んでしなうのなら、あるいは心が病んでいるのなら、ちゃんと仕事をしよう!ではなく、まず身につけるのは鈍感力かも知れない。
〈仕事ができる人〉になりたいと思うのではなく、「仕事ができる人は、できる人になりたいと思わない人」なんだから、できることをきちんとしておこう!という働き方を見つけたBさんは偉大だと思う。

たぶん彼はうちの会社の伝説になる人だと思う。こんな事を書いても「普通はそうゆう訳にはいかない」と思うだろう。それを超越した場所があるんだと私が実感した相手がBさんだった。


クロスステッチ

 有り余る時間がある。ぼ~っとしている時間があるわけではないけれど、充実した時間って何だっけ?と思い出せない。
 暇な時間という感じでも無いのだけれど、残りの人生暇つぶししなければという感じである。

 ミモザの図柄のクロスステッチのキットを買った。まだ見たこと無いけれど憧れているミモザ。すぐに出来上がってしまうのも面白くないので、少し大きめの物を選んだ。
 パッケージの隅に【上級者】の文字ある。小学生の時に一度やったことがある!約50年前なのか!!

 とは言え、初心者でも上級者でもクロスステッチである以上やることはそんなに変わらないでしょ!と前向きに考えて買ってしまった。
 目から鱗である。〈何処から初めていいのか手が付かない〉問題が勃発して3日目である。まぁ、投げ出さなければ出来上がるだろう。有り余る時間はあるのだから。

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