見出し画像

水底のチキンハンバーグ

オジさんの科学vol.064 2021年4月号

チキンハンバーグ

 ご覧ください。写っているのは「チキンハンバーグ」と思われるパッケージです。「製造年月日:昭和59年9月」と記載されています。
さてこれは、いつどこで撮られたものでしょう。

 製造から35年、賞味期限切れのチキンハンバーグの袋が撮影されたのは、2019年9月。場所は、房総半島沖約500kmの太平洋の海底です。深さは、約6,000m。
 発見したのは、有人潜水調査船「しんかい6500」。海洋研究開発機構(JAMSTEC)が2021年3月に発表しました。JAMSTECは、先月号でお話しした、ユカタン半島の海底掘削調査にもかかわっていました。
海底からは、チキンハンバーグの袋だけではなく、たくさんのプラスチックごみが見つかりました。1km2に、平均して4,500個以上あったそうです。

 世界中でプラスチックは、年間約4億トンも生産されています。そのうち1,000万トン以上が、ごみとして海に流されていると考えられています。これは、東京ドーム約8杯分になるようです。といってもイメージが湧きません。そこで、このプラごみを山手線内に隙間なく敷き詰めてみました。すると厚さが約15cmになりました。

 太平洋には、日本の数倍の面積がある「太平洋ゴミベルト」があると言われています。2050年には、世界の海のプラごみの量は魚よりも多くなるという予想もあるようです。

 海に流れ出る量が毎年1,000万トンもあるにも関わらず、現在海面に浮かぶ量は、わずか44万トンに過ぎないと試算されているそうです。
そこで、JAMSTICは、失われたプラごみを求めて、しんかい6500を発進させたのです。

しんかい6500

 日本近海には、少なくとも2つの巨大深海ゴミ集積場所があると予想されていました。ひとつは四国沖、もう一か所が、房総沖でした。これらの場所では、黒潮が大きく渦を巻いて循環しており、日本を含む東アジアから運ばれてきたプラごみが渦に巻き込まれて集積・沈降し、海底下に巨大なごみだまりが形成されると考えられました。しかし、ここに集められても、木曜日に回収車は来ません。

 房総沖で、黒潮が渦を巻いている水域の直下の深海平原(水深5,718~5,813m)を目視および映像で調査しました。チキンハンバーグの袋の他に、ポリ袋や化繊の衣服、化繊の綱、アルミ蒸着のプラ風船、歯みがきのチューブ、インスタントラーメンの袋、梱包用のヒモなども見つかりました。見つかったプラごみの大部分は、「使い捨てプラスチック」でした。この水域の平均プラごみ密度(4,561個/㎢)は、世界各地で調査した結果と比べて、けた違いに大きいことが分かりました。

アジアのゴミ


 JAMSTICは、プラごみ達がどこから来たのか、スーパーコンピューター「地球シミュレータ」で計算しました。すると、どこか遠くの海底から運ばれてきたものが集積したのではなく、真上の海面から沈降してきたものが、残留している可能性が高いことが判りました。遠洋航海の途中で食べたチキンハンバーグの袋をポイ捨てしてしまったのでしょうか。

 プラスチックは、なかなか分解されません。光も届かない冷たく静かな海の底で、チキンハンバーグの袋は数百年も数千年後も回収車を待つことになります。
 一方で、海面から消えたプラスチックごみは、今回の発見のようにそのままの形で沈んで残るだけではなさそうです。波にもまれたり、擦れたりすることで、物理的にバラバラになると考えられています。大きさが5㎜以下になったプレスチックの破片を「マイクロプラスチック」と呼びます。
 マイクロプラスチックは、微生物から小エビの様な餌生物、それを食べる魚へと摂取、蓄積していくと考えられています。
2018年秋の欧州消化器病学会で、ある予備的な研究の発表がありました。8人の協力者全員の糞便からマイクロプラスチックが見つかったというものでした。そのうち1人は、日本人でした。

 プラスチックの中には、性能改善のための添加物が含まれています。中には、有害な化学物質もあります。細かくなり表面積が大きくなるとプラスチック中の添加物が溶けだしやすくなります。
 マイクロプラスチックがさらに粉々になると、ナノプラスチックと呼ばれます。細胞膜の隙間をすり抜けて、細胞内に浸入する可能性もあるそうです。

 安くて、壊れにくいプラスチック製品無しでは、私たちの生活は考えられません。国立環境研究所のオンラインイベントで、マンガ家の山田玲司さん(環境問題に詳しいみたいです)は、環境問題に取り組む時には「100か0か」と考えてはいけない、と言っていました。大事なのは、「何をやっても無駄」という気分を共有しないことだそうです。そして、「やめられるプラスチック製品をリストアップしてみよう」と提案していました。

という事でやめられること、できることを書いてみました。
①ドトールでは、プラスチックストローやミニマドラーを使わない。
②スーパーバッグを使わない。以前東急ストアでは、マイバック持参すると2ポイント加算されていました。その時から習慣になっています。
③マイボトルを持ち歩く。飲み物代の倹約にもなるので。
④チキンハンバーグの袋はプラごみに分別する。
⑤ゴルフのティーとマーカーは家に持ち帰り、分別する。木や土に還るティーとかもありますが、ボールと相談してプラティーを使っています。
⑥不織布マスクをポイ捨てしない。不織布マスクはプラスチックです。横浜市では可燃ごみに指定されています。
先ずは、こんなところから・・・・・。

プラスチック爆弾はプラスチックではありません。


今回、この様なサイトを見つけました。「プラなし生活 Less Plastic Life」

や・そね

<参考資料>
プレスリリース
「房総半島沖の水深6,000m付近の海底から大量のプラスチックごみを発見―行方不明プラスチックを探しに深海へ―」 国立研究開発法人海洋研究開発機構 2021年3月30日
「魚類は餌生物を通じてマイクロプラスチックを大量に取り込む」北海道大学 2021年1月29日

オンラインイベント
春のオープンキャンパス2021環境の事を考える日「どうする、“ポスト・プラスチック社会”?」 
国立研究開発法人国立環境研究所 2021年4月17日

ウェブサイト
「人体にマイクロプラスチック、初の報告  調べた全員の糞便に存在、日本人からも、学会発表」
ナショナルジオグラフィック ニュース 2018年10月24日


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?