淡水魚密室事件 ~どうしてとなりの川にも、同じ魚がいるのか~
オジさんの科学vol.054 2020年6月号
ウイルスは自力では動けない。新型コロナウイルスも、人間が移動しなければ拡散できない。だから、外出自粛。影響は、いろいろありましたね~。
例えば、4月スタートのドラマはみんな延期になっちゃいました。お陰さまでテレビやTVerにたくさんの旧作ドラマが並びました。オジさんも色々見ちゃいましたよ。
胸キュンの逃げ恥は、再々視聴。見逃していた中にも、面白いものを見つけました。「ハケンの品格」は水戸黄門的爽快感がありました。新作も始まりましたね。そして「鍵のある部屋」。犯人は、入れるはずのない密室※で殺人を起こします。嵐の大野君が主人公で、事件を鮮やかに解決します。
※この場合の密室は、3密とは関係ありません。
犯人はどうやって密室に侵入したのか、が推理ドラマのトリック。生き物がどうやって生息地に侵入するのか、を解き明かすのは科学です。
鳥は、空を飛ぶことにより、絶海の孤島へもたどり着けます。2013年から続く海底火山の噴火によって、生物が死滅したと思われていた小笠原諸島の西之島。もうカツオドリなどが棲み着いているそうです。
陸上動物は、陸地が繋がっている所 にはトコトコ歩いていけます。近くの島ならば、流木に乗って漂着するってこともあり得たはず。でも、遠くの島はなかなか難しい。
我々現生人類だって、誕生したのは20万年前だけど、ニュージーランドにたどり着いたのは13世紀になってからです。
オジさんは、社内を徘徊しているうちに非常階段から出られなくなりました。
海の魚は、どこへでも泳いで行ける。だから、隣の湾に同じ魚がいても特に不思議じゃありません。
一方で、違う水系の川に同じ魚がいるのって不思議じゃない?(この場合、淡水魚を想定してね)
川を下っても、海を渡れません。もちろん普通の魚は歩いたり、飛んだりすることもできません。
洪水で水があふれ、離れた水系同士が繋がった時に移動した、という説があります。それもあるでしょう。でも、それだけじゃ説明がつかない場合もあるでしょ。山奥の谷川や湖はどうするの。本当は未だによくわかっていないそうです。
閉ざされた空間、侵入ルートは無し。まる密室事件のようじゃないですか。
クモや昆虫などを描くイラストレーターの富樫祐介さんは、昨年茨城県の小さな池で、「翅にコイの卵を付けたミズカマキリ」を発見しました。
ミズカマキリは水生昆虫で、普段は水田や池、湖などに生息し、非常に高い飛行能力があります。この発見を発表した神戸大学の末次健司准教授によると、越冬前には最大1,400mもの距離を飛ぶことができるそうです。
この様に卵が他の生き物によって運ばれることを「受動分散」と呼びます。かねてから、「普段水辺で暮らしながらも空を飛び移動できる生き物」による受動分散の可能性が、指摘されていたそうです。
ミズカマキリなどが、淡水魚の遺伝子が移動するトリックのカギなのかもしれません。
さて次の密室は、さらに難問だよ。
琉球列島の奄美大島や沖縄島、石垣島などの川には「キバラヨシノボリ」と言うハゼ科の淡水魚がいます。島々は何十、何百kmも離れており、かつて陸続きになった事もありません。そして、キバラヨシノボリは、海中を泳いで移動することができません。
この謎を、京都大学と総合地球環境学研究所、九州大学、兵庫県立川西緑台高校、琉球大学などの研究チームが解き明かしました。
琉球列島の近海にはキバラヨシノボリの近縁種の「クロヨシノボリ」がいます。クロヨシノボリは川で生まれ、海で成長する回遊魚です。キバラヨシノボリとクロヨシノボリは交配しません。研究チームは、この二つの種の遺伝子分析を行い類縁関係と進化のパターンを調べました。
その結果、それぞれの島のキバラヨシノボリは、別々にクロヨシノボリから進化したことが判りました。クロヨシノボリは、計5回もキバラヨシノボリに進化したのです。
類似した形態や生態を持った新たな種が、同じ祖先から何度も進化する現象を「平行種分化」あるいは「平行進化」と呼びます。
また、この進化は大きな島で起こったことが判りました。大きい島の大きな河川では、長い距離を移動して海に行かずに、一生川で過ごす選択肢もあったということです。
別々に進化した各キバラヨシノボリは、同種なのか別種なのか。研究チームは、今後の課題として残されると言っています。
T君もN君も同じようにパリッパリの新入社員で入社してきました。T君は東京本社で、N君は大阪支社勤務でした。30年経った今、二人ともオジサン化しています。これも平行進化なのでしょうか。
かつて、我々現生人類も平行進化したのではないか、と言う説がありました。ヨーロッパではネアンデルタール人から進化したとか、アジアは北京原人からとか、といった具合です。しかし今では、アフリカで誕生して全世界に広まったことがはっきりしています。
そして人類は、一緒にウイルスや病原菌も世界中に拡散させました。アフリカを出てから5万年以上もの間、ピロリ菌を連れ回していることが判っています。
2020.06.20 や・そね
<参考資料>
プレスリリース
『大きな島で種分化が起きやすいことを解明―「キバラヨシノボリ」は琉球列島で5回誕生した―』京都大学、総合地球環境学研究所、九州大学、兵庫県立立川西緑台高等学校、琉球大学 2020年5月13日
雑誌
Newton 2020年7月号
WEB
末次健司氏ツイッター
書籍
別冊日経サイエンス『化石とゲノムで探る人類の起源と拡散』 日経サイエンス社
朝日選書『人類大移動』印東道子 朝日新聞出版
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