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ネコは知っている

オジさんの科学vol.077 2022年5月号

 最近、ウチの小鈴(通称すず)が、よくしゃべる。18歳、メスの錆猫です。目が合うと、ひと声挨拶する。頼み事があると、声をかけてくる。こちらの都合などお構いなしに。
 もちろん仕事中も関係ない。「リビングからベランダに出たいから、サッシを開けてよ」と迎えに来る。仕事部屋は、リビングと廊下を挟んでベランダへの出口とは反対側。目的地と逆方向にいるボクの位置をちゃんと理解している。

 昨年の11月に、京都大学などの研究チームが行った発表によると、ネコは「飼い主がどこにいるかを想像している」そうだ。
 一般家庭の飼い猫が23匹、ネコカフェ猫が27匹、計50匹のネコが参加した実験が行われた。ネコを、自分が住む家やネコカフェの部屋で、一匹だけにする。その部屋のドアの外には「スピーカー1」を、部屋のもう一方のドアや窓の近くなどに「スピーカー2」を設置しておく。スピーカー2は、スピーカー1から最低でも4m以上離した。

 ネコが落ち着いたところで、飼い主(ネコカフェの場合は、いつものお世話係)がネコの名前を呼ぶ声を、スピーカー1から5回流す。次にスピーカー2から同じ声を流す。もしネコが、スピーカー1からの声で「飼い主は部屋のドアの外にいる」と想像したなら、スピーカー2から声が流れた時に「飼い主が瞬間移動した」と驚くはず。
 振り返りの動作などを評価し、ネコが「驚いた」、と判った。スピーカー2から飼い主とは別の人の声を流す実験では、ネコは反応しなかった。

 小鈴は、カミさんとボクがどこにいるか把握している。要求内容に応じて、どちらに声がけに行くべきか、を使い分けているようだ。一方で、こちらが呼んでも来ることはない。
 この京大チームの実験では、飼い主がネコの名前を呼ぶ声を流した。そもそもネコは、自分の名前を理解しているのだろうか。2019年に発表された上智大学などのチームの研究がある。

 複数の実験に16~34匹のネコが参加した。一般家庭の飼い猫、ネコカフェ猫、単独飼育、多頭飼育と様々だった。こちらの各実験も、それぞれが住む家やネコカフェなどで行われた。
 まず、ネコが自分の名前と一般名詞の区別できるか、を調べた。隠れた場所から飼い主は、ネコの名前と同じリズム、同じアクセントを持つ4つの一般名詞を発声する。名前を呼ぶように親しみを込めて、同じイントネーションで。そして最後に、ネコの名前やニックネームなどをいつもの様に呼びかける。

 この時の、ネコの耳の動き、頭の動き、発声、尾の動き、移動を観察し、数値化して分析した。
 ネコは、4つの単語が発せられる度に馴れていき、次第に反応が小さくなる。最後に名前を呼んだ時に、一転して動きが大きくなれば他の名詞と区別がついているということ。そのまま小さくなれば、区別がついていないことになる。

 さらに、5匹以上で暮らしているネコを対象に、4つの一般名詞の代わりに他の同居するネコの名前を呼んで調べた。
また、飼い主以外の声でネコが名前と一般名詞を区別できるかも調べた。

 飼い猫は、一般名詞も他のネコの名前も自分の名前と区別している、という結果になった。飼い主以外の声でも反応した。飼い猫は、自分の名前を知っているのだ。

 一方でネコカフェ猫は、他のネコの名前との区別がついていなかった。ネコカフェの客は、ある猫の名前を呼んだ後で、近寄ってきた別のネコを撫でたりもする。ネコカフェ猫は、自分の名前も他のネコの名前も聞き慣れた言葉として漠然と覚えているのかもしれない。

 では、逆にネコは、飼い主の名前を理解しているのだろうか。今年4月に京都大学のチームが研究成果を発表した。

 実験には2人以上の飼い主家族と同居する26匹の飼い猫が参加し、「期待違反法」が使われた。これは、赤ちゃんや動物の研究で、しばしば用いられる手法。言葉をしゃべれない彼らでも、心の内が行動に現れる時がある。自分が想像していること(期待していること)と違ったことが起こると、「アレッ?」っと思い、長く見つめてしまうのだ。これを利用する。

 ネコに同居する飼い主の名前を聞かせた後に、モニターに飼い主、あるいは他の人の顔写真を映す。もし、名前と別の人の写真を映した時にのみ、ネコが画面を注視したとする。ネコは飼い主の名前を聞いた時に、飼い主を想像していたことが判る。

 同居する家族が多いネコや同居年数が長いネコほど、別の人の顔が出てきた時に、長くモニターを見つめた。「大家族の一家と長く暮らしたネコは、飼い主家族の名前を覚える」と考えられる。家族同士が呼び合う名前を繰り返し聞いた結果、と推測される。
 この研究では、同じような実験を行い、同居するネコの名前も覚えているという結果が出た。
小鈴の同居年数は、実験に参加したどのネコよりも長い。しかし残念ながら、我が家はカミさんと2人暮らしだ
 
 小鈴は、人間に換算すると90歳前後になる。しかし、ボケるどころか、増々賢くなっているような気がする。人間に近づいているみたいだ。挨拶だけではない、最近は「ゴハン」としゃべる。ネコは、歳を取ると猫又という妖怪に変化するという。調べてみると22歳と2か月2日らしい。小鈴は、捨て猫なので正確な誕生日は分からないが、2025年10月頃には、猫又になると思われる。何をどこまで知っているのか、直接聞いてみたい。楽しみです。

や・そね

<参考資料>
詳しく知りたい方は・・・・
「ネコは自分の名前を聞き分ける」 2019年4月5日 上智大学
https://www.sophia.ac.jp/jpn/news/PR/press0405.html

「予期せぬ場所から聞こえる飼い主の声にびっくり -ネコは耳で飼い主の位置を捉えている-」
2020年11月22日 京都大学
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-11-22

「猫は日常生活の中で友達の猫の名前を学びます」 2022年4月25日 京都大学
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-04-25-0

更に詳しく知りたい方は・・・・
A Saito, K Shinozuka, Y Ito& T Hasegawa(2019) “Domestic cats (Felis catus) discriminate their names from other words” Scientific reports
https://www.nature.com/articles/s41598-019-40616-4?from=article_link

S Takagi, H Chijiiwa, M Arahori, A Saito, K Fujita… (2021)“Socio-spatial cognition in cats: Mentally mapping owner's location from voice” PloS one
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0257611

S Takagi, A Saito, M Arahori, H Chijiiwa, H Koyasu… (2022) “Cats learn the names of their friend cats in their daily lives” Scientific reports
https://www.nature.com/articles/s41598-022-10261-5

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