見出し画像

クイーン・シャーロット島を引き裂いたオヒョウ

 昔、クイーン・シャーロット島には一つしか村がなかった。人々は毎日そこから漕ぎ出してオヒョウを獲っていたが、上手くいかない男が一人だけいた。周りのカヌーでは皆が魚を揚げているのに、来る日も来る日も自分は何も捕まえられず、男はしまいに怒りだすのだった。

 けれどもある穏やかな日のこと、男の針に当りが来た。糸を引いてみると、とても力の強い何かがかかっているのがわかった。少し引き込むとまた相手は糸を引っ張り返すので、その度に男は、逃げられてしまうことを恐れて手元を緩めた。ところがそうした末にやっとカヌーに引き揚げてみると、かかっていたのはヒラメくらいの小さなオヒョウであった。彼は他に何一つ捕まえられなかった。

 夕方、オヒョウを岸に持ち帰った男は、家の中に入るとこう言った。
「ずいぶん小せえオヒョウが獲れた。もしかすると幸運を呼び込んでくれるかも知れねえ」
 彼の妻はナイフを手に獲物のところへ向かったが、ひどくちっぽけな魚を目のあたりにすると、尾びれを掴んで浜に放り投げてしまった。するとまだ生きていたオヒョウは上下に跳ね始め、その動きはどんどん速くなっていった。ほどなくして男の妻の目の前には、さっきよりも大きなオヒョウが横たわっていた。

 村じゅうの人々が騒ぎを見つめる中、オヒョウはさらに飛び跳ね続け、やがてカヌーの櫂ほどの大きさになった。次第にそれは屋根に使うレッドシダーの大きな樹皮ほどになり、ついには浜辺をすっかり覆いつくしてしまった。晩にかけてオヒョウは紛れもない怪物と化し、その猛威は村の全てを打ち砕いた。

 一つの大きな陸の塊だったクイーン・シャーロット島は、このオヒョウに引き裂かれて今あるような群島になった。たった一つしかなかった村の人々も、この時それらの島に散り散りになったのだ。

*アメリカの人類学者John Reed Swanton(1873-1958年)によって記録された北米北西部太平洋岸地域の先住民クリンギット族の神話Tlingit Myths and Texts(1909年)から、"The Halibut that Divided the Queen Charlotte Islands"(180-181頁)を翻訳・ご紹介しました。話者はランゲルのKasqaguedi一族の長Katishanの母にあたる方、とあります。この頁の最初のオヒョウの画像は、クイーン・シャーロット諸島(今はハイダ・グワイと呼ばれています)の東、北米大陸の本土側に暮らしてきたツィムシアン族のブランケットです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?