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街に記憶を残してゆく。小杉湯のランドリーミューラルアートが目指すこと。

読書の秋、食欲の秋、芸術の秋、、、みなさんどんな秋をお過ごしでしょうか。今日は、小杉湯の右となりに隣接するランドリーで生まれたアートのお話をしたいと思います。

今年、小杉湯や地域の方々に今でも愛用されているこのランドリーの壁一面に色とりどりの大きな壁画が生まれました。

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(株)小杉湯と(株)銭湯ぐらし、高円寺のミューラルアートプロジェクトの3者を主体として実現したこのプロジェクト。ランドリーに描かれた壁画は、小杉湯や小杉湯となり、そして高円寺の街が将来どんなイメージの場所であったらいいかを話し合い、出てきたキーワードをもとに高円寺在住のアーティストである小田佑二(以下、小田さん)がランドリー全体に下絵を描き、小杉湯のお客さんや子供たち、地域の方々が一緒にハケを振るって色をつけていきました。

完成した壁画のタイトルは、「Watage」。
描かれた数々のモチーフのイメージについて小田さんから話を聞きました。

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「最初にみんなで高円寺の街を歩いてみて、今の小杉湯、小杉湯となり、高円寺の印象とそれがこの先の未来でどう変わって行きたいかを一人一人ヒアリングして、そこからでたキーワードや想いをアートとして表現しました。

高円寺という町は、いろんな人や文化が存在することを許容できる場所。その代表格が小杉湯であり、銭湯ぐらしの運営する小杉湯となりも含めて、この町で芽吹いたタネがこれから花を咲かせようとしている気がします。高円寺や小杉湯・小杉湯となりに飛んできたいろんな綿毛が、未来に向けて飛び交って、花を咲かせているようなイメージで制作しました。」

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「壁画に描かれているハンモックは、高円寺の多様性を許容するセーフティネットをイメージしています。また、小杉湯の高い窓から差し込む光や、商店街の昔ながらのひさしなど、実際に高円寺の街を歩いて見つけた高円寺らしさも、モチーフとして取り入れてみました」

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この場所の未来のイメージを地域の人と一緒に残したいという思いから、壁画への色ぬりは、小杉湯となりの会員の方々や小杉湯を愛する地域の方々にも手伝ってもらい、結果的に小杉湯や高円寺に関わるたくさんの人の手で完成した小杉湯のミューラルアート。

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今回はこのプロジェクトが生まれたストーリーをご紹介します。

はじまりは、銭湯ぐらしのアーティストイン銭湯

2017年、小杉湯とランドリーのとなりに立っていた一軒の古い風呂なしアパートで、いろんなスキルを持った小杉湯のファンが、銭湯のとなりに暮らしながら銭湯のおもしろい活用方法を考える、「銭湯ぐらしプロジェクト」という取り組みから全ては始まりました。

小杉湯フェスや民泊など、銭湯ぐらしの活動を通して様々なプロジェクトが生まれる中で、毎月1人のアーティストがアパートに暮らし、日々銭湯に入って感じたことをプロジェクトとしてアートで残す、「アーティストイン銭湯」という取り組みがありました。

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「銭湯ぐらし」のプロジェクトは「銭湯のあるくらし」を体験するもので、実際にメンバーが暮らしていたため一般公開している部屋はありませんでしたが、「アーティストイン銭湯」プロジェクトが行われていた部屋は”アーティストの制作スペース”でもあったので、普段からいつも半分扉が開いている状態。

昔の家の土間のような、プライベートと公共の間の場所があることで、アートという観点・視点を通して銭湯ぐらしのメンバー、プロジェクトに参加してくれたアーティスト、訪れた人とのチャンネルが自然に増える結果となり、銭湯ぐらしの活動自体の自由度が広がった施策となりました。

今回ミューラルアートを描いた小田さんも、アーティストイン銭湯のプロジェクトに参加した一人。当時、アパートの壁一面にアートを描いていただいたことから今回のランドリーのプロジェクトをお願いすることになりました。この時は、1年後に解体することが決まっているアパートでしたが、小田さんの描いた銭湯絵のような明るくて大きなアートが徐々に出来上がっていく様子や、小杉湯の子供達が一緒に色を塗っていた景色が、アパートの形がなくなった今も、そこに暮らしていた私たちの記憶に鮮明に残っています。

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時代の流れによって次第に変わってゆく町の中で、形ではなく記憶を残してゆくこと。地域に根付くミューラルアートはそんな力があるのではないかと思います。
今回のランドリーについても、今後建物がどう残っていくのか未来はわからないけれど、毎日目に入る風景をみんなで作りたい、という思いからプロジェクトがスタートしました。

アーティストイン銭湯を企画し、現在は高円寺を中心にKoenji MuralCity Project(高円寺ミューラルシティプロジェクト)を仕掛けている大黒健嗣は、「ミューラルアートは、インナーでのビジョン・仲間意識を高めることにも機能している。コミュニティを作るプロジェクトとして可能性があるのではないかと思う」と語ります。

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「アーティストイン銭湯は、『小杉湯という場所や、銭湯のあるくらしに関わるアーティストの数を増やしたい』『プロジェクトに対する当事者意識を持っている人を増やしたい』という想いと、アーティストにとっては制作スペースが都会の中だと持ちにくいという課題がマッチするかなと思って始めました。ギャラリーや美術館で完成されたものを見るだけではなく、すぐ隣で制作感情がある、ワーキングプログレスの環境があることが、関わる人たちの制作意欲を一番刺激するのではないかと思います。」

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「今回のランドリーを活用した壁画もそう。書いている最中のエネルギーの方が、きれいに完成したものよりもよほど響く。そういう意味では、高円寺の街や小杉湯を利用する人と一緒に作る外向けの企画でもあるし、小杉湯や小杉湯となりに関わるインナーに向けてのモチベーションアップを狙うものでもありました。誰かにとっての日常は、誰かにとっての非日常で、それが交わることが新しい価値観を生む。そんなきっかけをアートを通して作れたらと思っています。」

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アートシンキングで描く高円寺の未来

今回ミューラルプロジェクトを進めるにあたり取り入れたのが、「アートシンキング」という考え方でした。聴き慣れないかもしれませんが、「アートシンキング」とは個人的な視点や思いに突き動かされたものをできるだけ取り入れ、実験的に実現していこうという思考方法です。

 近年、通常のワークショップなどで使われる「デザインシンキング」は、課題の前提条件をブレストして机に広げて解決方法を考える方法で、ビジネスの定番とされてきた「ロジカルシンキング」に対して大きなイノベーションを起こしました。ただ今回は、街のあり方を何かひとつのコンセプトや表現にまとめることを目的とするのではなく、関わる個々人が思うこの街の良さを無作為に集めたらどんなものが見えてくるのかを試してみる、アートの思考に似せたイノベーションが生まれることを期待していました。

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そのため、今回は卓上のブレストではなく、個々人が街をバラバラに散歩して改めて街を眺めたうえで、アーティストである小田さんにプロジェクトメンバーが1対1でそれぞれのイメージする高円寺や小杉湯の未来を話し、それを小田さんがビジュアル化するという制作方法にトライしました。
ミューラルアートを作るみんなが当事者になった、みんなの思いが乗っかったものにしていく。それによって帰属意識が強化されたり、今の現状だけではなく今後のあり方を想像するような作品が生まれるのではないかと考えたのです。

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「アートシンキングの制作方法に挑戦してみて、みんなの話を聞いて共感することも気づくこともたくさんありました。その気づいたことをイメージとしてメンバーに共有して、街全体がどう変わっていくのかという話し合いができたことがとても面白かった。”集まってきた人たちで、面白いことができる場所であること=綿毛が花を咲かせる”というコンセプトにたどり着いたのも、アートシンキングの結果だと思います。」

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「また、みんなの話を聞いた後で実際に自分も高円寺の街を歩いたことで、自分がなんでこの街に愛着を持っているかを再確認できました。ガラスの修繕をテープで済ませてる、店舗のひさしは日に焼け破れてたりもする、軒先の観葉植物が倒れちゃってる、みたいなちょっとしたユルさが心地よく、そんな価値観をもった住民やお店がこの街を彩ってるんだと思いました。小杉湯や小杉湯となりは街の重要な彩りの1つだと思っていて、多くの人に愛される場所で居続けて欲しいです。」

おもしろそう!の種をたいせつに

ランドリーにアートを描こう。
小杉湯、ひいては高円寺の未来のイメージを、
その場所に関わる地域の人たちと一緒にアートとして具現化してみよう。

私たちが小杉湯ランドリーのミューラルアートプロジェクトを始めたのは、小杉湯と小杉湯となりのちょうど真ん中に位置するランドリーの壁面にイメージする未来を描くことによって、この場所の風景がどんな風に変わるのか、想像したらワクワクしたからでした。

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日々のくらしの中で「おもしろそう!」の種は、きっとたくさん転がっています。

でもその多くは、忙しい日々の中でいつの間にか埋もれてしまったり、いろんな現実的な理由で諦めてしまったりすることが多いのではないでしょうか。特にコロナ禍が続いた昨今は、いつもとは違う日々に戸惑ったりやりたいことができなかったり、ワクワクすることを見失ってしまうような気持ちになることもあるのではないかと思います。

大切なのは、「おもしろそうと感じたことを、試しにやってみる」こと。明確なゴールまで見えていなくてもまずは動いてみること。

そして、それをどんな形でもいいから形に残しておくと、自然とその小さな一歩に人が集まり、いつの間にか未来につながってゆくものになるのだと思います。

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「この絵が完成した時に、ここ塗ったんだ!って思えるのいいな」
と言いながら娘さんと一緒にハケを振るうお母さん。
「小杉湯となりから見える景色がすごい変わりましたね」
と嬉しそうに参加してくれた常連さん。

この先、ランドリー自体がいつまでこの街に残り続けるかはわかりませんが、この街に暮らす人々の手によって描かれたこのミューラルアートは、その思い出や願いと共に、これから先10年度・20年後の未来に記憶をつないでゆくメディアとして生きていくのではないかと思います。

記事作成 : 宮 早希枝

小杉湯×Koenji MuralCity Project(kmcp no.9)動画 はこちら

小杉湯 × Koenji MuralCity Project (KMCP no.9)

-ARTIST
Yuji Oda 小田佑二

-DIRECTORS
Kenji Daikoku
Sakie Miya
Moe Shono

-SPECIAL THANKS
Miyu Hurumoto
Natsumi Tsushima
PACHA
Mizuki Tomita
Kenta Kawahara
Shiho Miura
Hiroko Tsutsui

小杉湯スタッフ
小杉湯となり会員

-MOVIE
Aranami

-MUSIC
「Song for 小杉湯」
Vegetable Record, Aoi Nogi

-PARTNER
Nuries.inc

-PRODUCED by
株式会社 小杉湯
株式会社 銭湯ぐらし
BnA collective

and

Koenji MuralCity Project

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