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番台、番頭。小杉湯の看板娘“みずき”こと 冨田瑞季 / わたしの湯 vol.9


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美帆ちゃん、久しぶり〜!
―みずき、いや〜話したいことめちゃくちゃあるよ。

みずきちゃんも美帆さんも、会った瞬間、お互い話したいことが溢れそうだった。ふたりの和気あいあいとしたやり取りを眺めていると、「これから始まるインタビュー、絶対最高になるじゃん!」とニンマリしてしまった。
水・金曜日の夜の番台に、3年間変わらず座っているみずきちゃん。「小杉湯の顔、看板娘」といっても過言ではない。小杉湯は番頭・番台以外にも、その人の興味があることや得意なことがあれば、イベントやコラボ風呂などに企画段階から関わらせてもらえる環境。彼女もいくつかの企画を運営するひとりだ。
私の勝手なみずきちゃんのイメージは、お洒落で飄々とした“いまどきの若者”って感じ。でも、彼女の活動を目の当たりにするたびに、そのパワフルさと熱量に驚かされる。彼女がうちに秘める想い、銭湯や小杉湯への愛はおそらく誰よりも深く、熱く、そしてまっすぐだ。それでいて人懐っこくて、可愛い。この魅力、ハマったら抜け出せなさそう。

インタビュアー 美帆さん/ライティング くみこまる/企画•編集 つっつー/編集 江口彩乃/写真 Gota Shinohara

小杉湯とみずき 佑介さんからのメッセ―ジで運命が動き出す

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―みずきは、最初はお客さんとして番台に来たんですよ。小杉湯には、遊びにというか、お風呂に入りに来たんだよね。でもいっぱいある銭湯の中で、なんで小杉湯に入りに来たの?
高校生のとき、ある銭湯がきっかけで銭湯にハマって、受験が終わって大学生になって色んな銭湯を回り始めた頃に、銭湯好きの人に「高円寺に小杉湯という銭湯があって、面白そうだからよかったら行ってみたら?」って言われて来たのが初めて。その時来たら、美帆ちゃんが肉じゃがか何かを食べながら番台をやってた(笑)

―いや、そうなんよ(笑)今みたいに人手が多くなかったから、番台をやり、タオルも洗い、ご飯食べる時間もないから、番台で食べるしかなかったんだけど。そこにみずきが来てくれて「ちょっと待っててよ!」みたいな感じにね(笑)そこから遊びに来てくれるようになって、働き始めたのは、どのタイミングだっけ?
その頃、私は何軒かの銭湯で番台や深夜清掃のバイトをしていて、小杉湯の深夜清掃のバイト募集を見つけて面白そうだなと思ったけど、「他のところで働いているから小杉湯ではバイト出来ないけど、いいな~」みたいなことをTwitterで引用RTしたら、佑介さんから「面白いね、銭湯好きなの?」ってDMがきた。私は当時大学1年生で、同じ年代で銭湯好きでTwitterやってる人があんまりいなかったのもあって「色々聞いてみたいから、今度話してみよう」って。

―うわ~、もう変なおじさんだ!
いや、そう。今思うと「小杉湯の店主」っていうのがなかったらまじで変な人だよ(笑)でも小杉湯は色々やってたから、「わあすごい、小杉湯にそんなこと言ってもらえた!」って嬉しかった。営業前の小杉湯に来て、佑介さんと「なんで銭湯が好きになったの?」みたいな話をしているうちに、「いま小杉湯には“番頭”という役職は無いんだけど、実はこれから営業中の番頭を増やそうとしていて、よかったら働かない?」って言われて。「話が早いな~!」って驚いたけど、「働きたいです!」って言ったら、「じゃあこれ、いま仮で組んでるシフトなんだけど」ってシフトを見せられて。「え!?これはもう仕組まれた会だったんだ!」ってなった(笑)そこから、週に2、3回くらいみずきがシフトに入る時間ができた。

―怖いな(笑) でもじわじわと当時のことを思い出してきたわ。そこからいま3年目くらいか。みずきとはもう7年くらい一緒に居るような感覚だけど、一緒に過ごしてる時間の密度が濃いってことですね。

自分も元気が貰える場所「番台」

みずき①

―小杉湯で働いていると、色んな人が出入りしてるから出会いも多いし、楽しいことも難しいこともあると思うけど、まずはいちばん楽しいことを教えてほしいな。みずきは分かりやすいけどね。
いちばん楽しいのは、番台。

―昔から言ってるよね。みずきは最初から番台が大好き、それは変わらないね。
うん、それは本当に変わらない。ずっと番台が好きだし、お客さんのことが大好き。番台は、人の生活にちょっとだけ関わっている感覚があるんだよね。あそこに座ってたら、知ってる顔が来てくれて、それが常連さんだったら“入浴・お風呂に入る行為”って毎日のことじゃない?番台に自分がいて、そこで会話をしたり「おやすみなさい」って言葉を交わすのがめっちゃ好きだし、それをすることで、日々の誰かの生活と自分の生活の一部分が重なり合う瞬間がある気がして嬉しい。初めて来た人も、番台で色々説明してお風呂に入ってくれて、最後にホカッとした顔・来た時よりも柔らかい顔で「気持ちよかった、来てみて良かった」って言って貰えると、その人はここに来るのが日常じゃないかもしれないけど、ちょっとでも幸せになってくれた感じがして嬉しい。3年間ずっとシフトが変わらないから、番台に座ってたら会える顔が増えていくのが超幸せ。

―3年間、同じ時間だから、常連さんも、新しいお客さんも、新しく常連さんになった人もいるんだね。3年も同じ時間に番台に座るって凄いね。
でも、“顔しか知らなくて、名前は知らない”のが面白いし、ちょうどいい。そのくらいの曖昧な距離感でお互いを認識し合ってるのが楽しい。自分が休んだ時に「最近いなかったじゃん」とか「髪色変わったね」みたいなのを言ってもらえると、その人を通して「あ、自分って存在してるんだな」って認識するし、誰かに見守っててもらえるのが心地いいなと思う。

―みずきはラッキーだね。働いているけど、みずきも番台に座ることでパワーをもらってる。もうパワースポットじゃん。
いや、本当に。番台で元気をたくさんもらってるよ。

―なんか分かるなあ。お仕事してるんだけど、いつもパワ―をもらってる感じ。逆に、今まで銭湯が好きで通ってたけど、裏側のことも知って、これはちょっと大変だなってことはある?
あ~でも、無いかも。忘れちゃうのかな。もちろん大変なこともあるけど、それをかき消してしまうくらい楽しいんだよね。仕事もお喋りしながらみんなでやるから楽しい。大変なことというよりは、コロナ禍になってお風呂に入りながらお喋りが出来なくなったことが悲しいかな。番台で会った人とお風呂でお喋りしてもっと仲良くなったり、「頭痛いんですよ」って言ったらマッサージしてくれたり…そんな触れ合いが減った。お風呂でのお喋りやコミュニケーションを毎日の楽しみのひとつとして来てくれていたお客さんもいたと思うから、それが出来なくなったのが悲しい。番台で取り戻したい日常は、番台のパネルをどけてお客さんと喋ること。それがまだ出来なくてもやもやしてるから、それ以外でお客さんともうちょっとコミュニケーションが取りたいな。

好き、の気持ちで湯を、場を沸かす

みずき②

―みずきはLEBECCA boutiqueや、台湾とのコラボ風呂や、学生チームBUKUBUKU※の活動をやってるよね。楽しいこととか、やりがいは何かな?
小杉湯の企画は、「今日は高円寺や全国のどこかのお店とのコラボ風呂をやっていて、軒下でいつもと違う飲み物が飲める」っていうのが楽しいところのひとつだと思う。それが自分の興味あることや好きなことに関することだったら、めっちゃやりたいって思う。
番台の延長で今度やろうと思ってる企画が、軒下で椅子とかを置いてゆるいお喋りをする場を設けたい。「最近の小杉湯どう思う?なんかモヤモヤしたことありますか?こうしてほしいとかありますか?」みたいな意見を聞く会とか、「元気ですか?」って聞ける場。コロナ前だったらお風呂の中でお客さんに「こういうのどう思う?」って聞けていたことが、今は聞けないから。

※BUKUBUKU…小杉湯のコラボ風呂でお世話になる農家さんやお店の人への現地視察や、軒先での飲食販売、イベントの企画運営など幅広く活動している学生のチーム。

―井戸端会議みたいなね!今まで普通に出来ていたことが出来なくなったときに、初めて「ありがたいな」って思ったり、それが出来なくなったことで、「どんな企画をしたらお客さんが喜ぶかな」「高円寺の街の人も繋げられるかな」って思いもあって、いま企画を頑張ってるんだね。
みずきってパワーがあって、好きなことにはまっすぐ「行くぞ!」って突き進むじゃん。だけど、一緒に活動する人やコラボ相手にも、丁寧なコミュニケーションや連絡、フォローを欠かさない。もちろんみずきがそのお店や商品のことが好きだからだとも思うんだけど、そういう熱量はどこから来てるんだろう?
純粋に小杉湯のお客さんがめっちゃ好きだし、小杉湯も好きだから、例えば自分のシフトの21時~24時で会うお客さんのために「どうしたらいいかな、どうしたら心地よく使ってくれるかな、どうしたらちょっと幸せになってくれるかな」とかを考える。それは企画(やらなきゃいけないこと)だから頑張れるとかじゃなくて、純粋に好きなこと、好きな人のためにすることだからかな。人が好きだし、喜んでほしいと思うから、せっかく関われるならそこは気をつけたい。

―いやあ、愛が溢れすぎて、480円以上やな。みずきがそう思って番台をやってくれてるんだなっていうのは、とても伝わるから、私は嬉しいなあと思うよ。

救われた場所、心地よい場所を残したい

みずき③

―ワクチンも普及して、コロナ感染者数も落ち着いてきて、徐々に日常も戻ってきた感じもするじゃない。その時に、もっと銭湯はこうあってほしいなとか、みずきがやりたいこと、自分がこんな風に生活出来たら嬉しいなみたいなのがあったら、おしえてほしいな。
自分が高校の大学受験期に、もやもやしてるのが癒されたり、自分をリセットできたりっていうので銭湯に救われたから、自分が救われた「銭湯」というものをもっと同世代に広めたいし、自分がおばあちゃんになった時や、それよりも長くもっと色んな人のために残したいっていう思いで働いてる。BUKUBUKUの皆で話しているのは、「誰も置いていかない」。小杉湯はおばあちゃんも赤ちゃんも全世代来てるところがすごく良いところだと思うから、みんながちゃんと来やすくて心地いい銭湯として、ちょっとでも自分に出来ることをしたいなって思う。

―私もそうだけど、番台に座ってお年寄りになってもほんわかした感じでいたいなとか、別の銭湯を手伝いつつ、小杉湯とも関わっていきたいとか、将来自分はこうありたいな、とかはある?
番台にはできる限り座っていたいし、小杉湯にはずっと関わっていたい。1人にもなれるし、でも1人じゃないところが小杉湯の好きなところで、銭湯の好きなところ。自分は“コミュニティ”っていうものは嫌いで、人との関わりとかめんどくさい。番台くらいの、いい意味で「うすっぺらい関係」がめっちゃ好きだから、そういう場について学びたいし、そういう場を持つか作るかは分かんないけど、そういう場が心地いいなって思ってる。

―すごくよく分かるよ。ほそーく、ながーく。ほどよい距離でね。
うん、そう、それがいい。

みずき④

”お客さんのことがめっちゃ好き、本当に大好き”ということは絶対伝えてほしい!(笑)お客さんと高円寺の街ですれ違ったり、飲み屋とかで会うと嬉しい。

―わかるよ。みずきが小杉湯とお客さんのことが大好きなのは、よくよく伝わってきた。最後に、みずきにとって小杉湯はなんですか?
えーめっちゃむず、アナザースカイみたい(笑) なんだろうな。小杉湯はもうひとつの家で、関わる人はもうひとつの家族とか親戚かも。

―いいですね。名言でました!その感覚、分かります。他の人から見れば家族じゃないって言われても仕方ないんだけど、全員家族だね。お友達ではないよね。
うん、違うね。働いてる人は家族。お客さんは親戚かも。親戚のおばあちゃんがいっぱいいる感じ。

―私も最近小杉湯から離れた時に、さらにこの場所のことが好きになったなって思う。みずきも1ヶ月くらい離れて外から小杉湯を見てみると、小杉湯のことも、お客さんのことも、もっともっと大好きになると思う。
そうだね。きっと1ヶ月も離れたらソワソワしちゃうね。

―でもそう考えるとありがたみもよく分かるから、そういう人たちに毎日来てもらえるように、これからも一緒に頑張っていこうね。
はい! 一緒に!

わたしの湯 よく眠れる魔法のおまじない

みずき⑤

金曜の夜、私はいつもみずきちゃんに番台を引き継ぐ。初めて彼女の「おやすみなさ〜い」という優しい声を聞いたときに、なんて魅力的なんだろうと思った。ちょうどよくゆる〜い言い方や、包み込んでくれるような柔らかい声色で、魔法の言葉やおまじないにも思える。お客さんのことが純粋に大好きだから、自然と愛しさみたいなのが溢れて、気持ちが言葉にのるんだろうな。
自分が言うとまた違うんだよなあ…と思いつつも、私も彼女を見習って、誰かの1日の終わりに寄り添えたら良いな、と思いながら「おやすみなさい」と言ってみる。 くみこまる

今回の登場人物 小杉湯のひとたち

登場人物

Photo gallery by Gota Shinohara

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