中川多理展「白堊――廃廟苑於」②(はいびょうえんにおいて)
オールビスク・少女
今回新作として、初の全身オールビスクの少女を発表しました。
これまで胴体までのオブジェ・ドールや、肥大した下半身と乾涸びた半身の「薔薇色の脚」は制作していましたが、手足先まで揃ったオールビスクの子は初めてでした。
「全身作るのは大変だろうなあ」というのは想像してはいましたが、いや…本当に大変でした。ビスクオンリーの作家さんよく心折れずにやっているなあ、と。あまり苦労ばかりを言うのもどうかと思いますが、粘土からビスクへの素材移行時に感じた事を、せっかくなので書き留めておこうと思います。
とにかく完品のパーツを全身分揃えるのが大変で、途中で発覚する窯傷、焼き歪み、彩色のムラ…大作を作る粘土人形作家あるあるなのですが、長年培われた腕力と握力により脆いグリーンウェア・ソフトウェア(本焼成前のパーツ)を握りつぶすなどなど… 型ものは「ぽこぽこ簡単に増やせるんでしょう?」と言われがちですが、全くそんな事はないですね…
また、今回眠り眼と開き眼の2体の少女を制作したのですが、お互いの肌の違いを出したくて、それぞれ土と絵具を変えて制作するという面倒な課題を自分に課してしまいました。焼成温度がそれぞれ異なるので、一度に焼く事が出来ず、また、余ったパーツをお互いで使い回す事もできず、余計に完成までの難易度を上げてしまいました。
でも結果、眠り眼の子は生っぽい肌に翳りのある陰影、開き眼の子は一般にビスク肌と言われる美しい肌色、とイメージに合わせた肌で仕上げることができました。暗めの会場だとあまりわからないかもしれませんが、ぜひ見比べて頂けると嬉しいです。
大変さで言うと、ビスクも粘土もどちらも大変です。苦労の質が全く異なるという感じ。粘土は油彩仕上げの場合、締切までに2〜3週間は乾燥期間を取るため早く仕上げなければならない。でもその間乾くのを待っているだけなので、完璧な状態を眺めながら待っていれば良いのです。ビスクは、何だったらギリギリ締切前日まで焼成をくり返していても良い。でも、窯を開けるまでどうなっているかわからないので(襲いくる突然の窯傷や黒点、変色などのボツ)心臓に悪いです。
まあ、どちらも余裕を持って完成させれば解決する事なのですが…なかなかそう理想通りにはいかないですね。
「コトリ#3」
すこやかな眠り眼の少女になりました。
第一歌集『人形歌集 羽あるいは骨』で〈コトリ#1〉にあてて川野さんが詠んでくれた歌が好きで、良いなあと。それを受けて制作しました。
これまでに制作した鳥の少女たちが受肉して、完全な少女体を得たイメージで制作しました。伸びやかな肢体に、滑らかな肌をしています。いわゆるお人形体型よりは人っぽいバランスを意識しました。
シャリ感のあるコットンオーガンジーのドレスを制作しました。ビスクドールは、即割れる…という事はないのですが、足と足がぶつかるとお茶碗みたいにカチャカチャ言うのでちょっとどきどきします。ビスクのアンティークドールの成り立ちが大元はファッションドールだったので「衣装を着込んでいる作品が多いのかな?」という印象でしたが、作ってみると単純に布で包んであげたくなります。結果、だんだんパニエやドロワーズなど衣装アイテムが増えていきました。
衣装を着たところも可愛いのですが、会場ではコトリちゃんにはドレスを脱いで貰いました。ボディラインや肌の色など、作家が腐心したところをじっくり見て貰えると嬉しいです。
「翡翠(カワセミ)#2」
碧い瞳の少女です。
過去に、春秋山荘に飛び込んできた実際の野鳥・カワセミの印象を受けて、翡翠色の小鳥の侍女を制作しました。その子が早々に海外に飛び立っていったので「もう1羽作りましょう」と話していたのがようやく形になりました。
当時の鮮烈な印象から少し色褪せて、柔らかいブルーグリーンのシルク・シャンタンのドレスを着ています。腹部球体で胴体の可動域があり、眠り眼のコトリちゃんよりポーズに自由度があります。
こちらも脱がせて展示しようか迷ったのですが、両方すっぽんぽんもなあ…という事で、翡翠ちゃんは正装で会場に居て貰いました。
個展と同時発売の第二歌集『人形歌集 骨ならびにボネ』に合わせて、2人ともボネを着用。翡翠ちゃんは、歌集の青碧の色合いと偶然お揃いで嬉しいです。
「骨の葩(はなびら)- prototype」
個展のメインビジュアルに使用した、ビスク・オブジェです。
初めてのやり方で自分でもどうなるかわからなかったのですが「焼いてみて上手くいったらフライヤーに使いたいので、ちょっと待っててください」とフライヤー制作をストップさせてしまいました(すみません汗)
窯を開けてみて、細部が折れたりすることなく綺麗に焼きあがっていたのでほっとしました。一応プロトタイプという事で、また発展させていきたいです(でも試行錯誤の最初の最初が作品としては一番良かったりするんですけどね)
鳥の名を持つ少女達の魂が凝縮して、最終的にこの形に結晶し、産み落とされる…そんなイメージで作りました。白い骨が花ひらくイメージは、初期作品の「ひもろぎ」の頃から有り、第一歌集の帯に寄せてくださった今野裕一さんの言葉から喚起され形になりました。
言葉のイメージからぶわっと形になる、不思議な感覚から生まれてきた子達をぜひ会場で御覧ください。
【御予約はこちら】中川多理展「白堊――廃廟苑於」
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