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テロの原因となった風刺新聞、フランス人のユーモアとは?

Bonjour!
約1ヶ月ぶりの投稿になってしまいました。こないだ2学期の授業が全て終了し、留学期間もなんだかんだであと残り1ヶ月!

今回の内容は、日本人にはあまり馴染みが無いであろう、Journal satirique 風刺新聞についてです。こちらの大学でこれに関する授業を取っていたので、いつかこの話題で書きたい!ってずっと思っていました。

風刺新聞はフランスのユーモアの象徴であると言えると思います。皮肉で、大袈裟なことを好むフランス人はこういったものが大好きです。(みんながよく思い浮かべるパリジェンヌとは大違いかもしれませんが笑)

フランスの風刺新聞で思い浮かべるものといえば、2015年のテロ事件。「Charlie Hebdo」という風刺新聞で掲載されたイスラーム教預言者ムハンマドの風刺画が原因で起こった事件です。これをめぐってフランス国内では議論が白熱し、「表現の自由」を求めた大規模デモが起こりました。

この事件後も、Charlie Hebdoは過激な風刺画の掲載を続けており、その度にニュースになります。

フランス風刺新聞の歴史

Caricature 風刺画自体は17.18世紀から存在していましたが、その当時は旧体制(アンシャンレジーム)下にあり、検閲制度が厳しかったため、実際に風刺画が盛んになり始めたのは、1830年の七月革命以降。

印刷術や識字率の向上とともに、ジャーナリズムが盛んになり、風刺新聞も次々と創刊されました。フランス最初の風刺新聞として有名なのは、Charles Philiponによって創刊された、週刊風刺新聞「La Caricature」(1830年)と日刊風刺新聞「Le Charivari」(1832年)。

中でも、七月王政下で、当時の国王ルイ・フィリップを批判した風刺画として有名なのが、ルイ・フィリップの顔を梨に見立てて描かれた絵。Philiponが、風刺画家Daumierに描かせ、La Caricatureに掲載したのが最初。

この風刺画を始まりとして、梨がただの果物ではなく、反ルイ・フィリップ派の象徴となり、「無能のブルジョワ」という侮辱的な意味が含まれるようになります。

また、Daumierは16世紀の作家ラブレーの作品『ガルガンチュアとパンダグリュエルの物語』のオマージュとして、梨型の顔をし、巨人と化したルイ・フィリップが、市民から大量の税金を吸い取る様子を、メタファーとして描いています。

PhiliponとDaumierはこれらの風刺画を巡り、国王を侮辱した罪として、禁錮や罰金などの罪に処されました。
その後数十年の間、政府による検閲下にありながらも、風刺画の勢いは拡大し続け、1881年には遂にフランスで出版自由法が成立します。

それまでは、政府や国王に批判的な風刺画が多かったのに対し、1881年からは特に反ユダヤ主義的な風刺画が増え始めます。この頃からフランスでは、風刺画と表現の自由の間の問いが議論されています。

1881年に制定された出版の自由に関するこの法が、この自由の行使を「他人を害さない」範囲に限定したことに始まり、1972年の人種差別撲滅法、そして1990年のゲソー(Gayssot)法は、人種差別的表現、反ユダヤ主義的表現や否定主義的言説(大戦時のホロコーストを否認する言説)を厳しく禁じています。

現在のフランスの風刺新聞

現在、フランスで風刺新聞と呼ばれるものには「Charlie Hebdo」と「Le Canard enchaîné」があります。Kiosqueに売っているので、お土産?として買いたい方はぜひ笑

Le Canard enchaînéの方は買ったことがないのでここでは割愛するとして、Charlie Hebdoはこんな感じ。

2023/04/26発刊のもの

最近は、反年金改革デモが盛んなので、表紙としては、それに関する絵が多いです。年金改革強行によって国民からの支持が薄くなっているマクロン大統領が、支持を集めたがっているという内容。右側のマクロン大統領が、体についてるプラグを、左側のおじさんのコンセントに差し込もうとしています(割と下ネタギリギリな気もする表紙)。

新聞の中身はというと、

こんな感じで、風刺画だけのページもあれば、文章が書いてあるページもあります。
個人的には2枚目の一番左上の風刺画がお気に入り。5/1には、フランスでは大事な人にスズランの花を贈る習慣があり、花屋さんやスーパーではたくさんスズランが並んでいます。しかし、今年の5/1は大規模デモがあったため、”Cette année, le muguet sentira le pétrole!(今年はスズランではなくて石油の匂いがするね)”と書いてあります。

ちなみに、風刺新聞には写真が一切掲載されておらず、画家によって絵のテイストや過激な度合いが変わってくるので、見ていて面白いです。

フランス人の風刺画の捉え方

2015年には風刺新聞巡ってテロリズムが起こりましたが、実際にはフランス人の中には風刺新聞を肯定的に捉えている人が多いです。歴史的に、市民の力によって自由を掴み取った国だからこそ、「風刺画は政府批判の道具だし、政府の行動を監視する役割がある」という意見をよく聞きます。

フランスでは風刺画は身近な存在で、デモの時にも自分でプラカードに風刺画を書いて持って来ている人をよく見かけます。

フランス人にとって何よりも重要なのは「表現の自由」。2015年のテロ後も、イスラム教を侮辱した(?)Charlie Hebdoへの批判よりかは、表現の自由を求めた意見が目立っていたようです。

ちなみに、話は少し外れますが、フランスでは、文化庁がジャーナリズム企業に対して国家補助金を出しています。国家からの自立を確立すべく自由を求めてきたジャーナリズムが、国家によって介入されるのには矛盾を感じます。しかし、このフランス政府の目的としては、「ジャーナリズムが民主主義の秩序形成に重要な役割を果たすから」というもの。

内容としては、郵送費や電気通信費の免除、また広告収入が少ないメディアへの支給等を行っているそうです。
経済的に政府からの介入を受けているとはいえ、フランスの新聞を読めば、系統は様々ですし、政府を批判する内容の記事も多数見受けられるので、言論が統制されているなどということはありません。

この制度に関して、外国からの批判もあるようだけど、「フランスのメディアが国家に侵されることなんて絶対にないよ!」って友達は言い切ってた笑

最近炎上した風刺画

イランの最高指導者・ハメネイ師が、スカーフのかぶり方をめぐって逮捕された女性が死亡したことに抗議するデモが続いていることについて、デモの参加者を厳しく取り締まる姿勢を見せたことを受け、昨年12月にCharlie Hebdoが、MullahsGetOutという題で、イラン反政府デモを応援するという狙いのもと、ハメネイ師の風刺画を募集していました。

*Mullahは、イスラムのリーダー格の人物の呼称です。

そして記載されたのがコレ。女性がハメネイ師に歯向かっている様子を描いたものが多いです。そして、その時の特別号の表紙がこちら。

なんとも際どい。。。
“Mollahs retournez d’où vous venez(ムッラー達、元いた場所に帰ってください)”という題。まさにこれぞフランスのユーモア!と思いつつも、イスラム教を信じてる人からしてみればなかなか心が抉られる風刺画。

フランス風刺新聞の標的となった日本

日本で物議を醸した風刺画がこちら。
2020年東京五輪の開催が決定した直後、Le Canard enchaînéが日本での五輪開催を皮肉った風刺画。福島第一原発の放射能汚染で手や足が3本になった力士が相撲を取っています。解説者は “Marveillous! Grâce à Fukushima le combat de sumos est devenu discipline olympique…(福島のおかげで相撲は五輪競技になった)”と言っている。

これを受けて、当時の日本政府は「東日本大震災で被災した方々の気持ちを傷つける。」と述べ、公式に抗議したようです。

しかし、そんな日本の批判もフランス人には効きません。「本誌の読者50万人のうち日本人読者は51人だ。われわれが誰の感情を害したというのか?あの風刺画の標的は誰だったか?原発事故の犠牲者か、それとも放射能汚染を引き起こした企業と政府か。赤十字が、飢餓で死にかけた黒人の子供の写真を発表するとき、それは子供をさらしものにするためか。それとも子供の悲惨な状況に対する世間の無関心を訴えるためか」と、Le Canard enchaînéは次の号で答えたらしい(これのフランス語版が見つからず)。

確かにそう言われてみれば、原発問題の解決を差し置いて、五輪開催決定に浮かれている日本政府を皮肉っているとも考えることができます。


以上、ここまでいかがでしたでしょうか?
個人的には、フランスの風刺画のようなパンチの効いたものが大好きなので、日本にないのはちょっと寂しいな〜と思います。

一つの風刺画をとってみても、これまで生きてきた文化的背景によって、捉え方は様々なので、物議を醸すことが多くあります。移民が多いフランスなら尚更。でもフランス人は議論するのが大好きなので、ネタになる材料が増えるのは、楽しみでもあるのかもしれません。

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