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【創作】プレゼント⑤


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◇ ◇ ◇ ◇ ◇

■2018年1月23日
前から体の調子が良くなかったユミちゃんのママは、ユミちゃんに心配かけまいと、パパのお世話を頑張っていました。
だけど、とうとう倒れてしまいました。
ユミちゃんはお店を休んでママのいる病院に行きました。
ママは駆けつけたユミちゃんを見るなり、何度も「ごめんね、ごめんね。」と謝りました。
パパは車椅子に座って悲しそうな顔をしていました。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇

■2018年7月5日
ユミちゃんはママの看病とパパのお世話をするため、お店をやめてパパとママのいる家に帰りました。
ママはユミちゃんの姿を見て「本当にごめんね」と泣いていました。
ユミちゃんもママの姿を見て「無理させてごめんね」と泣いていました。
パパはユミちゃんに一言だけ「すまん。」と言いました。
そのうつむいた姿はまるで泣いているようでした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


この日から私はずっと母の看病と父のお世話をする日々が始まった。
働けない父の代わりにアルバイトをいくつも掛け持ちをした。
自分の時間なんてほとんど無かった。当然コウタに会う時間も。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

■2018年9月8日
ユミちゃんは大好きなコウタくんにプロポーズされました。
本当は嬉しかったユミちゃんだったけど、コウタくんのプロポーズを断りました。
ユミちゃんはママの看病とパパのお世話をしないといけないので、コウタくんと結婚してパパとママから離れるわけにはいきませんでした。
パパとママは何も言えませんでした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


コウタは遠距離になっても常に私を気にしてくれた。こんな私をずっと好きだと言ってくれた。
彼の気持ちに応えたかった。彼とずっと一緒にいたかった。
でもそれは出来なかった。
私は父のお世話と母の看病をしなければならない。
彼にその負担を背負わせるわけにはいかなかった。

彼は「ずっと待ってる。」と言ってくれた。
私はその言葉を聞いた時、彼をこれ以上縛り付けてはいけないと思った。
彼とはそれから少しずつ距離をおいていき、もう1年ほど連絡を取っていない。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇

■2019年7月20日
今日はユミちゃんの25歳の誕生日。
ユミちゃんは夜の海を見ながら泣いていました。
自分はこの世で一人ぼっちだと思っていました。
誰かに助けて欲しい気持ちでいっぱいでした。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇


本はここで終わっていた。
そして最後にこう書かれていた。



それでもユミちゃんは毎日とても頑張っていて、パパもママもみんなユミちゃんに感謝していました。


私が頑張ってる?何をどう頑張っていると言うのだろう。
私は毎日自分の人生に絶望して泣いているだけだ。
それどころか寝たきりの母を疎ましく思い、酷い事を言ったこともある。
何も言わない父を憎らしく思い、辛く当った事もある。
コウタと結婚できなかったことを両親のせいにして恨んだこともある。

そんな私を両親が感謝してるはずはない。
そんなはずはないと思ってるのに…気が付くと私は涙を流していた。

感謝して欲しくて母の看病や父のお世話をしていたわけじゃない。
私しか出来ないと、私がやるしかないと思ったからやっていただけだ。


『パパもママも感謝していました』


それでも私はこの言葉が本当に嬉しくて涙が溢れた。

私はずっと一人ぼっちだと思っていた。これまでもこれからも。
でもそうではなかった。
両親は私を必要としてくれていた。私に感謝してくれていた。
私は一人じゃなかったんだ。


とめどなく流れる涙が頬を伝い、そしてポツリと落ちた。


(つづく)


※参考:BUMP OF CHICKEN プレゼント

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ゴールデンウィーク中に完結を目指しております。
おそらく次回最終回です。

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