認知症は「なんでもアリ」の世界じゃない
こんにちは😃コッシーと申します。
愛知県で介護事業を運営している会社の介護事業部の統括責任者をしております。
さて、キングコングの西野さんが『ファンタジーの正体』というテーマでお話されていました。
ファンタジーは何でもアリの世界ではなく、その実態は、地層のように重なった知識と、数式と、理屈とのことで、全ての質問疑問に説明が出来ないと物語が成立しない、的なことを言われています。
これは本当にそう思います。
昔、『ブラックキス』という映画のDVDを見たのですが、主人公のモデルの女の子の周囲で起こる不可解な連続殺人、犯人は卓越した医療技術を持つ人間か、はたまた猟奇殺人を好むサイコパスか、いずれにせよ主人公の関係者で怪しい人が何人も出てきます。
一体誰が犯人なんだろう・・・どういうトリックなんだろう・・・とドキドキしながら見てたんですけど、なんと犯人は主人公の父親が雇った世界的なプロの殺し屋でした!
物語に一切出てきていませんでしたし、世界的なプロの殺し屋ということでもう何でも出来ちゃうんです。
この結末に「いや何でもアリかいっ!」とTVに突っ込まずにはいられませんでしたし、それまでの展開がドキドキだっただけに余計にがっかりしました。
このように物語というのは、どんな伏線に対しても論理的に説明ができないと、それまでどんなに面白いストーリーでも一気に興醒めしてしまいます。
むちゃくちゃな設定だったり、夢落ちだったり、嘘や妄想といった類で説明されてしまうととても残念な気持ちになります。
実はこういった考え方は介護をする上でとても大切となると思っております。
高齢になると物忘れが進み、こちらの言った事を覚えていない場合があります。
特に認知症のご利用者は短期記憶障害の影響で本当にきれいさっぱり忘れてしまう方がおられます。
だからと言って、どうせ覚えていないと何でもアリの対応をしてしまうと後で痛い目を見る事があります。
うちの入居者でKさんという認知症の女性の方がいます。
Kさんは普段は暴言や暴れたりすることもない本当に大人しく優しい方です。
ただごく稀に「娘に会いたい。娘は来ないの?」と嘆く事があります。
その時の感情の起伏はさまざまで、穏やかな時もあれば激しい時もあります。
前者の場合は、娘さんが来れない事を説明すれば納得してもらえますが、後者の場合はこちらの説明では収拾がつかず結局娘さんに連絡をして電話を代わってもらいなだめていただく事があります。
娘さんも「いつでも連絡ください」と言ってくれていますが、娘さんもお忙しいでしょうから毎度毎度かけるのはさすがに気が引けます。
ですので、出来るだけ僕らはKさんに娘さんが来れない理由を説明して納得してもらっておりました。
あれは忘れもしない大晦日の夕食後の事です。
Kさんが事務所まで来て、「娘は今日は来ないかね?」と聞かれました。
大晦日に、しかも夕食後に発動しちゃうのかーっと思いましたが、そこは僕もプロです。こんな事で動揺したりはしません。
笑顔で「娘さんは今日は来ないよ」と伝えました。
するとKさんは怪訝そうな顔をして、「おかしいね。毎年大晦日には娘が迎えに来て、娘の家で正月を過ごしていたはずだけど」と言われます。
僕は内心めちゃくちゃビックリしました。
実はKさんの言うとおり一昨年まで毎年大晦日に娘さんが来られてKさんを家にお連れし、正月明けの2日か3日に戻ってきておりました。
しかし昨年からKさんの足の具合があまり良くないのと、娘さんがお引越しされて階段が多くなったため、取りやめになりました。
昨年は事前に娘さんが来られ、その旨を説明したところ、大晦日にKさんが何か言う事は全くなく平穏に過ぎていきました。
しかしどうやら今年は違ったみたいで、しっかりと大晦日に娘さんが来られていた事を覚えていたみたいです。人間の記憶はすごい。
でも僕もプロです。そんな事は余裕で対処できます。
本当は昨年から娘さんは来ていません。しかしKさんの中では記憶が混在してしまっています。認知症の方にはよくある事です。
正論を述べても多分通用しないと思った僕は、とっさに「今年は娘さん忙しくて来れないと連絡あったよ。また年明けに来るって」と伝えました。
そんな連絡は娘さんからはありませんでしたが、口裏は後でどうとでもなると思っていました。
とにかくこの場を凌ぐ事だけ考えて、その時のKさんの気持ちなんて二の次になっていました。プロ失格ですね。ごめんなさい。
Kさんは「娘から連絡きたの?ホントに?」と何度か確認されました。
僕は何度も確認されるKさんに少し気が引けましたがもう後戻りできず「うん、そうだよ」と伝えました。
するとKさんは「あらそうなの…」と残念そうに居室へ戻っていきました。
納得してくれて良かったとホッとし仕事に戻りました。
5分くらい経ったころでしょうか、Kさんがすごい形相で足早に事務所まで来られました。
「何で私に代わってくれなかったの!!!!」
と怒鳴りました。
そして号泣しました。文字通り本当にワンワン声を出して泣きました。
その後は僕が何を言っても全くダメで、結局娘さんに連絡をしてなだめてもらいその場は事なきを得ました。
その次の日にKさんはまた「娘が来る事になっていると思うけど」と言われたので、今度は最初から娘さんに連絡をして電話を代わってもらいました。
おそらくKさんは居室へ戻って考えたのではないでしょうか。
娘はなぜ自分に連絡をくれなかったのか。施設の人間はなぜ電話が来たことを教えてくれなかったのか。そしてだんだんと腹が立ってきたのでしょう。居ても立っても居られず、再度事務所に来られたのだと思います。
高齢者、特に認知症の方がいくら物忘れがあるからと言って何でもアリではありません。
特に嘘は絶対に行けません。どんな場面においても、しっかりと納得のいく対応をする事がとても大切なのではないかと思います。
本当に苦い思いをしたプロ失格の僕が言うから間違いありません。
(今日からセミプロを名乗ります)
現場からは以上です。それではまた。
コッシー
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